episode.3 It's not a tea party, it's actually a matchmaking.
シャーロット7歳。
わたくしは今に至るまで、王都のタウンハウスと領地の邸の書庫に篭っていたのだけど、この頃ようやく家庭教師がつけられた。
よく聞く『淑女のマナー』やら、一般的な貴族令嬢が学ぶ勉強も習った。
けど、勉強に至っては家庭教師がつけられる前に、書庫で読み漁った本で独学で終えていたらしく…一般教養については一度だけ授業を受けて終わった。
代わりに、他国の言語の授業と、歴史についての授業を習った。
あぁ、マナーに関してはちょっと苦労したわ。
リアルに頭に本を乗せられた時は、『えっ、マジでこれやるの?』と、最初は何度も笑うのを堪えるのに苦労したわ。
あとね、カーテシーって足がプルプルするのよ、自分の足を見て笑いそうだった。
だって、産まれたてのコジカみたいなんだもの。
そうそう、ある日書庫で読んでいた本に馬が載っていて、お父様に乗馬を習いたいと強請った。
何か運動をしたくて、『ダンスレッスンは?』と聞いたら、もう少し大きくなってから習うものだと言われたのだもの。
それなら乗馬!とお父様に頼んだら、『乗馬こそ、大きくなってからだろう』と言われて、人生で2度目の号泣をかましたわたくしは、見事乗馬を習う権利をゲットしたわ。
そんなわたくしに与えられた馬は…ポニーだった。
やだ、なにこの可愛い生き物。
前世で馬見たさに行った競馬場にもいたわ、ポニー。
馬の瞳って綺麗よね、人と違って濁りがなくて。
え?別に病んだりしてないわよ?
そうそう、ポニーが可愛すぎて乗れなかったから、結局乗馬はもう少し大きくなってから習う事にしたわ。
そんな折り、王家からお茶会の招待状が来た。
コレはもしかしてあれかしら、『王子の婚約者や側近探しという名のお茶会』ってやつ。
お母様に聞いたら、案の定そうだった。
わたくし、一度も王家の人を見たことがない。
そうよ、なんせわたくし、自他ともに認める引きこもりだもの。
「これ、行かなきゃだめですの?」
「シャーロットは王子様に憧れたりしないの?」
「しませんわ」
「ふふ、そうよね」
わたくしの答えに何故か満足そうなお母様は、「でも、1度目は断れないのよねぇ」と、心底断りたそうに嘆いていて、わたくしはそんなお母様の様子に首を傾げつつも、仕方なくお茶会に参加した。
お友達も出来るかもしれないしね。
当日は少しお洒落なすみれ色のドレスを着せられたのだけれど、わたくしがリボンとかフリルとかキラキラした宝石に興味が無い事を知っているからか、お母様が用意してくれたドレスは年齢の割に落ち着いたデザインのドレスだった。
ナイスお母様!って思ったわ。
だって35+7歳にフリルとか、無いわ。
今日はお兄様も一緒で、わたくしのエスコートはお父様だった。
王室の庭に足を踏み入れると、たくさんの子息令嬢がひしめき合っていて、この世界に来てこんなに人を見たのは初めてだった。
前世でも人混みは苦手だったから(競馬場は馬見たさにパドック目当てだったから、人混みを避けてたし、別よ)少し人に酔いそうになった。
「父上、ロティの顔色が悪いです」
「おや、本当だな。ロティ、大丈夫か?」
「少し…人が多くて気分が悪いかもしれません」
「それは大変だ!さっさと挨拶だけして帰ろう!」
すぐにわたくしの変化に気付いてくれるお兄様も、子煩悩なお父様も、大好きよ。
ちょっと精霊さんたち、笑わないでくれるかしら?
仮病じゃないわよ、本当に気持ち悪いのよ。
あら、もっと気分が悪そうに見せてくれるの?
助かるわ、ありがとう。
王妃殿下、アレン王子殿下、キース王子殿下の前まで行き、お父様が挨拶の後にわたくしを紹介した。
お兄様は何度か会っているらしいわ。
「ヴァロワ侯爵家の長女、シャーロット・ヴァロワと申します。本日はお招き頂き、ありがとうございます」
コジカにならないようになったカーテシーを披露すると、王妃から感嘆の声が上がった。
「あらあら、まあまあ!嫡男のアンリも優秀な上に、娘のシャーロットまで素晴らしいなんて!噂通りの素敵なお嬢さんね!」
王妃さまはなんだろう…大物女優って感じかしら。
年季の入った美人…熟女っていうの?
