episode.2 I want to solve the mystery someday.
シャーロット2歳になる少し前。
乳母に「歴史書が読みたい」と言ってドン引きされた。
いや、だって、知らない世界の歴史は気になるじゃない?
過去を学んで、そこから色々とふしぎ発見したいじゃない?え、したくない?そう?
別にミステリーをハントしにいきたいなんて我儘な未来を望んでいるわけではないけれど、前世で好きだったのよ、世界のミステリー。
ピラミッドとか地上絵とか…ああ、浪漫。
しかたないので、「まほうの本が読みたい」と妥協案を出したところ、ドン引きしていた乳母が我に返った。
「お嬢様に魔法はまだ早いですよ」
といわれ、わたしは泣いた。
赤子の頃から産声以来、1度も泣いたことの無いわたしは、盛大に泣いた。
毎日児童書ばかりで暇死しそうだったのよ。
だって中身は35+2歳よ?
過労死した程仕事に追われていたわたしが、日がな一日児童書って。
無理、暇、死ぬ。
という事で、「初めてお嬢様が泣いた!」と腰を抜かしかけた乳母から両親に話が行き、わたしは無事に邸の書庫へ連れていってもらうことに成功した。
シャーロット3歳。
わたくしの住処は書庫になった。
いや、書庫で寝泊まりしているわけではないわよ。
起きている時間はほとんど書庫に篭っていたの。
乳母は面倒のかからないわたくしにはもはや不要だったのだけど、優しいし好きだったからそのまま居てもらった。
何よりも生まれてからのわたくしを一番知っているわけで、もしわたくしが突然変な事を始めても、今はちっとも驚かないのが有り難い。
「まぁ、お嬢様ですからねぇ」で終わる。楽だ。
この頃には既に、貴族の中では『ヴァロワ家のシャーロット嬢は神童と名高い』と有名だったらしい。
書庫に篭っていたわたくしは知らなかったけれど。
この国というか世界の歴史は、ふしぎ大好きなわたくしにはうってつけな、それはそれは興味深いものだった。
女神アウラとその夫のシンドラという神がいて、その二柱が作ったのがこの世界らしい。
そしてこの二柱は、世界を作りっぱなしではなく、きちんと見守ってくれている。
神殿が各地にあるんだけれど、何か困ったことが起きた時とか、大事な事があると神託をくれるんだとか。
神殿とか神託とか聞くと聖女が居そうなイメージだけど、聖女はいない。
というか、聖女というものが存在しない。
ただ、二柱の声を聞くことが出来る人とか、治癒の魔法が得意な人とかはいて、そういう人は神殿か病院で働く場合が多いそうだ。
日本だと馴染みがないけど、洋画とかに出てくる、死の間際に神父さんが病院のベッド脇で聖書を読む…あんな感じの仕事もある。
二柱の声が聞こえる人が、死の間際の人の魂を『この者の魂をお二人の元にお返しします』と二柱に託すんだとか。
罪人とかが死ぬ時も、二柱に『この魂を持つ者は現世で罪人です』って伝えて、その魂を死後どうするかを託すらしい。
八百万も神がいるというのに、そういうのに疎い日本生まれのわたくしの脳味噌(1回死んだけど)では、神秘的過ぎて最初はイマイチ理解が及ばず、これについて書かれた本を何冊も読んで、ようやく、何となくだが理解はした。
ついでに、昔女神アウラと神シンドラが住んでいた神殿跡、という遺跡が、隣の隣の隣の隣くらいの国にあるらしい。
いつか行ってみたい。
やっぱり…出来ればいつか、ミステリーをハントしたい。
シャーロット5歳。
今日は神殿で祝福を受けるらしい。
よくあるあれよ、『○歳で神殿で魔法が貰える』とか『○歳で神殿でスキルが分かる』とかそういうの。
わたくしの世界のだと、5歳で神殿で祝福を受けると、適性があれば精霊さんがついてくれる。
その後魔法適性と魔力量の判定とかをするんですって。
そんなこんなで神殿の列に並ぶわたくしと両親。
「シャーロットはどんな適性があるかな?」
お父様がニコニコと笑う。
相変わらずイケメンだな、父よ。
前世ではわたくしが生まれてすぐに両親が離婚したんだけど、離婚後も何回か面会?をしたらしい。
でもわたくしが物心付く頃にはもう会っていなかったらしくて、父に関してはさっぱり記憶がない。
でもこんなイケメンではなかったのは、見ていなくても確実だ。
もしお父様が黒髪黒目だとしても、こんなイケメンな日本人いたら、逆に怖いわ。
「シャーロットならきっと、精霊さんが来てくれるわよ」
慈愛の笑顔を向けるお母様。
今日は神殿に来るためか、少し地味目のドレスだけれど、やっぱり可愛らしい。
今日はいつもある色気がないけれど、家で見るお母様は…そうね、美魔女?小悪魔?
