2-22九尾の能力
料理店に導かれる様にして足を踏み入れると、盗人のツクヨミが呑気にくつろいでいたのだがーー
材料持ち込み可の料理店にて、猪を使った料理が振る舞われた数分後。
盗人少年は逃げられないようにと料理を振る舞われ、その場に残っていた。
「ところでガキ」
「おい、僕はガキじゃないぞ!」
「私からしたらみんなガキだ。それよりもグニパヘリルを通ったってことはヘルの関係者かい?」
ヘルの名が九尾の口から流れ出ると、きょとんと力が抜けた顔を晒す。
「ヘ、ヘル様のことを知ってるのか……?」
「まぁね。こいつらの親と関係があるくらいだ」
「……ヘル様を知っているのであれば、話は別だ。狐と人狼だけ着いてこい」
「私は!?」
「獣臭いから嫌だ。それにヘル様のことを知らないだろ」
「うぐっ……」
「というわけで三人とも着いてきて。魔導書もそこにある……返してもらえるかは知らないけど」
ウォンは男寄りといえど、内心は乙女。本当の男に臭いと、獣臭いと言われてはかなわなく、酷く落ち込んでしまう。だが、人狼少女も九つの尻尾を持つ彼女も、ずっと猪を担いでいれば仕方ないと、励ましの言葉はかけることはなかった。
「ウォン。とりあえずあんたは氷獄の実を付ける木を探しな。元々それが目的で来てるんだしね」
「あ、あぁ……ついでに風呂も入っておく……」
その言葉を最後に、少女達とウォンは一度離れ離れになる。
再び時間がたち、夕方。真っ赤に燃える太陽が沈む頃ーー極寒の地では太陽は完全に沈まないがーー少年の歩みを頼りに路地裏を歩いていた。
「ところで〜君は誰なの〜?」
「僕はツクヨミ。それ以外は教えない」
「ケチ〜」「ケチですね」「ケチだね」
「そんなにケチって言わなくても!?……でも教えないものは教えないんだ。さ、着いたよ」
雪が降り頻る中、入り組んだ道を進んだ先に開ききった一つの黒曜門が現れていた。
更に門の前には、番犬ことガルムも立っている。そのことから黒曜門はグニパヘリルだと、冥府の門だと一目でわかる事になる。が、先ほどの路地裏とは全く別の路地裏。背景も違ければ、建物も違う。唯一同じというならば、雪が降っている事だけだ。
「おかえりなさいです。ツクヨミ……ってさっきの*@!J!ってあれ?あの暴力女は居ねぇです?」
「ウォンなら〜ガルムの後ろにいるよ〜」
「なっ!?って居ねぇです!騙されたのです!このガルムを騙しやがったです!!」
「何やってるんだい……ウォンなら別行動中さ。あいつが何やったかは……なるほど、ウォンが失礼したね。耳痛かったろう?」
ピクっとピンと立った金色の耳を揺らしたと思えば、その場にいなかったはずなのに、まるで全てを見たかの如くウォンの行動を言い当て、謝罪する。
これが彼女の情報網の正体。優しく吹き付ける風の声を聞き、大地の声を聞き、あらゆる物体、生物の声を聞き情報網は成立している。もはやユグドラシルそのものが記憶に等しいが、厳密には違う。彼女ですら知らないものも世の中にはあり、全てを聞き、知ることができないからだ。
とはいえ、今はその能力に驚き、ガルムが固まってしまっていることが問題ではあるのだが。
「仲間がした事は、私にも責任があるからね。本当は嫌だが詫びに私の尻尾、一本だけ触っていいぞ?」
「あんなに嫌がってたのにあっさり!?」
「酷いよ九尾〜」
「たわけ、一本だけだって言ってるだろう?それに詫びのつもりだ。私の尻尾はもふもふで気持ちいいと評判がよかったからな。特に目の前の二人から」
しかしやはり抵抗が生まれ、直ぐには尻尾を差し出すことなかった。
とはいえ、確かに金色で丁寧に手入れされた尻尾は、今でも見るものを魅了させまいと香り良く、触りたい邪念を増大させる程ふわっとしている。暖を取ることもできるし、九本使えばもふもふコートにもなる優れた尻尾ならばこそ、詫びになるとふんだのだろう。
そして刹那。ガルムは無意識のうちに九尾の尻尾を触り始めた。
さわさわ……
ふわふわ……
もふもふ……
と双子がやったようにこれでもかとモフり倒す。
「はぁう……こんな上玉をぶら下げてるなんて……羨ましいです。どうやったらこんなに柔らかくなりやがるですか……どうやったらこんなに大きくなりやがるですか!」
「お、お前さんもいいのを持ってるだろう……うひゃう!……さ、触り方が激しくないかい……」
「そんなことねぇです!ここまでもふもふで……もちっとしたような触感。と思えば凄くサラサラしてていつまでも触りてぇです!いや、お布団代わりにしてぇです!」
「それはできない!というか、もういいだろう!?ふにゃ!?」
「離さねぇです!この尻尾はもう私のものだです!」
「お、お前さんの物じゃない!私のだ!……ふやっ!な、なぁもういいだ……うにぁ!そこはっ!」
さわりさわり、もふりもふり。尻尾はまるで枕だと、顔を填めて行く。
ガルム本人が満足するまで。その地獄?は終わるとなく続いた。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
久々のもふもふ回。楽しんでいただけましたか?
次回はとうとう死国、ヘルヘイムへ!
お楽しみに!




