安成晶と妹の手紙⑦
「でも――殺人に手を貸すのは嫌だからね」
「妹の願いは平たく言えばひとつです」
シロが踏み込んだ質問をしてきた理由は分かった
答えるも答えないも俺の自由だ
でもその意志がないことを伝えるというのは必要なことだと思う
一番簡単で信じてもらいやすい言葉、俺の行動の理由である「妹の願い」
「「なぎさくん」の救済」
一瞬驚いたような顔をした
でもすぐに穏やかに微笑む
「それは良かった」
だけど
俺に殺されることを望む
そう本人がはっきり口にしたのなら――
俺は殺す
「俺だって出来れば殺人なんてしたくないですよ」
変装して誰も信用してないような顔をしても
こんな裏の仕事をしても
この人は生きることを幸せだと考えてる
それが間違いだとは思わない
だけど、正しくはない
だって幸せには生きてるだけじゃなれない
見つけなくちゃ、探さなくちゃ、駄目なんだ
「晶クンが定住するなら依頼を受けるよ」
「でも」
「大丈夫。定住していたって探せるよ。それに俺が情報を持って行くから」
「本当ですか。どうしてわざわざ」
確かにシロさんは色々なところへ行くのだろう
俺のところへ行くのなんてなんでもないことなのかもしれない
でもわざわざ提案することじゃない
「それは他の依頼が絡むから秘密だよ」
「その依頼は俺に関係してるんですか」
「それも秘密だね」
これ以上教える気はないらしい
だけど依頼人はひとりしかいないはず
「定住の候補地だよ」
5つの印がある地図を差し出される
予め用意していたということは全て計算通りってことか
「結局俺は「なぎさくん」の掌の上で転がされてるわけだ」
「それは―――」
一瞬俺から視線を外す
再び見ると俺の目をじっと覗き込む
「違うよ」
「一体なにが違うって言うんですか。シロさんとの出会いが偶然じゃないことくらい分かりますよ」
「いいや、全くの偶然だよ」
まだ誤魔化すのか
「明らかに挙動不審な晶クンに声をかけたのは俺の意志で、他の依頼と関わりがあるなんてそのときは知らなかったんだよ」
どこまで馬鹿にすれば気が済む
「どうして外で10分待っていてって言ったと思う?」
「変装するためですよね」
「違うよ。こんなのは30秒くらいで出来るからね」
同一人物だと認めるのか
でも普通、今の状況でとぼけるのは無理か
「晶クンが他の依頼と関わりがあると分かったからそれの準備だよ」
地図をちらりと見て俺に視線を戻す
「「なぎさくん」に会ったんですよね」
「名前は聞かなかったけど多分そうだね」
「どんな子ですか。どこに行くか言ってましたか」
シロはまた驚いたような顔をした
今度はそれを崩さない
「自分が馬鹿にされていると思って怒っているのに聞くのはそれなんだね」
「俺のこと心の中で笑ってたんですか。―――これで満足ですか」
「――そうだね。じゃあどちらにも答えようか」
ふっと穏やかに微笑む
「まず後者だけど、違うよ」
「だけど自分は会ったことがあ」
「屋根の上で寝ていたら急にやって来て依頼があるって言うんだ」
言葉を無理に遮られる
だけど穏やかで優しい表情を見て、なにも言えなかった
「俺はいつも違った変装をしていて何度も会った人ですら道ですれ違っても気付かないんだよ。でも「なぎさくん」は俺だと分かって依頼してきたんだ」
「依頼の内容はなんですか」
「それは秘密だけど」
「だけど?」
続きを促すと目を伏せて小さく息を吸った
「晶クンを定住させることに大きな意味があることは間違いないよ」




