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干天の慈雨  作者: ゆうま
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安成晶と妹の手紙⑥

懐中時計を取り出し10分経過したことを確認

階段を上り扉をノックする


「ようこそ」


そう言って出迎えてくれたのは若いのに白髪の男

広い部屋に机とソファ、簡易的な台所

随分殺風景な部屋だ


「人呼んで「人探しのシロ」。依頼の内容を聞こう」


手を広げる大袈裟な仕草

…この人なにしてんだろう


「鬘って高級ですよね。人探しってよっぽど儲かるんですか」

「いやぁ野暮な子だ」


指摘されてもはぐらかす気らしい

探してくれればなんでも良いし、事情に踏み込む気はない

答えないならそれで良い


「俺は晶。10分も立ちっぱなしで疲れたんです。座って良いですか」

「ふーん。じゃあお茶を淹れようか。麦茶と珈琲、紅茶どれが良いかな」


麦茶…か

一番安価で飲みやすいものだ

俺と美咲がいつも飲んでいた


「珈琲もらっても良いですか。飲んだことないんです」

「大人味だからかな」


飲んでこなかった理由はそれじゃない

子供に使う金をケチって夫に充てていた母親が理由


実際大人味だと言うのなら飲めないかもしれないけど

まだ19歳だから成人はしていない

そういう意味もそうじゃない意味も含まれていることは分かってる


「紅茶は飲んだことあるかな」

「一般的なものであればあります」

「了解。そこに座って」


少ししてカップが置かれた

向かいに座ったシロは自分のに紅茶を淹れている

そして手を付けない


「いただきます」


…苦い

ビールも苦いらしいし、煙草は煙たくて臭い

大人はどうしてこんなものを好むのか


「はい」


口を付けていない自分のカップを俺に差し出す


「すみません」

「いいや。早速だけど仕事の話をしようか」


ここでその話にならなければ歳の話になるだろう

この人は多分優しいんじゃない

他人に踏み込まない、踏み込まれたくない

ただそれだけ


「探してほしい人がいます」

「どんな人かな」

「名前は「なぎさ」。漢字は分かりません。12歳の男の子です」

「顔とか背丈とかはどんな感じかな」

「分かりません。会ったこともなければ写真はおろか絵すらないので」


シロは少しにやりとした

全く同じ文章だっただろうか

でも簡潔で伝わりやすいと思って予め考えた文章なんだから当たり前だ


「どうしてその人を探しているのかな」


その質問は意外だった

もう少し経歴なんかを聞かれると思った


「妹の友人で行方が知れないんです」

「会いたいのは晶クンじゃないのかな」

「妹は亡くなりました。手紙にあった願いを果たすため、俺が会いたいんです」


そう、これはあくまで俺自身のためにやっていること

死んだ人のために、とかそういうのは好きじゃない

なにをしても死んだ人はなにも感じることがないんだから


「期限はあるかな」

「願い自体にはないです。でも早く話しがしたいです」

「話し?」

「はい」


なにかおかしなことを言っただろうか


「晶クンと「なぎさくん」が話しをすれば妹さんの願いは叶うのかな」

「正直に言ってくれれば、ひとつはすぐに。もうひとつも時機に」

「早く叶えたいんだね。それはどうしてかな」

「それは依頼を受けるため、依頼を遂行するために必要な情報なんですか」


シロは小さく首を振る


「踏み込み過ぎたかな。ごめん。でも殺人に手を貸すのは嫌だからね」

「妹の願いは平たく言えばひとつです」

「なんだろう」

「「なぎさくん」の救済」


穏やかに微笑み一言


「それは良かった」

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