第14章 呪いの魔力
3人はブラスヒルデを見届けた後、ホスピタルへと戻る。
「さて、次はザムア達の約束だな。」
ホスピタルの扉に手をかける。しかし、その扉はクラウィスが力を籠める前に突如開いた。
「パパ!!」
扉を開いたのは、ミロンだった。そのままクラウィスに抱き着く。それを少しよろめきながら受け止める。
「ただいま、ミロン。」
抱きかかえたミロンを見つめるクラウィス、ミロンの目は真っ赤に腫れて、泣き明かした後といった様子だった。
「クラウィス・・・。」
ミロンの後ろから、シィルが目を潤ませながら3人を見つめる。
「シィル、ただいま。」
ミロンを抱きかかえたまま、クラウィスはシィルに近づく。その時、少しの違和感を感じる。
「・・・アクアンはどうした?」
その問いかけに、ゆっくりとアクアンズロッドをクラウィスに見せる。
その様子を見て、クラウィスは涙の理由が自分の帰還では無い事を把握した。
「・・・俺の仕事だな。」
アクアンズロッドの先端に取り付けられた宝石が黒くよどんでいる。
それを、クラウィスの肩越しに見ていたザムアが思わず声を上げる。
「あの宝石・・・。」
ザムアがその宝石を見つめて、状態を口にしようとするが、クラウィスが止める。
「ザムア、すまないが、レンタルは明日にしてもらっていいか?」
「判ったわ。ハール、今日は帰りましょう。」
ザムアが後ろで待っていたハールに声をかける。ハールは、少し心配そうな顔をしていたが、すぐに明るい顔に戻り、頷いて答えた。
「クラウィス、私達の用事は、落ち着いてからでいいわ。時間はたっぷりあるから。」
「すまない。」
申し訳なさそうに答えるクラウィスに、ハールは手を振って返す。
「じゃあ、また来るわね。」
2人がホスピタルを後にする。そして、クラウィスはアクアンズロッドを受け取り、工房に向かう。
「シィル、ミロンとアクアンをありがとうな。」
「クラウィス・・・。」
暗い表情を隠せないシィルに、クラウィスは肩を掴んでゆっくりと頷く。
「治す方法は判ってる、だから、心配するな。」
「手伝えることはある?」
「ミロンを寝かしつけた後でいいから、魔力吸収剤を工房に持ってきてくれ。」
クラウィスに頷いて見せるシィル。その顔は、さっきとは打って変わって明るさを取り戻していた。
それを見て、安心したクラウィスはアクアンズロッドを手に工房に籠る。
それから、数時間後、扉をやさしくノックする音が工房に響く。
その音を聞いて、クラウィスは作業の手を止め、扉を開ける。
「クラウィス、お疲れ様。調子はどうかしら?」
「ああ、準備は出来た。そっちはどうだ?」
「これでいいかしら?」
シィルが手のひら大の小さな箱をクラウィスに渡す。
その箱の中には、闘技場でブラスヒルデからもらった物と同じような球体が数個入っていた。
「これだけあれば、十分だな。」
「私も、見ていいかしら?」
「ああ。」
クラウィスの許可が出たシィルは、工房の隅に置かれている椅子に座って、クラウィスの仕事を眺める。
シィルに見つめられているクラウィスだが、この状態は慣れているようで、作業の速度は落ちる事が無い。
「クラウィス、今は、何をしてるの?」
「魔力吸収剤用のアタッチメントを付けているんだ。」
クラウィスは、アクアンズロッドにいくつか穴を空けている。
「軸に・・・宝石にも空けるの?」
「ああ、その穴に、この鎖を取り付ける。」
細く小さな鎖を穴に通し、小さなメダルを模したアタッチメントと結びつける。
「これに、魔力吸収剤を取り付けるのね。」
シィルの言葉に、クラウィスは首を縦に振る。
そして、魔力吸収剤を手に取り、メダルのアタッチメントに取り付けた。
「もう一つ取り付けて、しばらくは放置だな。」
「しばらくって、どれくらい待つの?」
「まずは、魔力吸収剤に変化があるのを確認できる1時間ぐらいか。」
工房の奥に置いてある大きな砂時計を持ち出し、ひっくり返した。
それと同時に、クラウィスは大きく息を吐く。
「アクアンが、眠りについていてくれて助かったよ。」
「そうね。」
修理のためとはいえ、自分の憑代にパーツを取り付けられるのは、精霊としては気分はよくないだろう。体調不良ならなおさらだ。
