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35  訓練という名の

それから私たちは、毎日いろいろな状況下での魔力コントロールを試すことにした。



ーーある時は。


「今日はこれを使って訓練を行いたいと思います!」


私はキッチンに向かい、とあるものを両手に抱えて戻ってきた。

ケンちゃんは私の手にしたものを見ると、静かに瞬きをした。


「……師匠。そのお鍋と、おたまは……」

「ん?訓練道具だよ」

「……なんだか嫌な予感がします」


私はソファに座ったふたりの間にお鍋とおたまを置いた。


「ではケンちゃん、説明するね。これは“叩いてかぶってジャンケンポン”っていう遊びなんだけど――」


ケンちゃんは静かに私を見る。


「……遊び、ですか」

「もちろん訓練だよ。遊びなんて言ってないよ。いいですか? ルールは簡単です!」


サラッと流して、私は説明を続けた。


「まず、二人でジャンケンするでしょ?

あ、ジャンケンってのは、こう、グー、チョキ、パーを同時に出すんだけど、

グーはチョキに勝って、 チョキはパーに勝って、 パーはグーに勝つっていう関係性ね!

ジャンケンのルールはわかった?ここまで、だいじょうぶ?」


ケンちゃんは自分の手を”グー””チョキ””パー”と変えながら頷く。


「それでですねぇ、ジャンケンに勝った方はおたまで相手の頭を叩く!

で、負けた方は、叩かれる前にこのお鍋をかぶる!

つまり、勝ったら“叩く”、負けたら“かぶる”。

これを一瞬で判断して動くの!簡単でしょ!

この訓練の目的は察しのいいケンちゃんならわかるね?」


「その前に、師匠を叩くというのは、僕には無理そうです」


「うん、ケンちゃんならそういうかなと思った。でもね、これは、それを踏まえての訓練です!!」


ケンちゃんは数秒考えた。


「……同時に反射と判断と心の動揺を抑える訓練、という解釈で間違ってはいないと思います。

ただ、この内容は、精神的な負荷が、僕の想定していた範囲をやや、逸脱しているように感じます。

師匠を叩くという行為は、僕の中の“理"に反して非常に、難しいです」


「うん、でもこれは訓練だからね。だいじょうぶ。じゃあ、いくよ!」


「待ってくださいと言って――」


「ジャンケンポン!」


私のグーに、ケンちゃんはチョキ。私の勝ち。


「はいっ!」


軽く、おたまでケンちゃんの頭をポンと叩く――つもりだった。


カンッ。


ケンちゃんは反射的にお鍋をかぶっていた。

その瞬間、ケンちゃんの周りの空気が微かに色づき震えた。


「おお、さすが、いい反応!」


「叩かれるのは、避けたいと思いましたので」


淡々としているのに、身体にまとう灰色の気配はまだ揺れている。

ケンちゃんはお鍋をそっと外し、呼吸を整えた。


二回目。


「ジャンケンポン!」


また私の勝ち。


「よし、今度こそ――」


カンッ。


またお鍋が間に合った。

今度は灰色が一瞬だけ濃くなった。


「くっ、ケンちゃん、速いねぇ!」


「師匠に僕を叩かせるわけにはいきませんので」


声は落ち着いているのに、案外魔力は落ち着いていない。ちょっとかわいい。

身体から漂う灰色の気配が、まるで“警戒”しているみたいに揺れていた。


三回目。


「ジャンケンポン!」


今度はケンちゃんの勝ち。


私が「あ、負けた」と思った瞬間――


スパコーンッ。


おたまが、私のおでこに直撃した。


「…………」


「…………」


二人とも固まった。

途端、ケンちゃんの身体全体から濃い灰色のもやが、熱を帯びてぶわあっと広がる。

が、本人は完全にフリーズしている。


「……し、師匠……?」


「……え?」


ケンちゃんの声が震えている。

私はおでこを押さえたまま、じわじわと込み上げてくるものを抑えきれなかった。


「……ふっ……」


ケンちゃんがビクッとする。


「し、師匠……?」


「いや……ちょっと……待って……」


そして――


「あはははははははは!!ケンちゃん!!反応めっちゃ速い!!おでこ直撃って!!

ていうか!! さっきまで“師匠は叩けません”って言ってたの誰!?うそじゃん!!

めっちゃ迷いなく振りぬいてたじゃん!!」


私はソファに倒れ込みながら笑った。

ケンちゃんのまわりの空気が少し熱を失って、ただ、揺れている。


「す、すみません……本当に……本当に……」


「いやいやいや!! 謝らなくていいから!!

むしろ“叩けません”って言ってたそばから、めちゃくちゃ綺麗に叩いてるのが面白すぎた」


ケンちゃんは耳まで真っ赤になり、視線を落とした。

そして、固まったまま、魔力を必死に抑え込もうとしている。

灰色の気配が、ゆっくりと静まっていく。


私は笑いすぎて涙が出てきた。





ーーその後は。


「ジャンケンポン!」


またケンちゃんの勝ち。

ケンちゃんはおたまを構えた。完璧なフォームで。


けど、叩かない。


続いて、


「ジャンケンポン!」


またまたケンちゃんの勝ち。

ケンちゃんはおたまを構えた。完璧なフォームで。


……叩かないけど。


このやり取りが、しばらく続くことになった。

もう、ケンちゃんの魔力が揺らぐことはなかった。


「いや、叩かないんかーい!

つい、こう、構えて待っちゃうからいっそ叩いて欲しいわ!」



そんな二人のやり取りを犬モンたちが呆れ顔でチラ見して"ふぁーあ"とあくびしていた。






「ごめん、ケンちゃん、これ、やっぱり単なる遊びだったわ。あと、ジャンケンめっちゃ強いのなんで?」






スパコーン

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