episode.14 Sharp Japanese Ninja.
それから数日後のランチタイムでの事。
今日は久しぶりに、カイン様、ソフィア、ミーシャと4人でのランチ。
今までもたまに4人でのランチはあったけれど、3年生になってからは初めてだったから、わたくし楽しみにしていたの。
そこに、招かれざる客が現れた。
「あっ、カインズ先生ぇだぁ!」
うわ、なにかしら、ピンク過ぎ男爵令嬢のミランと同じ口調なのに、彼女と違ってとてもイライラするわ。
「ん?ああ、そうだな。メイジーはカインズを知ってたのか」
そうだな、じゃないわよ、キース王子!
はやくその桃色をどこかへ連れて行ってくださいませ!
ここは中庭で、わたくし達以外の生徒達もたくさんいるのだけれど、その生徒達からコソコソと王子と編入生のよろしくない噂話が聞こえてきた。
何となく、例の編入生は全員に愛され体質なのかと思っていたけれど、そうでもないみたいね。
まぁそうよね、雰囲気からして関わると面倒そうだもの。
常識があれば近寄らないわよね。
だからお願い、こちらへ来ないで!
わたくしの願い虚しく、こちらへ向かって歩いて来る王子達。
敵は
桃色髪の少女×1
中身が6歳の崖っぷち王子×1
宰相の息子×0
多分神徒様の息子×1
他国からの留学生×0
▷ののしる
▷ぶつりてきにたたかう
▷まほうでたたかう
→あらゆるほうほうでこてんぱんにぶちのめす
わたくしの頭の中にロープレの様な選択肢が現れた。
いえ、本当に現れた訳じゃなく、わたくしの豊かすぎる想像力が作り上げたものだけれど。
しかも『逃げる』だとか『守る』だとかの選択肢が無いわね?…わたくしこんなに戦闘狂みたいな脳味噌してたかしら?
それにわたくし、前世でもこういう…ロープレのゲームは苦手でしたのに。
どちらかというと、『敵に会う→ぶった斬る→敵に会う→即座にぶった斬る!コンボうぇーい!』みたいな方が好みで、もっぱら〇〇無双とか〇ビ〇メイ〇ライとか、そういうのばっかり…懐かしい、ちょっとやりたい…って、そうではなくて…あぁ、なんてこと!?
ゲームの好みは十分戦闘狂でしたわ。
見たところ、敵は逆ハー狙いかしら。
他国からの留学生は今どの学年にもいないし、予定もないはず。
いつかの王女様みたいな思いつき留学(未遂)なんて、そうある事でもないですし。
カイン様と精霊さん達の調べによると、普段彼らの周りには宰相の息子もいるはずなのだけれど、今日はお休みなのかしらね。
「ロティ、どうする?」
隣のカイン様が、わたくしの耳元に顔を近付け、小声で問いかけてきた。
「出来れば逃げたい所ですけれど…一応王子ですし…何より避けられる気がしませんわ」
「まぁ、ねぇ…やれやれ、折角愛しい妻とその友人とのランチだというのに、迷惑この上ないな。とりあえず魔術の気配を探るチャンスだと思うか…」
そんなやり取りをしていると、向かいに座るミーシャが、怪訝な顔を隠しもせずに敵を見据えながらもこちらに話しかけてきた。
「あれってロティが関わりたくないって言っていた編入生よね?」
「ああ、あれがそうなのね…うぅ、キース王子だけでも面倒なのに、優しいロティが関わりたくないって言う程厄介な令嬢まで居るなんて」
ミーシャの隣のソフィアが戦慄して涙目になっている。
ああ、泣かないで、わたくしの大切なソフィア。
「大丈夫よソフィ。何かあればわたくしが守るわ。それにいざとなったらロティの宝刀であるシュヴァリエ先生がいらっしゃるのよ」
「そ、そうよね、わたくし耐えるわ!」
ミーシャ、そこは伝家の宝刀ではなくて…?
というかこの世界にもその言葉はあるのね?
うーんミステリー!