そう思いながら、クラウィスはアクアンズロッドを台座に立てかける。
「ところで、逃げている間に何があったのか、教えてもらえるか?」
クラウィスはシィルに一番の疑問を投げかける。
闘技場に居て、魔力の発生源に近いクラウィスには影響がなく、遠く離れたはずのアクアン達にこんな影響が出たのは考え辛い現象だ。
「あの魔力、なんの種類の魔力だったか、覚えてる?」
「魔力の種類か・・・確か、闇属性だったと思うが。」
シィルの一言で、謎が一気に答えに変わっていく感じがするクラウィス。
「地面を通じて、闇の魔力が広がったのか!?」
クラウィスの答えが合っていたようで、シィルは首を縦に振る。
「気が付かなかったのは、闇の魔力に耐性がある者ばかりだったからか・・・。」
闇属性の魔力に多少の耐性を持つクラウィスとブラスヒルデと、そもそも闇属性の魔法が効かないザムアとハール。
闇属性の魔力の暴走が危険だとは感じていたが、彼らの危険と感じるボーダーが高すぎた。
「すまなかった。俺が逃げるように言ったせいで、逆に危険に晒してしまったんだな。」
あのままクラウィス達と一緒に居れば、アクアンの異変に気付いて対策がとれたかもしれない。
今更ながら、自分の判断が甘かったと反省するクラウィス。
「あの時には、判らなかったことだもの。仕方ないわ。」
やさしく笑顔を返すシィルに、クラウィスはほんの少し気持ちが軽くなる。
「それでね、逃げてる最中に、ミロンが体調を崩しちゃったの。その時に、アクアンが魔力酔いだって教えてくれたのよ。」
「魔力酔いか・・・大人なら多少は耐えられるが、ミロンは辛いな。」
「それを、アクアンが身を挺して助けてくれたのよ。」
アクアンズロッドを2人が見つめる。
「それで、この結果か・・・。」
濁った水霊の宝石が、アクアンが相当無理をしたのだと物語る。
「ここに戻った時に、一度だけ姿を見せたんだけど、綺麗な肌の色が、黒く濁ってたの。その宝石みたいに。」
「精霊は、魔力に敏感だからな。精霊武具にも目に見えて変化が出ている以上、アクアンにもつらい状態だっただろうな。」
「その時にね、私達に別れの挨拶をして、そのまま消えちゃったのよ。」
ミロンが泣きはらした理由は、そこだったのだろう。
「それは、不安になるだろうな。」
「だから、クラウィスがこれを治せるって言いきってくれて、すごく安心したの。」
「まあ、精霊自体が死んでいるわけじゃないからな。また長い間眠りにつく予感があったんだろう。」
少し笑みを浮かべて、クラウィスがアクアンズロッドを見つめる。
「ねぼすけのアクアンを、なるべく早く起こしてやるか。」
「そうね、私も、この子をアクアンに見せてあげたいし。」
そう言いながら、おなかをさするシィル。
「そうだな。この際だ、アクアンに祝福をしてもらおうか。」
2人は、そう言ってほほ笑みあう。
「さて、次の準備をしようか。シィル、今日は少し遅くなるから、先に休んでてくれ。」
「そうさせてもらうわ。クラウィスも、根詰めないようにね。」
「あぁ、判ってるよ。」
シィルが椅子を片付け、クラウィスに近寄る。そして、やさしくクラウィスを抱きしめる。
「昔から、こういう時にはあなたの悪い癖が出るわよね。頑張りすぎるって。」
シィルが、言い聞かせるようにクラウィスの頭を撫でる。当のクラウィスは、またかといった表情でそれを受け入れる。
「お前もな。」
そう言いながら、クラウィスはシィルの拘束をゆっくりと解き、今度はクラウィスがやさしくシィルを抱いた。
「さぁ、満足したか?」
シィルがクラウィスの腕の中でこくりと頷く。強がってはいたが、やはり不安だったのだろう。
「アクアン、助かるよね・・・?」
「もちろんだ。」
少しだけ力を入れて、シィルにその気持ちを伝える。そして、ゆっくりとシィルを解放する。
「ミロンも、不安がってるだろうから、同じことをしてやってくれ。安心できるからな。」
「うふふ、判ったわ。クラウィス、また明日ね。」
ここに入った時に比べて、シィルの表情は随分と明るくなっている。
それを見て安心したクラウィスは、作業の続きに取り掛かった。
