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48. 漆黒の球

 気まずい時間が流れたが、シアンはジョッキを傾けながら、


「もうすぐで見つかると思うゾ」


 と、こともなげに言った。


「えっ? 見つかる?」「はぁ!?」


 玲司はシアンが一体何を言ったか分からず固まった。ミゥは眉間にしわを寄せている。


「ゾルタンの残した足跡のデータを全部解析して、周辺にいた人間のデータを全部集めたんだ。それで、隠れ(みの)として使っているIDを絞り込んで、そのIDの活動実績の妥当性分析を今かけてるんだゾ」


 シアンは複雑で高度な解析を勝手に進めていたことを暴露する。


「ちょ、ちょっと待つのだ! なんでシアンちゃんがそんなことできるのだ?」


 ミゥは驚いて立ち上がる。


「ん? 僕はAIだもん。システムそのまま海王星のサーバーに移植してもらったからメッチャパワーアップしてるんだゾ。きゃははは!」


 嬉しそうに笑うシアンを見てミゥは言葉を失った。確かにミリエルにはそんなことをやったような記憶がある。しかし、もしそれが本当だとするならば、もうシアンはミリエルの能力を超えてしまっているということであり、それは地球のシステムのセキュリティ体制の根幹にかかわる話になってしまう。


「あ……。そういう……こと?」


 ミゥはその瞬間、なぜミリエルが玲司たちを送ってきたのかに気づいてしまった。ミリエルはこのシアンのスーパーパワーを使ってゾルタンをせん滅するつもりなのだ。しかし、シアンは玲司の言うことしか聞かない。だから玲司を懐柔し、シアンをうまく使って問題の収拾をしろと言うことだったのだ。


「いきなり斬りかかっちゃったじゃない……」


 ミゥはボソッとつぶやきながら頭を抱え、最悪な対応をしてしまった自分を恥じた。ミリエルの分身ではあるが、本体の考えることすべてが伝わってくるわけではないのだ。


「ミリエルぅ……」


 ミゥはチラッと玲司の様子を見る。玲司はシアンとバカ話をしてゲラゲラと笑っている。彼は最低な対応をした自分をとがめることもなく、いつだってマイペースで状況を楽しんでいた。ミゥはこの男の懐の深さに救われた思いがしてホッと胸をなでおろす。美空ねぇが気に入った理由がようやく分かった気がした。


 それにしても、こんなに大切なことをあえて伝えずに二人を送ってきたミリエルの意図ははかりかねる。ミゥは奥歯をギリッと鳴らすと、ジョッキを一気に傾けた。


 そういうことであれば計画は大幅に変更である。シアンにゾルタンを探させて、シアンの力で制圧してしまえばいいのだ。ミゥは大きく息をつくと、


「ねぇ、シアンちゃん。ゾルタンと戦ったら……勝てる?」


 と、上目づかいでゆっくりと聞く。


「余裕で勝てると思うゾ。でも、この星がどうなるか分からないけどね。きゃははは!」


 楽しそうに物騒なことを言うシアンに、ミゥは渋い顔をして玲司と顔を見合わせる。


「あ、ゾルタンっぽいのが見つかったゾ」


 シアンは骨にちょびっと残った肉をかじりながら言った。


「えっ? どこどこ?」


「これは……、郊外の小屋かな。何やら怪しいことをやっているみたいだゾ」


「怪しいことって?」


 玲司が聞くと、


「あ、見つけたことがバレちゃったゾ。たはは」


 と、シアンが苦笑する。


 美空はハッとして二人の手をつかんだ。そして一気に夕焼け色の上空へとワープする。


 直後、ゴリッ! という不気味な重低音が街中に響き渡り、漆黒の球が街を飲みこんだ。


 夕焼けに照らされ赤く輝いていた王宮も、広場の尖塔も、そして食事をしていた食堂も漆黒の球に喰われてしまったように消え去り、ただ、全ての光を飲みこむ不気味な球が静かにたたずんでいた。


 えっ……?


 玲司は真っ青になって、ただその失われてしまった街を見下ろし、ガクガクと体を震わせる。目の前で多くの人の命が、文化が跡形もなく消え去った。


 女将さんは? レストランは?


 データを探索しても漆黒の闇の中はがらんどうで、もはや誰も何も残っていなかった。


 え……?


 直前までのあのにぎやかなレストラン、たくさんの料理、人も物も全てきれいさっぱり消されてしまったのだ。その現実は玲司の首を締め付けるようにまとわりつき、あまりの息苦しさに思わずのどを押さえ、持っていたフォークを落としてしまう。


 フォークは沈みかけの夕日の真紅の輝きをキラキラッと放ちながら、漆黒の闇へと飲まれていった。


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