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6話

 夜叉五大将やしゃごたいしょうのうちの一人、博叉バクシャを倒した杏琳きょうりんは、早速次の行動に移ろうとして晴開せいかいをせかせて告げる。


「そんなことより、主上にこのことを伝えなきゃ!!あなたは”白龍の龍召士りゅうしょうし”でしょ?私と一緒に王都のじゅんしょうにあなたも行くのよ!!」

「俺も行くの!?何で一緒に行かなきゃならないんだよ!?」

「当たり前よ!!あなたは”白龍の龍召士”として龍鳳界りゅうほうかいに転移したのよね。この秋兌国しゅうたいこく天魔てんま夜叉五大将やしゃごたいしょうとその眷属によって、一ヵ月前から各地で民草を襲って殺戮を続けているの。その為には、あなたが白龍を召喚してそいつらを仕留めなきゃいけないのよ」

「あぁ、ここに転移する前に玉帝に言われたな。この秋兌国を救うには俺が必要だとか。杏琳はよくそれを知っていたな」

「主上はそれ以来ずっとあなたが龍鳳界こっちに転移してくるのを待ちわびていたのよ」


 改めて晴開は、玉帝ぎょくていによってこの世界に転移された経緯を思い出す。それと同じことを杏琳が知っていたことに彼は感心した。


 すると杏琳は晴開に背中を向けて何処かへ歩を進める。その先には、一頭の馬がいた。


 どうやら彼女がここへ来たときに乗った馬なのだろう。そして彼女はそれに跳び乗ると、振り返って笑みを浮かべた顔を晴開に向けてきた。


「早くしてよ。一緒に来てくれないと困るんだから。ほら、私の後ろに乗ってよね」

「はァ!?どういうことだよ!?後ろに乗れっての!?」

「何よ?嫌なわけ?じゃあ、そこにいたままだと野盗にでも襲われるわよ」

「分かった、分かった!!だから、待てっての!!」


 馬に乗った杏琳に一緒に乗るように促された晴開は躊躇ってしまった。


 何故なら彼は、初心であるあまり異性の身体に触れることが、幻世げんせで二人の彼女と付き合っていた時から抵抗があった。

 しかも彼女らからもフラれて、異性との関わりを拒んでいた矢先のことだった。

 

 それでも彼は、自分の身に再び危機が襲うことを指摘され戸惑った。


 そうならぬよう、彼は離れていく杏琳に向かって駆けていきつつ声を上げる。


「待てよ!!お前がここに来たのは幻世ここに俺が転移したからなのか?それとも、さっき敵が言ってた冬坎国王とうかんこくおうの兄の泉孝然せんこうぜんが、秋兌国に来るのを分かってたのか?」

「どちらか言うと、後者なんだけど。主上の命でね。幻世から転移した時に、あなたがいるとは思わなかったし」


 それは単なる偶然ではあるが、晴開は杏琳が来たことを奇遇だと思った。しかし彼は、その件で疑問に思ったことを杏琳にぶつける。


「それは分かったが、孝然は男なのに王にならないで、この秋兌国に来て誰に婿入りするんだよ?」

「この国の女王の鉱曾叔こうそうしゅくの娘の蓉彩ようさい様よ。孝然殿が彼女に婿入りするのは、龍鳳界を構成する鸞四国らんしこくの4ヵ国のうち、この秋兌国と冬坎国の2ヵ国の王は女王でないといけないのよ」

「何で、女王でないといけないのか?」

「だって鸞四国の王は、4人ともその地を龍鳳界が創られて6,459年間もずっと治めていたのよ。でも冬坎国の主上のせんけいしょうは一ヶ月前に崩御したから、今は娘のせんすうが統治しているわ。孝然殿は彼女の長男で彼女の兄だけど継承権は無いのよ」