じゃなくて!ミーシャはシュヴァリエ家が影を司る家だと知っているのね…そして同意しているソフィアも…。
知らなかったのはわたくしだけ…うぅ、自国の貴族についての勉強は興味ないからってやらなかったけれど、サボらなければよかったわ。
今後は侯爵夫人として勉強しないとだわ!
それより先ずは、この猛禽類をどうするかが問題ね…。
「カインズせーんせっ!お昼ですかぁ?」
ていうか、なんでこの桃色はカイン様をシュヴァリエ先生じゃなくてカインズ先生って呼ぶのよ?
喧嘩売ってんのか?あぁん?
わたくしが怒りで血管をピクピクさせていると、肩にそっと優しい温もりが添えられた。
途端に怒りがしゅうぅぅと萎む。
いけないいけない。また猛っていたわ。
「やぁ、カインズ。君たちまだ別れてなかったんだねぇ。早く婚約破棄したらいいのに…シャーロットも大変だね?」
………婚 約 破 棄 ?
「そぉですよぉ、カインズ先生を解放してあげて欲しいですぅ」
「メイジー、迷惑してるのはシャーロットの方だよ」
「えぇ〜?そうなんですかぁ?メイジーにはそうは見えないからぁ、早くカインズ先生を解放して欲しぃなぁって思ってぇ」
「僕も早くシャーロットを解放して欲しいよ」
えーっと、会話の内容が全く頭に入って来ないわ?
…いえ、落ち着くのよシャーロット。
この2人の会話に内容と言える程の中身は無いわ!
しかも噛み合っていないから会話にすらなってないわ!
というか、婚約破棄って何を言ってるのかしら?このスカポンタン。
わたくし達、とっくに夫婦ですけど!?
と、わたくし達と周りがキース王子のありえない言葉に、ピシリと固まっていると、制服の上に神殿のローブを羽織った、多分神徒様の息子らしき令息?がなぜか頷きながらこちらに微笑んだの。
カイン様と精霊さんから聞いた話だと、この方の行動や言動を見る限り桃色編入生に惚れ込んでる様子は無いらしいのよね…何か意図があって王子達に侍っているのかしら。
「貴方が先生とご結婚されたシャーロットさんでしたか。僕はクラーク神徒の息子、ウィン・クラークです。父から結婚式での祝福の件を聞きました。シュヴァリエ先生、シャーロットさん、ご成婚お祝い申し上げます」
うん、やっぱり聞いていた通り、彼は普通だわ。
態度は少し偉そうにも感じるけれど、そこそこ偉い神徒さんの息子で、彼には既に神託を聞けるくらいの力があって、神殿で働いているらしいし…そう考えればまぁ妥当な気がするわ。
むしろマトモ過ぎて王子達のアホさが際立つわね。
そういえば今日はいない宰相の息子についても、カイン様も精霊達も判断が付かなくて微妙と言っていたのだけど、気になるわ。
カイン様も止める様子は無いし、彼とは話しても問題なさそうね。
「まぁ、ご丁寧にありがとうございま」
「ウィン、君何を言ってるの?」
「ウィン、頭でもぶつけちゃったのぉ?大丈夫ぅ?」
ちょっと、挨拶の途中で邪魔するなんて何考えてるのよ?
それでも王子なの!?
「殿下、このお2人は間違いなくご結婚されてます。しかも結婚式で女神様と神様の祝福まで授けられた運命の夫婦ですよ」
「「はぁ!?」」
驚きの声が王子と桃色から上がる。
普通に考えて、貴族ならわたくし達の結婚は周知の事実なのに、明らかに頭空っぽな桃色はともかく、キース王子はそれでも王子なの?
頭、大丈夫?
「嘘だろう?シャーロット、何か弱味でも握られているのかい?何かあれば相談してくれていいんだからね?なんなら、僕が言えば婚姻無効にもできる。だから我慢してカインズと結婚していなくてもいいんだからね?どうせ白い結婚なんだろうし!」
人の話を全く聞かないキース王子が、次々とわたくしの地雷を踏み抜いていく。
だいたいねぇ、弱味を握られての結婚なんて、女神様と神様が祝福してくれるわけがないでしょ!?