その後ろ姿を見たシィルも、アクアンの無事を確信し、工房を後にした。
次の日の朝、シィルはゆっくりと工房の扉を開ける。
そこには、机に突っ伏して寝息をたてているクラウィスがいた。そして、そばに置いてあるアクアンズロッドには、昨晩見たアタッチメント以外にも色々と取り付けられていた。
シィルは、クラウィスに毛布を掛け、その後まじまじとアクアンズロッドを見つめる。
魔力吸収剤には目立った変化が見られないが、宝石は昨晩より透き通っているように見える。
「昨日よりは、よくなったのかしら。」
答えは、クラウィスが目覚めてからにしようと、シィルは静かに工房を出る。
そして、シィルはいつものように朝の準備を始めた。
その日の朝は、珍しくミロンが自分で起きてきた。
「ママ・・・おはよう。」
目をこすりながら、朝の挨拶を告げるミロン。
「おはよう、ミロン。顔を洗ってきたら、朝ご飯よ。」
「ママ、アクアンお姉ちゃんは・・・?」
「今、パパが直してるわ。絶対に大丈夫だから、安心して。だから、顔を洗ってらっしゃい。」
「はーい。」
ミロンが洗面所へと向かう、アクアンはその間に朝食をテーブルに並べる。
今日の朝食は、野菜サラダとパンという軽いものだ。
さっぱりとした顔になったミロンが、テーブルの上を見てほほ笑む。
「今日は、甘い野菜だね。」
「そうね、後でパパにも食べてもらわないとだからね。」
シィルがミロンの皿にサラダを盛り付ける。
「いただきます。」
「いただきます。」
2人が手を合わせて朝食を取る。そして、食事を終えたミロンに、シィルは1つお願いをする。
「ミロン、少しお店を手伝ってもらえる?」
「うん!いいよ!」
「いい子ね。じゃあ、お店の中の掃除をしてくれるかしら?」
そう言って、シィルは部屋の片隅に置いてある掃除道具を見て指をさす。
そこには、ミロン用の掃除道具が立てかけてあった。
ミロンは元気よく椅子から飛び降り、掃除道具を手にして店舗へと向かって行った。
しかし、店舗に入ったミロンは、窓から店内を覗く人影を見て動きを止める。
「あ・・・。」
窓の外には、ミロンも見慣れた人物が立っていて、ミロンに笑顔を見せながら手を振っている。
それを見たミロンは、大きくうなずいて掃除道具を投げ出し、急いで台所へと戻る。外で待つ人が居たらすぐに呼びに来るようにと言うシィルとの約束だ。
「ママ!コロボックルのお姉ちゃんが待ってるよ!!」
ミロンからの報告を聞いて、シィルが洗い物の手を止める。
「わかったわ、ありがとう、ミロン。」
そう言ってエプロンを脱ぎ、接客用のエプロンに着替えるシィル。
そして、ミロンと一緒に店舗へと向かい、外で待っているミクに手を振り、扉を開ける。
「いらっしゃい、ミク。」
店の中に入ってきたミクに、ミロンが駆け寄る。
「おはよう、ミロン。」
ミロンの頭を撫でて挨拶をするミク。
「昨日は、大変だったわね。」
「知っていたの?」
物理的な被害は出ていないので、この街に居なかったミクが知っていることに驚くシィル。
「ええ、あれだけ騒がしかったら、誰でもね。」
そう言ってフフフと笑うミク。
「それで、ちょっと気になったのよ。」
ミクが腰のホルダーに納めていたアクアンズロッドのレプリカをシィルに渡す。
「昨日の夕方辺りかしら、急に効果が消えたのよ。まだ魔力が残ってると思ったんだけど。」
受け取ったシィルが、少し表情を曇らせる。
「何か、あったの?」
ミクは周囲を見渡す。その時に、違和感に気付く。
「アクアンは・・・?」
「しばらくは、出てこれないの。」
その表情と、泣きそうな顔のミロンを見て、今の状況を察する。
「しばらくはって事は、直るわけよね。元気な姿、楽しみにしてるわ。」
そう言いながら、かがんでミロンの頭を撫でるミク。
「で、今日は修理品の引き取りに来たの。」
腰のポーチから、さらに小さな袋を取り出し、その中から2枚の金貨を手に乗せた。
「もう、修理は終わってるの?」
「ええ、終わってるわ。持ってくるわね。」
シィルが保管庫へと向かう。
その場に残された2人の間に、少し気まずい空気が流れる。
「ねぇ、ミロン。アクアンとのお出かけ、楽しかったでしょ?」
