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51 秋の桜
秋が深まり銀杏が黄色く色づき、楓は鮮やかな橙色を映し出し人々が散策を楽しむ。
春にはあれほどたくさんの人が集まった桜には、秋になると皆が無関心を装う。
淡い桃色の花はないが、橙色に色付いた桜の葉も秋を彩る重要な一頁。
人影少ない秋の桜並木をゆっくり歩き、深まり行く季節を感じた。
52 変身しない
イイ子ぶっているわけではないが、頼まれた仕事は無理してでもこなす。
何でも引き受けるから相手は調子になって無理難題ばかり。
できなかったら何だか悪い気がして、別人格の人間に変身してやり遂げてしまう。
「無理です」
その一言が言えてからは変身せずに済み、夜も少しは眠れるようになった。
53 老害、黙れ
定年退職した勤務先では重要なポストに就き、今でも地球は自分を中心に回っていると思っているのか、
「注文してから何分経つと思っているんだ」
店内に怒鳴り声が響く。
「怒っても早く出ないんだよ、ねえ、ママ」
小さな子供の声に店内の緊張感は和らぎ、男性は顔を赤くして黙るしかなかった。
54 必死で考えた作戦
「寒いなあ」
「それほど寒くはないわよ」
「いや、寒いって」
初めて付き合った彼女と歩きながら話をしたが、作戦は失敗したかに思えた。
それ以上は何も言わずに歩いていると、彼女がそっと手を繋いできた。
「寒くなくても手は繋ぎたいから」
鼓動が極限まで早くなる僕に対して、彼女は笑顔だった。
55 幸せって
「回らないお寿司を食べに行きたいな」
「そうね、たまには行ってみたいかな」
「非日常的な世界を味わいたいな」
「もちろん非日常的な世界も味わってみたいけど、今だって温かさを感じて私は幸せよ」
雪空の公園で二人体を寄せ合って座り、コンビニで買った一つの肉まんを半分に分けて食べていた。
56 機械化の結果
自動化や機械化を称賛する人が多く、世の中のすべてを機械化すれば良いと言う。
人より安全で安定的で事故も起きないのが理由だろう。
停電した時や故障した時はバックアップマシンが直ちに起動し、人なんて必要がないそんな世界が目の前だ。
そしてあなた自身も機械に置き換えられ用済みで捨てられる。
57 人よりAI
「彼女と部屋で二人きり、ここからどうするの?」
彼はAIに尋ねた。
「私の腰に手を回してきたけど……」
彼女もAIに尋ねた。
二人はスマホ片手に尋ね続けて結ばれたが、長続きはしなかった。
AIは答えが早く頼りがいも優しも持ち合わせているから、人と付き合うのがバカらしくなったのです。
58 珍獣発見
座席が半分埋まっている昼下がりの電車に、一人男性が乗車してきた。
隣の人がバウンドするほど勢いよく腰掛け、荷物を隣の空席に放り投げてから自ら電話を掛け大声で話し出す。
多くの乗客が迷惑だと視線を送るが学生はスマホを向けた。
珍獣でも発見したように目が輝き、すぐSNSで拡散するのだろう。
59 便利という名の……
スマホが無かった時代が不便だと思った記憶はないが、無いのが当たり前だから気付くわけがない。
便利にはなったが頼りすぎて、今では無くなれば不便どころか生活や心にも支障をきたす。
一度手に入れた便利という名の悪魔を無くす勇気はなく、これからもただひたすら便利という名の毒を追い求めていく。
60 地震の恐怖
子供の頃からずっと、自分が住んでいる地域では地震はないと思っていた。
家を買う時に地震保険の保険料が高い地域だと説明され驚き、実際に大地震が起きて家は半壊しインフラは壊滅的な被害を被った。
今はどこでも地震は起きると理解しているが、どこが揺れてもケガした膝がうずき鼓動が早くなる。
次回は61~70です。