「えぇ!!6千年も前からそうだったのかよ!!確かに、どっちの国もそういう事情があったんだな」


 その二ヵ国の王の性別が女でなければいけない理由を知り、晴開は素っ頓狂な驚声を出してしまった。


 それでも彼は、疑問が残る。なぜそんなにも前から鸞四国の王は各々がその地を治めていたのか、彼らがなぜそれが可能なのか杏琳に聞いた。


「じゃあ、鸞四国の王は不老不死なのか?」

「ええ、そうよ。15年前の"陽呑ようどん“が起きるまでは、泉慧祥と他の二ヵ国の男の王もね。」

「何だよ……“ヨウドン“って?」

「それまでは鸞四国は鳳王朝ほうおうちょうとして龍鳳界を統べる一つの王朝だったの。この龍鳳界の中央の鳳山高原ほうざんこうげんに王都があって、鳳皇ほうこう凰后おうごうの両陛下が治めていたわ。でも、15年前の”陽呑”と言われる”太陽が闇に呑まれる(・・・・・・・・・)”という凶兆が起きて……」

「それが起きてどうなったんだよ?」

「”羅睺ラゴウ”と”計都ケイト”の二体の天魔らが率いる多くの眷属が現れて、鳳山高原もその巣窟と化して廃墟になり、彼らは崩御したの。その子息四人きょうだいの各鸞四国王は不老不死ではなくなったのよ」

「要するに”陽呑”というのは日食みたいなものか。それで鳳王朝が鸞四国に分かれて、互いに自分の子を婚姻させて王位を継承させているということなのか」


 ここまでのいきさつを聞いた晴開は納得した。彼は不老不死でなくなった鸞四国王が自分達の跡継ぎを遺すために、王族同士が鳳皇と凰后の血を絶やさないように努力していることを理解した。


 だが、杏琳の中で次第に自責の念が募ってきた。自分に追いついてきた晴開に気づいた杏琳は、その胸の内を馬を進めながら落ち込んだ様子を話を進める。


「そんなことより、私がここに来るのが遅かったから、孝然殿があんな目に遭わずに済んだのに……」

「それは、お前が悪い訳じゃねぇよ。俺を助けてくれたじゃないか。それに夜叉五大将の博叉を倒したじゃないか」

「あなたを救うことが出来たけど――――このような凄惨な事態を起こしたたのは、きっと彼女の父で王配殿下の所為だわ」

「”王配殿下”って、女王の夫ってことか?そいつがどうかしたんだよ?」


 自分の記憶を振り絞って、女王の配偶者のことを”王配”ということを思い出す。一方杏琳は顔を俯け奥歯を噛み締めた。


「そう、あなたの言う通り主上の配偶者になるわ。その炎蔣于えんしょううは自分の娘の婿入りに反対していたから、夜叉五大将とつながっていて、その一人に孝然殿を生き埋めにさせたのよ」

「そいつも、孝然と同じように他の国の王太子なのか?」

「蔣于は秋兌国の南隣の夏離国王かれいこくおうの次男になるわ」

「でもそいつが蓉彩の婿入りに反対していたからって、夜叉五大将がそいつの差し金だって分かるのかよ?」

「だって彼は一ヶ月前に蓉彩様への婿入りが決まった時に王宮を出て行ったから。きっとそうよ、夜叉五大将がこの国に現れたのもその頃だったの」


 秋兌国において複雑な事情があることに、晴開は心を痛め深刻な面持ちとなってしまう。


 杏琳がやるせない気持ちを抑えきれない程俯いてたが、晴開は改めて彼女に切り出して声をかける。


「蔣于が夜叉五大将とつながっているなら、そいつらを叩きのめさなきゃダメじゃないか。だから俺が”白龍の龍召士”だから白龍を召喚出来るようにならねぇと」

「そうね。でもそのためにはどうすればいいの?」

「それが玉帝が言うには、この国のどこかにある白龍が祀られている”白龍はくりゅう”へ行って、白龍の封印を解かないといけないんだ」

「それがどこにあるかということね――――それなら」


 晴開の本来の目的は、秋兌国が抱えている問題の解決であることを示した。

 それを達成するために、彼は杏琳に白龍祠の場所を聞くと、どうやら心辺りがあるようだ。


「私は知らないけど、妹の桃瑚とうこなら知っているかもしれない」

「その桃瑚ってどこにいるんだ?閏商にいるのか?」

「私にも分からないのよ。あの子、薬草の採取が趣味で、秋兌国中の山野を巡っていてどこにいるのかさっぱりなんだよね」

「そうか……これじゃあ、一体どうすりゃいいんだよ?」

「まずは、主上の元へ行かなければならないから、そちらを先に済ませなきゃ」


 こうしてすっかり日が暮れてしまい、彼らは土砂崩れの現場から王都の閏商へと足を進めたのであった。

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