可愛い系のお顔なのに、お胸があって、少し背が高めで、モデル並みなスタイルのせいかしら?
でもその中身は本当に天使なのよね。
あ、でももしかしたら、お父様には小悪魔な面を見せるのかもしれないわ。
わたくしが赤子の頃、たまに両親が、わたくしを愛でながら『瞳が可愛いシャーナによく似てる』とか、『眉が貴方に似てるわ』とか言いながらイチャコラしていたのだけれど、その時お母様が『お仕事ばっかりでわたくしもアンリもロティも寂しいわ…』って瞳をうるうるさせながら上目遣いで言って、直後にお父様がお母様をガシッと抱きしめて、凄い勢いでわたくしの部屋を出ていった事があったわ。
あの時のお母様、完璧に計算された仕草だった。
あの可愛さと色気は、大きくなったら是非見習いたい、と思ったわ。
そんな現世のお母様とは真逆で、前世で女手一つで兄とわたくしを育ててくれた母は、顔が疲れ過ぎてて、美人とは言えなかった。
元は綺麗だったり、可愛かったりしたのかもしれないけれど、本当にいつも疲れてて、健康な母の顔の記憶がないの。
そんな母はわたくしが中学の時に、過労死した。
死因まで遺伝してごめんね、前世の母よ。
「シャーロット・ヴァロワ」
名前を呼ばれて、両親と共に祝福の部屋へ入り、そこからはわたくし1人、てくてくと使徒さんの元へ。
使徒というのは所謂神父みたいな感じだけど、それより少し偉くて、二柱の声が聞こえる人のことよ。
神父とは違って、清潔感のある白いローブを着ているわ。
ちなみに使徒さんより偉い神徒さんていう職もあるわ。
普段の職位的には使徒の上司という位置づけだけれど、神徒は神託を受け取れる力のある人しかなれないらしいわ。
両親に見守られながら、使徒さんの前に両膝をついて祈りを捧げる。
祈りの言葉は決まっていて、『我に精霊の御加護を』なんだけど、それを口にした後、なんとなく心の中で呟いた。
(暇そうな精霊さんがいたらでいいのだけど、もし良かったら来てくれるかしら?)
すると目を閉じていたわたくしの周りが、ほんわかと暖かくなった。
それと同時に使徒さんの息を飲む声が聞こえ、目を開けた。
そこには精霊さんが6体いた。
マジか。
そんな暇な子が多いのか、精霊。
「こ、これは!6属性全て…しかも上位精霊!過去最高だ!」
使徒さんがそう声を上げれば、続けて両親も驚きの声を上げてわたくしを祝福してくれた。
「まぁっ!さすがシャーロットだわ!凄いわ!」
「ああ、凄いな!さすが我が家の天使だ!」
使徒さんと両親が盛り上がり、他の使徒さんたちが盛り上がり、わたくしは精霊達を見ながら若干引いていた。
その後の属性判定は、案の定というか6属性全て持っていて、魔力量も桁違いだった。
これはあれか、転生特典とかいうやつか?
帰宅後、精霊達に名前をつけてくれと言われ、あまりネーミングセンスのない自覚のあるわたくしは、闇をアインス、光をツヴァイ、水をドライ、火をフィア、風をフュンフ、土をヌル、と名付けた。
そう、ドイツ語の0〜5だ。単純がいちばんいい。
因みに、この祝福の内容は個人情報だから極秘らしい。
どんなに凄い結果でも、王家にすら報告しないんですって。
わたくしはこの世界を楽しんで、過労死なんてせずにきちんと人生を全うしたい。
だからよくある転生チートで有名人!とかになるつもりは無い。
だからこの世界に個人情報保護法的な法律があって、心底有り難いと思ったわ。
あと、念の為に確認したけれど、わたくしは別に精霊の愛し子ではないそうよ、ほっとしたわ。




