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双子獣人と不思議な魔導書  作者: 夜色シアン
第二幕・牙を穿て
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2-21錬詠唱

魔導書を盗んだ少年はグニパヘリルの先に消えてしまう。グニパヘリルは通行証が必要らしく情報を集めるのだがーー



「……まぁ、まだ戻ってくる気配はないから教えてやるよ……と言いたいところだが、あんた古代文読めるかい?」


「恥ずかしながら全く……」


「いや、別に恥ずかしいことではないけどね……古代文はとうの昔に消滅したって言われてるくらいだから……でも、読めないってんならまだ早いね」


「なんでですか!教えてくれるって言ったじゃーー」


錬詠唱(オーダー)を教えるなんて一言も言ってないんだけどね。……まぁ、そうだね。何分古代文を使う魔法だから、読めないと困るね」


 ここまでの説明を聞きつつ、再び暗い顔を見せるハティ。しかし九尾が何度も言う“古代文”に引っ掛かりを感じていた。


 というのもつい先日、古代文を見ていることについてだ。二度唱えた〈擬態(カモフラージュ)〉の詠唱文は難読の古代文。もし彼女の言うことが本当だとするならば……


「〈擬態(カモフラージュ)〉も錬詠唱(オーダー)なんですか?」


「最初はね。魔導書に綴られ、今の世の中になったからこそ省略詠唱で唱えることもできる。それがどうかしたかい?」


「い、いえ……お母さんって本当に魔法使いだったんだなって」


「……あー、なるほどね。確かに〈擬態(カモフラージュ)〉を編み出したのは、あのクソ女さ。さすが国一……いや、ユグドラシル一の大魔法使いだ。ただ、あの魔導書はどんな原理なんだろうね……魔導書が勝手に詠唱を綴る……まぁ、あのクソ女だ。できないことは無いか!」


「ってユグドラシルで一番!?」


 ユグドラシル。それは世界。それは大陸。それは宇宙。時には世界樹なんて噂も出回っているが、それらは全てユグドラシルであり、ユグドラシルではない。


 少女達が地に足をつけているひとつの大陸もまたユグドラシル。


 そのユグドラシルの中で一番の魔法使いだったフェンリル。ならばなぜ、過ちを犯し処刑されたというのか。それは九尾ですら知ることの無い歴史。


 否、九尾は知っている。フェンリルの子が目の前にいるのだ、わざと知らないふりをしている。なにせ九尾も錬詠唱(オーダー)を使え、魔導書もフェンリルと共に作ったくらいだ、過ちの真相も仕組みもたかが知れている。


「ま、古代文は後々教えてやるとして……ん?もう帰ってきたみたいだね」


 ふっと街の方に目線を向けると確かにスコルとウォンの姿が見えてくる。互いに視力が良いのは知れているため、自然と向こうも気づいているのはわかるが、肝心の茶色く分厚い魔導書が見当たらない。唯一あるとするならば、来る途中食糧として、取っていた猪のみだ。


 程なくして少女達は合流を果たし、起きたことを隠さず言い合うと共に街の中へと歩いていく。


「ーーなるほどね。冥府の門であるグニパヘリルに……それは困ったね……」


 街中で猪を食べれそうな場所を探しつつ、ウォンの話を聞いた彼女は険悪な表情を浮かべ始める。


「どうしてだ?通行証あればいいんだろ?」


「そういうわけじゃなくてね。ヘルヘイムの長がね……」


「こ、怖いんですか……?」


「……あぁ、怖いさ全身筋肉痛で顔なんて般若みたいなもの、それに鎌を持って……死体はいねぇかぁぁぁって聞いてくるやつさ」


 否である。彼女はただ少女達を怖がらさせたかったに過ぎない。現にハティが若干涙目である。少女はどうやら怖いものが苦手なようだ。


「ま、冗談は置いといてだ、私がフェンリルをクソ女って呼ぶようになったのは、こっからでね。幼いヘルに治らない傷を負わせたのさ。それも()()にね。そんときは私に泣いて飛びついてきたよ……どうしよう〜!ってね」


「そ、そのヘルって子は……」


「生きてるさ。それもヘルヘイムの長。だから困ってるんだ……早くヘルヘイムに向かわないとね」


「そのためには情報収集だな」


 しかし、彼女達が思ってるほど簡単に情報は集まらず、街の中をひたすらさまよい続けた。結果、情報よりも先に宿泊施設と料理店を見つける。


 先に情報を集めるべきだと言うのもも、ウォンの身体は自然と料理店に導かれる。食欲旺盛が故に彼女の進路は変わることなく、ひとつの料理店に足を踏み入れる。


 すると、先程グニパヘリルの先に消えていった盗人が、その料理店で呑気にくつろいでいた。


「ーー何故お前がここにいる!盗人!」


「げっ!さっきの猪女!そして人狼!」


「おい、魔導書はどこだ」


「教えないね!悔しかったら意地でも探してみなよ!」


「ならいい」


「……なぁこいつって本当にお前らの仲間なのか?」


「い、一応……」


 相変わらずウォンは少女達の事情など知らないと他人事にする。いや、確かに他人だが、一緒に旅をする仲。なのにも関わらず他人事で、担いでいた猪をドンとカウンターに置く。


 しかしあまりにも冷たい対応だと、敵である少年も心配してしまっていた。

読んでいただきありがとうございます。

今回から前書きはあらすじ風にしてそんなに書かないことにします

(書くの大変だし)


後書きも書くことなくなってきたので次回予告のみになると思います。


てなワケで次回は明日!

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