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episode.9 It seems that the outer moat was buried.


それからさらに数日後。

いつも通り、中庭でランチを食べていたわたくし達の所に、キース王子と取り巻き?側近?達があらわれたの。

ニコニコと笑顔でこちらに歩を進めるキース王子は、幼い頃の雰囲気のままで…身長が伸びただけであとはそのままというか。

実年齢よりもだいぶ幼く見えたわ。


「やぁ!ソフィア、ミーシャ、シャーロット。久しぶりだね!」


うん…本当に昔のままだったわ。

わたくし達はアレン王子が来た時のように、渋々だけれどカーテシーで挨拶を交わしたの。


「皆綺麗になったね!その中でもやっぱりソフィアは一番綺麗だね!ねぇソフィア、今からでも僕のお嫁さんにならない?」


ピシリ。


フラグ回収キター!…じゃなくって。

今わたくしの隣にいるソフィアが固まる幻聴が聞こえたわ。

わたくしの大切なソフィアをこんなアホ王子が口説くなんて、冗談じゃないわ。

ソフィア、わたくしが言ってやりましょうか!?という思いを込めてソフィアを見つめれば、わたくしの思いに気付いたソフィアが、「自分で言うわ!」という眼差しで小さく首を振ってから、頷いたの。

わかったわ!わたくし、見守ってるわ!

だからビシッと言っておしまいなさいな!


「申し訳ありません、キース王子殿下。わたくしお慕いしている方がおりまして、その方と婚約の話が進んでおりますの」


そうなのよ!ソフィアは幼なじみの彼をずっと慕っていて、この間、ようやくプロポーズされたのよ!

…まぁ、彼がいなくても昔の様に断っていたと思うけれど。


「えー?誰?そいつなんかより僕の方が良いよ?だって僕、王子だよ?」


これは中々面倒なタイプに育ったのね…。

王家の子育て、見直しが必要だと思うのだけれど。

あら、気付けばミーシャが今にも毒を垂れ流しそうな雰囲気だわ。

おそらくミーシャの頭に浮かんでいる言葉は…、


王 子 だ か ら な ん だ っ て ん だ ?


っていうところかしら。

ここはわたくしがなんとかしなければ。


「ええとキース王子殿下?ソフィアとソフィアの慕う方は相思相愛ですのよ。あまり無理を仰らないであげてくださいませ」


「えー。ならシャーロットが僕のお嫁さんになってくれるの?」


「は…?あ、ええと、申し訳ありませんが、わたくしは既に婚約者がおりますわ。それにキース王子殿下には婚約者候補様がいらっしゃいますでしょう?」


「ああ…婚約者候補…ねぇ。まぁそうだけど。それよりもさ!シャーロット、その婚約者は、僕よりいい男なの?」


ええ、そりゃもう、天と地どころじゃないわよ!

と答えそうになったその時。


「何をされてらっしゃるんです?キース王子」


来たわ!わたくしの天使!じゃなくて救世主!でもなくて…カイン様!

いえ、むしろ天使で救世主なカイン様、が正しいのかしら。

隣のソフィアも、救世主なカイン様登場でふっと体から力が抜けたのがわかって、わたくしも安心したの。

ミーシャはまだ、王子を少し睨みつけているけれど。

とても友達思いだものね。


「やぁ、カインズ。今ソフィアにプロポーズしたら断られてね。だからシャーロットにプロポーズしたんだけど、婚約者がいるんだってさ。僕よりいい男がいるわけないのにね?」


その瞬間、ぶわりとカイン様の魔力が揺らいだの。

わたくしは慌ててカイン様の元へ行き、その手を握って魔力を中和して、安定させた。


「カイン様、落ち着いて?」


「ロティ…ごめん、ありがとう」


「えっ、シャーロット、君は婚約者がいるんじゃないの?教師相手とはいえ、そんな態度は良くないんじゃないかなぁ?それにカインズもさ、なんで勝手にシャーロットの愛称を呼んでるわけ?僕そんなの許した覚えないんだけど」


キース王子がそんな妄言を吐くと、後ろにいた側近だか取り巻きだかよく分からない令息の1人が、王子の耳元で何か囁いているのが聞こえた。

ていうか、自分こそ婚約者候補の王女がいるくせに、今わたくし達を口説いているじゃないの!