「・・・うん。」
少しの間をおいて、ミロンが頷いて答える。
「私もね、アクアンのレプリカと一緒に冒険して、とっても楽しかったわ。いつもは使えない魔法も、たくさん使えたし。」
「お姉ちゃん、魔法使えないの?」
「得意魔法は風でね、水は苦手なの。でも、アクアンが水魔法を教えてくれて。今じゃ、積極的に水魔法も使ってるわ。」
そう言いながら、手を合わせて少し力を籠める。すると、手の間から水滴がぽたりと床に落ちた。
ミクの様子を珍しそうに見つめるミロン。
「あなたのパパは、すごいからね。絶対にアクアンを治してくれるわ。だから、じっくり待ちましょ、ね。」
ミロンをやさしく抱きしめて、頭を撫でるミク。
「だから、今はママのお手伝いをしっかりしましょうね。」
こくりと頷くミロン。それを見て、ミクもホッと胸をなでおろす。
「ミクお姉ちゃん、魔法見せて。」
「いいわよ。」
ミクとミロンは、簡単な魔法を見ながら、シィルが来るまでの時間を潰していた。
それから、程なくして保管庫の扉がカチャという音と共に開いた。
「お待たせ、ミク。」
シィルがケースに入れた指輪を持ってくる。その後ろからクラウィスも一緒にやってきた。
「あら、クラウィスも?」
「今回の修理の説明をしておかないとダメだからな。」
「そんな特殊な修理だったの?」
「ああ、だから金貨2枚が必要になった。」
そう言って、クラウィスがケースからコロボックルリングを取り出してミクに見せる。
「今回修理が必要になったのは、この石座の部分だ。」
「石座?名前からして、この宝石の部分?」
「宝石が乗っている部分だな。」
その説明を聞いて、ミクはまじまじとリングを見つめる。
「ここが、どうなってたの?」
「経年劣化だとは思うんだが、細かいヒビが入ってた。精霊も、ちょっと違和感を感じてたみたいだからな。」
「違和感?」
「精霊の体と服が傷だらけでな。前に見た時はそこまでひどくなかったから、治す必要はないと思っていたんだが、流石に今回は見過ごせなくてな。」
「そうなんだ。」
シィルが木の板をカウンターから取り出す。そこに、クラウィスがコロボックルリングを乗せる。すると、リングの隣にミクの相棒が姿を現した。
「え・・・あれ?・・・?」
その姿を見たミクが、目を見開き、驚きの表情でコロボックルを見つめる。
「綺麗になったろ。肌も服も。」
「この子の肌、こんなにつるつるですべすべだったの?!」
コロボックルは、笑顔でミクの手のひらに飛び移る。その手を顔の側に近づけて、すっかり綺麗になったコロボックルを見つめる。
「別人じゃない・・・。服もすっかり綺麗になって。」
空いた手で、コロボックルの頬を撫でる。その感触はまさにお餅といった感じだった。
「この子、肌や服だけじゃなく、何か他にも違う感じがするんだけれど?」
「ああ、こう見えても精霊武具だ、これの効果は知ってるんだろう?」
「自然の力を借りやすくなる効果よね。」
そう言いながら木の板に乗せた指輪を取り、コロボックルを乗せた手の中指に指輪を装着する。
「ん?」
ミクが少し首をかしげる。違和感を感じているが、それが嫌な感覚ではないので、ミクの表情は穏やかだ。
そして、ミクがコロボックルを見つめる。そこには、自信に満ち溢れた精霊の姿があった。
「行くよ・・・。」
コロボックルがミクの腕をよじ登り、肩にちょこんと座る。
「精霊のそよ風!」
ミクが誰もいない方向へ手をかざす。すると、そこからおおよそそよ風とは言えない強さの風が吹き抜けた。
その風は、店の窓をバタンと開き、ガラスをガシャンと鳴らす。
「あ!!ごめんなさい!!」
窓ガラスにはひびが入り、まだ割れてはいないが、少し触ると砕け散りそうな感じだ。
その様子を見て、ミクはもうしわけ無さそうな顔をすると同時に、肩に乗ったコロボックルを見つめる。
「いや、説明をしなかったこちらに非がある。見ての通り、彼の力が増したんだ。」
この指輪は、精霊が宿った時よりもいい性能になった。だから、精霊もその分力が増したことになる。
ミクは思わぬ成果に、困り顔を見せながらも肩に乗せた精霊の頭を指で撫でていた。
