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干天の慈雨  作者: ゆうま
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和咲と安成美咲⑨

「そんなにしたいなら私が相手をする」


嫌悪感たっぷりに吐き捨てるように言う

その台詞が妙に用具室に響いた


「へぇお嬢ちゃんに出来るのかな」

「気持ち悪いおっさんより健全な男子とやった方がマシ」


男たちが顔を見合わせ、そしてにやりと笑う


「それより、ちゃんと「買って」くれるんでしょうね」


いつになく挑発的に言う

そんなことをしたら手荒なことをされるんじゃ…


「前払いした。二重には払わねぇ」

「分かった」


刺々しく挑発的な言い方は変わらないけど素直に引き下がる

それになんの意味があるのだろう


というかボスに払ったのか

12歳の女子が好きな大男…

笑える

状況は全く笑えないけど


でも多分、ボスはどっちでも良かった

犯されているのをもう片方に見せるのが目的


いや、待てよ

ということは安成さんと僕の関係に気付いていたことになる

なんて嫌なヤツだ


男が手を持たれたまま安成さんの方へ歩く

僕が歩けるように腕の高さを変えている

ひとつの可能性が浮かびはした

でもだからなんだって言うんだ

脅されたから、本当は良い人だから、許せる?

そんなはずない


だけどそう仮定するならひとつ嘘があるかもしれない

それがどうしたって話だけど

もしボスに金を払っていないならこれは強姦だ

でもその辺はしっかり準備してそうだから突いても無駄な気がする


「そいつは言ってたぜ。罪悪感からお嬢ちゃんが引き受けるだろうってな」


…罪悪感?

ボスは気付いていない?

だったらどうして


「そして孤児院のヤツは自分以外への攻撃に弱い。だから見せてやれって」

「思惑通りってわけ」

「そうなるな」


それなら気付いていなくてもこうなったことに納得出来る

隣人を利用したのもそのためなのか


だけど僕が僕以外への人間の攻撃に弱いなんてとんだ見立て違いだ

僕は他人なんてどうでも良い


「そういうわけだから」


安成さんと僕を向かい合わせに跪かせる


「特等席で見てな」


確かに僕はなにが起こるのか分かっていた

でもそれは言葉としてだけだったのだと、知った


体験したこともなければ見たこともない出来事

男と女が凹凸を擦り合わせるだけ

それによってなにが起きるか、僕は知らなかった


紅潮する頬

時折漏れる聞いたことのない声

荒くなる息

下がる目尻

定まらない視点


「――――」


安成さんは確かになにかを言った

でもそれは僕に言葉として届くことはなかった

理由は分からない


安成さんが伸ばした手を、僕は取れない

両手は依然として男に掴まれたままだから


それは安成さんも分かっているはずなのに手を伸ばした

やっぱり僕がその役をやるべ―――


「っ――!」


そっと、優しく、僕の頬に触れた

そして穏やかに微笑んだ


――怖い


直感的にそう思った

言葉としては明確

それなのにどこかはっきりとしない

そんな恐怖を感じたのは初めてだった

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