わたくしの血管がブチブチと切れていくのと同時に、隣のカイン様からも冷ややかな冷気が漂い出した。
なんなら冷ややかを通り越し、冷気が氷になってグサグサと目の前の敵を刺し貫きそう。
しかし今のわたくしは、カイン様を止める気はサラサラない。
「た、大変だわ、ロティとシュヴァリエ先生が過去最高にキレてらっしゃるわ!ミーシャ、わたくし達ではこの2人を止められないわ…ってミーシャまで!?」
そう、わたくしの前の席に座るミーシャからも、刺々しいオーラが発せられている。
土属性の適性が高いミーシャの魔力は、まるでその身を守る茨。
その棘が、今全て目の前の敵に向けられていた。
だって友達思いの強いミーシャだもの。
そして当然、わたくしはそんな優しいミーシャも止める気はサラサラない。
なんなら、「一緒に嫌いな王子をこてんぱんにのしてやりましょう」と言いたいくらいよ。
今の所わたくし達に非は無いし、何かあればきっと、カイン様が部下の影たちを使って何とかする。
それに王子はしょっちゅうやらかしてるらしいから、今の彼はなんとか首の皮一枚繋がっただけの、王子という地位にギリギリ立っているだけの人。
まぁ本人はそんな崖っぷちに立っている事は自覚していないようだけれど。
さぁ、どう血祭りにしてくれようか。
と頭の中でシミュレーションし始めた時、桃色編入生…メイジーといったかしら、彼女から泣き声が聞こえてきた。
「ひ、ひどいですぅぅシャーロットさん!カインズ先生ぇはメイジーのことぉ、好きって言ってくれたのにぃ、奪うなんてぇ」
は?
何ほら吹いてんだよ、このくそピンクが!
そんな嘘に騙されると思ってんのか?
こちとらイタズラ目的のバカとか嘘つきな客からのクレーム対応に関しては場数こなしてんだよ!
つーかなんでヒロインは揃いも揃ってピンクなんだよ、ふざけんな!(理不尽)
わたくしが沸々と怒りを魔力に変えていると、隣から「はぁ」というため息が聞こえた。
「ええと、君、名前知らないけど桃色の頭の」
「…えっ?せ、先生ぇ?それメイジーのこと?な、名前しらないって…ぇぇ?」
「そう、君。他に桃色いないでしょ。でさ、天地がひっくり返っても有り得ない嘘をつくのはやめてくれるかな?俺はね、生涯シャーロットだけを愛すると誓ってるの。そんなお粗末な魅了魔法にかかる程、俺のシャーロットへの愛は軽くないの。わかる?そのおツムじゃわかんないか。あぁ、不快だ。…連れて行け」
カイン様の命令で、いつもの如くジャパニーズニンジャが現れ、いつもの如く王子とメイジーが連れ去られて行った。
何となく今日のジャパニーズニンジャ達は動きがいつもに増してキレッキレだった。
もしかしたら主の怒りに触れた彼らに怒っていたのかもしれないわね。
ちなみにウィン・クラーク様は連れ去られる2人の後を普通に付いて行ったわ…。
その後、ジャパニーズニンジャの登場の直前にカイン様が口にしていた『魅了魔法』という単語に気付いたのか、わたくしと同じ様に猛っていたミーシャと、オロオロと涙目だったソフィアが、カイン様を見て目を瞬いたの。
「シュヴァリエ先生、先程の言葉、本当ですの?」
「魅了魔法って…禁止魔法ですわよね?たしか、見つかったら斬首並の…」
「うん、そうだよ。この間ロティからあの編入生が魅了魔法を使うかもって聞いていたから、今私に向けてかけるか探ってみたんだよ。そうしたら見事、私に何度もかけてきた。私にはロティがいるのに、笑っちゃうよね、本当」
そう言って朗らかに笑うカイン様は、なんだかスッキリしたお顔をされている。
わたくしはなんていうか…先程の猛ってた怒りの矛先が消えて、悶々とするのですけれど…まぁ不安だった存在が消えた事には、素直に安心したわ。