「さて、修理費ももらったし、大切に使うんだぞ。」
「わかってるわ。こんないい物、雑に扱えるものですか。」
そう言ってミクがクラウィスに笑って見せる。まあ、ミクは今までも十分大切に指輪を扱ってきた。それと同じ扱いで十分だろう。
「本当にありがとう。後、窓なんだけど・・・。」
「それはいいわ、この人が言わなかったのが悪いのだもの。」
シィルがクラウィスに冷たい視線を投げかける。
「そう言う事だ。またよろしくな。」
「こちらこそ。」
クラウィスとミクが握手を交わす。そして、ミクはホスピタルを後にした。
「起こしてごめんなさい、ミクには説明しておいた方がいいと思って。」
「そうだな、精霊の力が突然強くなったらミクの身に危険が及ぶからな。」
自分が思うより強い魔法が出ると、思わぬ怪我をする元になる。だから、実際に魔法を使わせてみたのだ。
「パパ、アクアンお姉ちゃんはどうなったの?」
ミロンがクラウィスに近づいて、ズボンのすそを引っ張りながら問いかける。
「ああ、ぐっすり眠ってるよ。」
「起きないの?」
「昨日眠ったばかりだからな。まだまだ寝足りないさ。」
しゃがみ込んだクラウィスが、ミロンの頭を語ごしごしと撫でる。
「起きるよね?」
「起きるよ。必ずな。」
そう言って立ち上がるクラウィス。
「じゃあ、俺は仕事に戻るよ。シィル、ミロン、店番よろしく頼むぞ。」
クラウィスが工房に戻り、仕事を再開する。
そして、昼を過ぎたあたりに、ホスピタルにボルクがやってきた。
「やっとるかの?」
扉を開けるなり、声を上げるボルク。その声に、店舗に居たシィルとミロンが振り向く。
「いらっしゃいませ、ボルクさん。」
シィルが立ち上がり、ボルクに向かって一礼する。
「昨日は大変じゃったろ。大丈夫じゃったか?」
「ええ、なんとか。」
笑みを返すシィルに、ボルクは少し表情を曇らせる。
「今日は、クラウィスはおらんのか?」
「あ、呼んできます。ミロン、ボルクさんをテーブルに案内しておいて。」
シィルの言葉を受けて、ミロンがボルクの手を引く。
「うん!ボルクさん、こっちへどうぞ!」
「ほっほっほ、ミロンは今日も元気じゃの。」
ボルクが目を細めながらミロンの案内に従う。
そして、それからすぐにシィルがクラウィスを連れてやってきた。
「こんにちは、ボルクさん。今日はどうされました?」
「あぁ、今日はどうしても来たいという者がおってな。」
そう言って、ボルクはギルティスライサーをテーブルの上に置く。すると、すぐにギルが飛び出してきた。
「おい、アクアンは大丈夫なのか?!」
「え・・・?」
シィルとクラウィスの視線が、見慣れない姿のギルに注がれる。
「ギル、だよな?」
ギルの服は今までのような年季の入った服ではなく、ピシッとした布の服に、革のチョッキを身に着けている。
しかし、一番目を引いたのは、常に目を隠していた布が無くなっていたところだ。
まじまじとその姿を見つめるクラウィス達に気付いたギルが、頭を掻きながら頷いた。
「あぁ、説明は後だ。アクアンは無事なのか?」
「寝てるよ、いつ起きるかはわからないが。」
「散ってはいないんだな?」
クラウィスがギルの問いかけにこくりと頷く。
「そうか・・・なら安心だな。」
ギルがテーブルから飛び降りて、カウンターに向かう。
「ギル、なんだか変わったわよね?」
「今回の事件で、膨大な魔力を吸収しただろ。そのおかげだ。」
ギルが説明するが、いまいち要領を得ない。しかし、ギルは説明に関してちょくちょくボルクの方を見ていた。
「ボルクさん、一体ギルに何があったんですか?」
「そうじゃの、お前さん方には少し話しておこうかの。」
鞘に納めたギルティスライサーを手に取り、鞘をスッと抜く。
そこには、いつも見ていたギルティスライサーの姿はなく、一本のスラリとした長剣が納められていた。
「まず、ギルの性質から説明する必要があるな。」
「それは・・・?」
すっかり形の変わったギルティスライサーを見つめながら、クラウィスはボルクに問いかけていた。。
「これが、ギルティスライサーの真の姿じゃて。」
そう言って、ボルクがあの日にあった事を語り始めた。