その横に座るのは8歳のアレン王子と6歳のキース王子。
両方とも、金髪青眼の『まさに一般的なイメージの王子』って感じの王子だった。
キラキラしいけれど…タイプではないわね、というか…まだ喋っていないけど、ぶっちゃけ雰囲気が苦手だわ、この2人。
「ふん、君がヴァロワ侯爵令嬢か。僕は第一王子のアレンだ」
「シャーロットっていうの?僕は第二王子のキース!」
うん、雰囲気の通り、苦手だ。
そして両方、色んな意味で残念だ。
アレン王子は上からでエラソーだし、キース王子は王家どころか貴族感がないし、いきなり名前呼びか…どう返したものかと、お父様を見上げると、お父様の顔に青筋が見えた…あ、お兄様もだわ。
ついでに2人の背後に負のオーラみたいな幻が見えた。うぉう。
「こら、貴方たち!もう…少しはアンリやシャーロットを見習いなさい!…ところでヴァロワ侯爵?シャーロット嬢の顔色が良くないようだけれど、大丈夫なの?」
『おうおう、よくもシャーロットを舐め腐りやがって。叱られてしまえ』と考えてるのがありありと伺えたお父様の青筋がスッと消え、困り果てた父の顔の仮面を被った。
流石だわ、お父様!
「王妃殿下、申し訳ございません。娘は普段あまり外に出ないためか、人に酔ってしまった様で」
「まぁまぁ!侍医を呼びますか!?それとも…残念だけれどお帰りになられる?」
お父様は上手いこと言って、無事に帰る許可を得た。
馬車の中でのお父様とお兄様の話では、『陛下と王妃殿下はシャーロットを、バカ…じゃなくて、アレン王子の妃に考えている可能性がある』との事だった。
わたくしはお父様の暴言を優しくスルーし、その理由を聞いた。
可能性というのは、この国にある4つの公爵家のうち、3つに、同年代の令嬢がいるかららしい。
王家の嫁となると、やはり第1候補は公爵家、第2候補が侯爵家なんだそう。
例外として、他国の王女から請われれば、王女が第1候補なんですって。
うん、やっぱり侯爵家で喜んだわたくしは正しかった!
そして間髪入れずに言ってしまったわ。
「あの王子達は嫌です。頭も性格も根性もよろしくなさそうですもの」
「そうだな!あの馬鹿どもにシャーロットは勿体無い!ずっと家にいていいぞ。むしろいてくれ」
おぅ、お父様、さっきスルーしたバカ発言もだけれど、不敬発言連発ね。
「可愛いロティがあんなのの婚約者になんてされたら、王家滅ぼすよ、僕」
お、お兄様の後ろに鬼が見えたわ…。
というかお父様、わたくしがずっと家にいるのは無理があるわ。
お兄様が家督を継いだあとにも居座るなんて、そんなの申し訳なさ過ぎて無理よ。
「それはだめよ、お父様。お兄様に迷惑は掛けたくないわ。でも出来ればわたくしの旦那様になる人なら、頭が良くて、女だからと見下さなくて、お父様とお母様とお兄様の事も大切にしてくれる方がいいです」
「「ロティは天使だっ!」」
泣き出したお父様とお兄様を慰めつつ、タウンハウスへと着いた。
数ヶ月後、前回のお茶会で婚約者が決まらなかったらしく、その後何度かお見合い…じゃなくてお茶会の招待状は来たけれど、わたくしが引きこもりで人混みが苦手というのを上手い言葉で伝え、両親が断ってくれた、らしい。
引きこもりですぐ人に酔ってしまうのに王妃とか、無理よ無理。
それになによりも、あの王子達に会いたくない。
シャーロット10歳。
わたくしは魔道具作りにハマっていた。
趣味で作りまくった魔道具たちの中には商品化されたものもあり、知らぬ間にそこそこ自己資産を増やしていたわたくし。
と言っても、商品化する際はお父様に上手く素性を隠してもらって、クロス・セガールっていう男性の偽名でやっているのだけど。
本名で販売すると、わたくしの価値がさらに上がってしまって、また王家に目をつけられるんだとか。
どうやら両親は、わたくしがもっと幼い頃から、王家に取り込まれないようにしてくれていたみたい。
素晴らしい両親に、心から感謝したわ。
魔道具作りに関しては、なんせ前世の記憶があるもんだから、あれがあれば便利なのに!というのがかなりあって、それを精霊に相談した所『作ればよくね?』と言われ、作ったのがきっかけ。
クシ付きドライヤーとか、温水に変わるシャワーヘッドとかね。
そうそう、精霊たちはわたくしが前世の記憶持ちな事を、当たり前のように知っていたのよ。
だからよく、どんな世界だったのかとか、話を聞いてきたの。
「あなた達、本当に暇で、わたくしの話を聞きたくてわたくしの所にきたのね」
と、ある日言ってみた。
すると、6体の精霊はぷくっと頬を膨らませ、声を上げた。
『そんなことない!』
『他の奴らに勝って、勝ち残ったんだから!』
『2年も前からシャーロットの争奪戦してたんだよ!』
『僕らはエリート中のエリートなんだぞう!』
『精霊王が、ワシも!とか言い出して大変だったんだから!』
『今でもたまにシャーロットを狙うやつらがいるんだぞ!』
『僕らはシャーロットが好きなの!』
と、言われ、嬉しさに少し泣いた。
暇だったんだろ、とか言ってごめん。