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47. 白亜の城

 やってきたのは、大通りから少し入った、大衆食堂のような気取らない店だった。


 少しガタつく椅子に、年季の入った木製テーブル。高い天井にはシーリングファンがゆっくりと回っている。


「ちょっと汚いけど、ここのスペアリブは病みつきになるのだ」


 ミゥがおしぼりで手を拭きながらそんなことを言うと。


「あら、ミゥちゃん、汚いだけ余計よ」


 そう言いながら、恰幅(かっぷく)のいい女将さんがパンパンとミゥの背中を叩く。女将さんはベージュの民族衣装をまとって頭にタオルを巻き、とてもエネルギッシュだった。


「アハ! 聞かれちゃったのだ。いつもの三人前。後、あたしはエール。君たちは?」


 ミゥは上機嫌に注文していった。



        ◇



「カンパーイ!」「かんぱーい」「かんぱい」


 三人は乾杯し、玲司は一人だけ水を飲む。


「くぅ! 一仕事終えた後のエールは格別なのだ!」


 ミゥは口の周りを泡だらけにして満面に笑みを浮かべて言った。


「血中アルコール濃度急上昇だゾ! きゃははは!」


 シアンも上機嫌に笑う。


 玲司は何がそんなに嬉しいのか分からず、小首をかしげながら水をゴクゴクと飲んだ。


「はーい、おまちどうさま!」


 女将さんがスペアリブを山盛りにしたバカでかい皿をドン! とテーブルに置く。


「待ってました!」


 ミゥは素手で骨をガッとつかむと、かぶりつき、アチッアチッと言いながらジワリと湧きだしてくるその芳醇な肉汁を堪能した。


 玲司はフォークで一つ持ち上げると恐る恐るかぶりつく。


 甘辛いタレがたっぷりとからんだスペアリブは、エキゾチックなスパイスが効いていて、香ばしい肉の香りと混然一体となり、至福のハーモニーを奏でた。玲司は湧きだしてくる肉汁のめくるめくうま味の奔流に、脳髄が揺さぶられる。


 くはぁ。


 玲司は目を閉じたまま宙を仰ぐ。異世界料理なんて田舎料理だろうとあまり期待していなかったが、とんでもなかった。これを東京でやったらきっと流行るだろう。


 玲司が余韻に浸っていると、ミゥもシアンもガツガツと骨の山を築いていく。


「あ! ちょっと! 俺の分も残しておいてよ!」


「何言ってるのだ! こんなものは早い者勝ちに決まってるのだ!」


 ミゥはそう言うとエールをグッとあおり、真っ赤な顔を幸せそうにほころばせた。



       ◇



 最後の肉の奪い合いに負けた玲司は、幸せそうに肉をほおばるミゥをジト目で見ながら聞いた。


「で、ゾルタンはどうやって捕まえるの?」


「西の方へ行ったところに魔王城があるのだ」


 ミゥはそう言いながら骨の表面についた薄い肉にかじりつく。


「ま、魔王城!?」


 玲司は思わず叫んでしまった。なんというファンタジーな展開だろうか。


「こんなだゾ」


 シアンは気を利かせて映像をテーブルの上に展開した。


 そこには天空に浮かぶ島があり、その上には中世ヨーロッパ風の立派な城が建っていた。ドイツのノイシュヴァンシュタイン城のような石造りの壮麗な白亜の城には天を衝く尖塔に、優美なアーチを描くベランダが設けられ、ため息が出るような美しさを放っていた。


 それはまさにファンタジーに出てくる空飛ぶお城。美しいお姫様が住んでいそうな趣である。


「これ、ゾルタンが造ったのだ。だから怪しいんだけど、ジャミングがかかっててデータが取れんのだ」


「僕が撃墜してあげるゾ!」


 シアンはノリノリでジョッキを掲げる。


「いや、調査隊が今まで何人もここに入っていって消息不明なので、手荒にはできんのだ」


 ミゥは渋い顔でジョッキをあおった。


「じゃあ、ここに調査に行くってこと?」


「いや、ミイラ取りがミイラになっても困る。それに、こんな分かりやすいところに奴がいるとも思えんのだ」


 ミゥはため息をつくと、テーブルにひじをついて頭を抱える。


「うーん、そしたらどうするの?」


「……」


 ミゥは目をつぶって考え込む。


「ねぇ?」


「うるさいのだ! 今、それを考えてるのだ!」


 と、テーブルをこぶしで殴って怒った。


 玲司は事態が行き詰っていることを理解し、静かに水を飲んでふぅと嘆息を漏らした。


 相手は管理者権限を持った元副管理人。居場所なんてそう簡単には分からない。事態の解決には相当な時間がかかる気がする。


 凍り付いた八十億人の時間を取り戻す道程の長さにちょっとめまいがして、玲司は静かに首を振った。


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