和咲と安成美咲⑩
男たちは終わったらさっさと出て行った
クラスの女子2人は互いをちらちら見合っている
「アンタに挨拶をしたときの気持ちは嘘じゃない」
「でもそのせいで目をつけられた」
「それに、アンタがそのときの私たちを否定した」
「だからアンタに声をかけたこと、すごく後悔してる」
交互に言っているのに全く同じ気持ち?
そんなはずない
僕を後悔させるためのボスの手段だ
ここでそれを指摘することはボスの思うツボだろう
だけどなんと言って良いか分からない
ここは2人の発言自体には言及せず誤魔化すしかないか
「――もうなにを信じて良いのか分からない。あなたたち2人もどっちの態度を信じて良いのか分からない」
誰も信じてなんていないつもりだった
でもそんなことはなかった
隣人を、最初に挨拶をしてくれたこの2人を、私は信じていた
「嬉しかったのに、なんでこんなことに…」
蹲って泣いているフリをした
2人分の歩み寄って来る音が数歩
でもその歩みを止めるものがあった
「こんなところにいたのね。どうしたの?今日放課後お茶をしようって約束したじゃない」
「うん…ごめん。先生に急に片付け押し付けられて」
「でも終わったから。行こう。待たせてごめんね」
2人分の足音の響き方が変わる
「鍵はかけなくても良いのかしら」
「まだ片付けがあるみたいで預かってないよ」
「それより早く行こう」
「そうね」
2人に良心があって助かった
鍵を閉められたら翌朝まで待つしかない
僕は大丈夫にしても―――
「どうしたの?」
声の先には平然と立つ安成さんがいた
「早く出よう。本当に鍵を閉められると困っちゃうから」
「え、うん…」
まさか挑発するための嘘ではなく本当に
「本当だよ。幻滅した?」
「それが避けられないことだったり、どうしても必要な場合だってある」
安成さんが僕を守ってくれたように
「それを職業にしている人だっている。僕はそれを卑しいことだとは思わないよ」
「ありがとう」
「お礼を言うのは僕の方だ」
小さく笑って僕の頭に手を伸ばす
「っ!」
咄嗟に避けてしまった
それについて安成さんはなにも言わなかった
小さく微笑んだその表情は寂し気でもあった
***
「おはよう」
「おう、和。おはよう」
あれから特別変わったことはなく時は流れた
僕が全く気にする素振りを見せないからなのか
自分がしたことを隠したいのか
隣人とは変わらない関係でいる
安成さんとは少し関係が変わったように思う
理由は触れられなくなったことが大きい
どうしてもあのときのことを思い出して怖くなる
それは日に日に大きくなっていっているような気がする
最近は他の誰かと軽くぶつかってしまっただけでも恐怖感がなにかを煽る
自分から触れることなんて無理だった
「なぎさくん」
それでも安成さんは放課後屋上へ行くと僕に優しく呼びかける