王子の態度から見て、エヴァーンの第一王女は好みじゃないっぽいけど、王族なんだから我慢しなさいよ!

それに、なんでわたくしの愛称呼びに王子の許可が必要なのよ!

意味わかんないわよ!散れ!カスが!

…あらやだ、頭の中とはいえ、あまりの怒りに思わずカスとか言ってしまったわ。


「えっ!?カインズがシャーロットの婚約者?嘘だろう?カインズとシャーロットじゃあ、年が離れすぎててシャーロットが可哀想じゃないか!そんな婚約、破棄してしまいなよ!どうせ政略結婚なんだろう?ね?そしたら僕がお嫁さんにしてあげるから」


また続けられた妄言に、わたくしそろそろ、キレそうですわ。

やっぱりカスだわ!いえ、カスどころか塵よ!芥よ!

そんな猛るわたくしの手を、カイン様がぎゅっと握り返してくれたの。

カイン様のお顔を見上げれば、黒いオーラを背負いつつも、わたくしに向けるのはいつもの優しい笑顔。

やっぱりわたくし、この方が好きだわ。

だからこそ、言わなければ。


「キース王子殿下、わたくしカイン様を、心からお慕いしておりますの。邪魔しないで頂けますかしら」


わたくしがキッと王子を睨みつけて言い切ると、ここまでなんとか耐えていたらしいミーシャがついにその可愛いらしいお口を開いたのよ…。


「そうですわよ!先程から聞いていれば、自分が一番いい男だの、王子だからだのと… 王子だからなんだというんですの!?だいたいキース王子より素敵な方なんて、そこら中に山ほどおりますわ!それにソフィはやっと想い人と結ばれて、これからたくさん幸せになりますのよ!そしてロティはこの学院で一番のベストカップルと言われる程、相思相愛の婚約者同士ですの!そんな2人を王子の気まぐれで邪魔しないで下さいませ!」


ふんすふんすと鼻息荒いミーシャ。

あぁミーシャ!好きよ、大好き。

でも大丈夫かしら、いくらこのボンクラ王子相手でも不敬罪とかにならないかしら!?

わたくしとソフィアが、ミーシャの言葉に嬉し涙を流しつつもオロオロとしていたら、カイン様がスっとわたくしたちの前に出て、にこりと微笑んでくれたの。


「ロティ、ミーゼス嬢、安心して。大丈夫だよ。…おい、連れていけ」


カイン様の言葉で、また出たのよ、ジャパニーズニンジャ。

あのニンジャ達はカイン様と何か関わりがあるのかしら…?

あれよあれよと連れていかれるキース王子と、それを追いかける側近だか取り巻き数人。

あら、取り巻きの半分は追いかけずにポカンと見ている…と思えば、その方達もジャパニーズニンジャに神輿の様にかつがれて連れていかれたわ。


「ちょっと、ロティ、ソフィ、なんで泣いているの!?大丈夫!?」


ジャパニーズニンジャを眺めていたミーシャがこちらに振り返って、わたくし達を見て慌てだした。

さっきあんなにかっこよかったのに、今はオロオロしているミーシャが可愛らしくて、わたくしとソフィアは目を合わせて笑ってしまったわ。


「クルーゲル嬢、2人はさっきの君の言葉に感動したんじゃないかな。私からも礼を言うよ、ありがとう。ロティ、ミーゼス嬢、いい友人を持ったね」


「はい、カイン様!さっきはありがとう、ミーシャ!大好きよ!」


「ええ、とってもとっても、かっこよかったわ!ミーシャ、ありがとう!わたくしもミーシャの事大好きよ!」


「や、やだっ、2人ともそんな大声で…もう、わたくしも2人が大好きよ」


わたくしとソフィアは照れるミーシャにぎゅうぎゅうと抱きついた。

カイン様はそんなわたくしの頭をポンポンと撫でて、いつもの笑顔を向けられてから、校舎に戻って行ったわ。


キース王子のその後を聞いたのは、数日後のカイン様とのランチの時。


「あのアホ王子はね、元々ちょっと…いやだいぶ?おツムが足りなくてさ、色々やらかしてたんだよね。でもアレン元王子が廃嫡になったから、キース王子は唯一の王子だろう?そのせいか、使い込みしてたアレン元王子とは違って、なんとか王位継承権は剥奪されなかったみたい。王妃様の嘆願もあったしね。私的にはさっさと剥奪して、王弟殿下が継げばいいと思うんだけどね」


