第04話 06 始祖魔神
「俺はなんで生きているんだ・・・」
何のことはない疑問を浮かべる・・・否、それは当然の疑問だ。水晶の封印が解けて約100年、通常の人間なら年老いて果てる時間である。
「俺はいったいどうしてしまったのか・・・」
ウェインは自分の手のひらを凝視して呟いた。
「お前は、始祖魔神というものを知っているかい?」
ふいに後ろから声が聞こえた。
「誰だ・・・」
静かに声の主に質問をする。気配のなかったウェインの背後に、銀の混じった白髪の長髪に中肉中背の体格に赤色のローブを肩から羽織った男が立っていた。
「フフフ・・・そうだねぇ・・・」
男は少々もったいぶって答える。
「私の名はギム・・・君とは仲良くやれると思うのだがね・・・」
自分をギムと名乗った。
「何者だ・・・」
取り付く島のないウェインはさらに質問する。
「そうだねぇ・・・この世界で神より前に存在した三人の魔神を知っているかい?」
「・・・それが始祖魔人というというのか・・・?」
「そう、混沌の中から生まれたという三人の魔神・・・一人の名はニカ・・・」
ニカ・・・聞いたことのない名前だ・・・
「もう一人は・・・君の憎き男・・・シガ・・・」
ウェインの眉が動いた、気に食わない男の名前だ。
「最後の一人は・・・ギム・・・」
「!!」思わず息をのんだ。そんなウェインを横目に続ける
「そう・・・私のことだ・・・」
ウェインはそう言葉を発する男・・・ギムを見た。
楽しそうに薄笑いする男がそこにいた。
「お前がその始祖魔神の一人だというのか。」
薄笑いはそのままに「そうだよ」とあっけらかんと答えた。
「なら・・・俺よりも強いということか?」
「さあね・・・俺等は強くもあり弱くもある。」
意味の解らないことを言ってきた
「しかし・・・君が今までと同じ力を振るうなら、それには負けないと思うよ。」
さらりとそう言った。
刹那
ウェインがギムに向かって剣を薙ぎ払った。容赦のない・・・殺意の籠った剣だった。
「おやおや・・・物騒だねぇ・・・」
何事もなかったかのように涼しげな声がギムから聞こえた。
「!!」ウェインの剣は何かに阻まれるようにギムの体の手前で止まっていた。自分が使う障壁のようなものだと判断した。
「君の勇者の剣は貧弱だねぇ・・・」剣に視線を送りながらそう言うと、音もなく木が焼けるかのように黒く色づき始め、サラサラと塵となった。
「!!」バカな・・・いくら強力な障壁があったとしても、強力な守護のある剣がこうも容易く消滅させられるとは・・・。ウェインは「本物か・・・」と忌々しく呟いた。
「まぁ、君に害をなそうとしているわけじゃないよ。」
といって右手を空間にかざすと、その手にまるで鳳凰の羽根を思わせる紅いロングソードが出現した。
ウェインは身構えた。するとその剣先を左手で持ち直し、ウェインに柄を向けた。
「君には、この剣が相応しい。」
ギムはニヤリと笑った。
「・・・お前に‥なんの得がある・・・」
見るからに強力な剣を差し出され、ウェインは怪訝な口調で聞く。剣からはとてつもない魔力も感じる。
ふふんと笑いながらギムは答える
「シガを殺したいほど嫌いなんだろ・・・俺もそうさ・・・シガは気に食わない・・・」
口角をあげ、にたりとした笑い顔でギムは言う。目は笑っていなかった・・・。
その言葉を聞き、ウェインは差し出された剣を取った。
ズウンと魔力が自分に流れてくるのが分った。今までの勇者の剣とは比べ物にならない程の魔力量だ。
「その剣の名はラグナロク・・・世界を滅して滅ぼす剣さ・・・」
ギムはそう言うとゆっくりと消えていった。
“君には、この剣が相応しい。”
遠くを見るような瞳で剣・・・ラグナロクを見る。
「ラグナロク・・・破滅を導く剣・・・というわけか・・・・」
ウェインは呟いた。
第04話は、話の風呂敷を広げるお話しです。まだもうちょっと違う風呂敷もあったのですが、物語の根幹付近の話のみにしました。
このサイズの風呂敷ならちゃんと畳める・・・・はず・・・・です