そうね、言われてみれば王子はもうキース王子だけだったわね…わたくしそんな事も気づかなかったなんて、自国の王家に興味無さすぎたわ。

いえ、無意識に知ることを避けてた、と言うべきかしら。

でもたしかに、あれが王太子は…無いかも。

主に、この国の未来が。


「王弟殿下って、理事長ですわよね。おいくつですの?」


「んー、たしか35くらいだったかな?」


あら、前世のわたくしが死んだ年だわ。

それは置いておいて、意外と若かったのねぇ。


「そうなのですね。もう少し上の年齢かと思っておりましたわ」


「ははっ、たしかに老け顔だよね。それより…ねぇ、ロティ」


今日はサロンのソファでわたくしを後ろから抱きしめていたカイン様の腕に、力が込められたのを感じた。


「はい?」


「ロティは私との年齢差、気にしていない?」


あら、なんて可愛らしい心配をされてるのかしら、この方は。


「ええ、ちっとも」


「本当に?」


「わたくし、初めてお父様から縁談の話を聞いた時、カイン様のお名前を聞く前に、年上は平気かと聞かれましたの」


「…うん」


「わたくしが30歳上とかだと、少し困りますわって答えたら、お父様が7歳上の方だと仰って、わたくしはその時、そんなの離れたうちにはいりませんわって答えましたのよ」


「そっか…なら…良かった」


「でも」


「うん…?」


「カイン様なら、30歳離れてても問題ありませんわ」


「ロティ…ありがとう」


むしろわたくしの中身が35+16歳のヨボヨボで申し訳ないくらいですわ。

カイン様はさらに強くわたくしを抱きしめてくれて、わたくしは『ああ、幸せだわ』と、その温もりに酔いしれていたのだけれど。

ふいにわたくしの肩というか首元に、ちゅっとカイン様の唇があてられたの。

わたくし驚いてしまって、ビクッとなって思わずカイン様を振り向いて、真っ赤な顔で抗議の声を上げようとしたのだけれど、すぐに耳元でカイン様が囁いたのよ。


「ロティ…結婚しよう?」


「えっ?」


そりゃ、しますけれど?


「卒業後じゃなくて、すぐに結婚したい。ロティは嫌?」


「ええっ!?す、すぐにって…すぐに?」


なう?って聞きそうになったわ。

どうしよう、急すぎて頭が回らないわ。

きっと、脳停止状態ってこういうことを言うのだわ。

あら?違う?


「本当は今すぐにでもって言いたいけど、最低婚約期間とされてる半年後、かな。ロティ、俺ね。最近、ロティがクラスの令息達と話しているのを見るだけでも、不安になって嫉妬してしまうんだよ。だから。結婚して、俺だけのロティになって?」


そんな切なそうな顔で…そんな事を言わないでくださいましっ!!!

わたくしの乙女な心臓が、今にもはちきれそうよ。

しかも婚約から半年って事は…今年の夏!?

困ったわ。でもわたくしの心臓も卒業後までもたないかもしれないわ。


「お、お父様が…お許しになって下さるなら…」


「本当に…?」


「はい…わたくしも、その…早くカイン様の、お、奥さんになりたいです…」


「ああ、ありがとうロティ…!大丈夫だよ、もうお義父上には許可を取ってあるから」


「あら、まぁ……って…えぇえ!?」


マジですの?

あら、カイン様がエッタにハンズアップしているわ?

そんなエッタも泣きながらハンズアップを返しているわ?

なに?これは俗に言う『気付いたら外堀が埋められていた』というやつかしら…?


そんなこんなで、わたくしシャーロット・ヴァロワは、3ヶ月後に結婚式を挙げることになったの…早くない!?


あっ、思わぬ展開でジャパニーズニンジャについて聞きそびれたわ。


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