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ズボラめし  作者: 小出 花
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卯の花

 結婚が決まって、幸せいっぱいのはずの元同僚から電話がかかってきて、愚痴られた。

『かーちゃんが、彼女を気に入ってなくて、面倒くさい。外見と、俺より学歴が高いのがやなんだってさ。あんたの息子は人の外見をあれこれ言えるようなイケメンでもあるまいし、高卒なのは俺が悪いんだし』

 なんだそれ、難癖っぽいな。

「今どき、女の人のほうが学歴が高いってよくあるのにな」

『だろー。俺より学歴が低いって、じゃあ中卒とか、高校中退の結婚相手だったら、それはそれで文句言うだろうに。結局、誰が相手でも気に入らないところがあるんだと思うわ。彼女と破談になったら、俺は一生独身だからって言うと、黙るんだけど、しばらくしたらまた同じことを言いだすんだよ。自分の母親がこんな人間だったって知ってショックだ。彼女がうちに持ってきた手土産にまでケチをつけてる。すげー美味しい菓子だったし、一番たくさん食べてたのはかーちゃんのくせに。今からこんなじゃ、結婚後の嫁いびりをやりそうで、たまらん。新居は彼女の実家寄りにしようと思ってる』

「それがいいかもな」

『あとさ、彼女が式も披露宴もしたくないって言うんだよな。新婚旅行もいらないって。これも、かーちゃんは気に入らないみたい。息子が結婚したぞーって大々的にやりたいんだって。そんで、新婚旅行のお土産を近所中に配るんだってさ。かーちゃんの若い頃は、派手にすればするほどよかったのかもしれないけど、もうそんな時代じゃないのに』

「式や披露宴って、女の人側の希望を優先するのがいいって言うしな」

『うん。でも、ウェディングドレスは着せてあげたいんだよ。あれって女の子の夢じゃないの? そうだと思ったから、結婚費用を頑張って貯金してきたのに。二人きりで海外ウェディングか、せめてフォト婚って言ったんだけど、それもいらないって言われた』

「あー、コンプレックスのせいかな」

『多分。でも、ドレス姿を彼女のおばあちゃんに見せてあげたいんだよな。見たら絶対喜ぶと思うんだ。あと、相談所の人によると、式も披露宴もしないカップルって離婚率が高いんだって。ひっそり入籍だけのカップルって、ひっそり離婚するって。マジ、そんなことになったら困る』

「おばあちゃんと、離婚率の話は説得にいいかもな。彼女は他人の目が気になるんだろうけど。コンプレックスがなくても、披露宴で見世物みたいになるのは嫌だって言う女の人がいないではないから、無理強いするのは可哀想かなあ。でも、写真を撮っておいて、将来子供たちに見せてやりたいとか、老後に眺めて楽しみたいとか、おばあちゃんに、撮影の見学に来てもらうとか」

『そうか。そうやって説得するといいのか。やってみる』

「ウェディングドレスは着なければ着ないで、年取ってから後悔する人もいるからなあ。フォト婚だけでもできるといいな」

『うん。それにしても、結婚したい、結婚したいって思ってたけど、いざ結婚ってなると、色々面倒なことが出てくるんだなー。でも結婚したい』

「…結局ノロケか」

『おお! 羨ましがってくれ!』

「はいはい、羨ましいよ」

『うわー! 本気で羨ましがってくれ! ほ、ん、き、で!』

 羨ましいよ。当たり前みたいに、結婚したいって言えるところが。


 介護されない年寄りになろう、の食事はまだ継続中で、今日は卯の花を作ることにした。

 人参はちょっと太めの千切り、いわゆる千六本。板こんにゃくはフォークでぷすぷす穴をあけてから、人参と同じくらいの大きさに切る。面倒くさい場合は、つきこんにゃくを三、四センチの長さに切る。切り揚げは鍋にあけて、お湯をかけ、ざるにとって、軽く油を落とす。

 鍋でごま油を熱して、人参とこんにゃくを軽く炒めてから、水と塩昆布、切り揚げとおから、酒を入れて煮る。人参が柔らかくなったら、しょうゆかめんつゆで味つけし、ごまを振る。

 ちなみに、やる気がないときには、超簡易版卯の花として、塩昆布となめたけ、水だけでおからを煮ることもある。塩昆布となめたけに味がついているので、だしも調味料もいらないが、香り程度にしょうゆを一たらしする。

 それと、おからはものすごく食物繊維が豊富で健康的だが、腸内環境がよくない場合はガスがたまってお腹が張ることがある。だから、一緒に何か発酵食品を食べて、善玉菌を補ってやるといい。ぬか漬けとかでもいいし、食後のヨーグルトでもいい。ある意味、おからを食べるのは腸内環境の良し悪しを判断するのに役立つ。

 残ったおからや切り揚げはそのまま冷凍できる。必要分だけ折りやすいように平たくして、冷凍室に入れる。

 板こんにゃくの残りは、フォークでぷすぷす穴をあけてから、二センチ角に切り、同じくらいの量の人参を同じ大きさに切って、粉末だし耳かき二杯分くらいと、鍋底一センチくらいの水で煮て、味噌コーヒースプーン二分の一杯くらいで味つけ、一味を振って、副菜にする。

 こんにゃくを適当な大きさに切って、冷凍すると、食感がかなり変わって、味がしみこみやすくなるのが面白いが、スポンジっぽくてイヤという意見もある。


『今度、ごはんを食べに行きませんか? 食べ歩きが趣味なんです。平日でも夜なら大丈夫です』

 と、会社員の女性からお誘いを受けたので、俺の平日休みに食事に行くことにした。俺の仕事帰りに食事に行くのは、遅い時間になってしまって申し訳ないから。

 店は彼女が決めたんだが、なんと居酒屋。彼女のイメージとは違うので、俺に合わせてくれたのかなと思ったら、居酒屋も好きだという。道理で、今日は以前に比べたら、シンプルな服装で、長い髪も編んでまとめてあった。仕事帰りだからというわけではなかったようだ。

 チェーン店じゃなく、地元に昔からある店で、料理が届くと、

「すみません、インスタグラムにあげる写真を撮らせてください」

 ささっとスマホで撮影していた。インスタ映えという言葉くらいは俺も知っているが、こんな普通の料理も撮るって、インスタグラムを日記代わりにしてるのかな。少なくとも、いいね、欲しさに撮る写真じゃなさそうだった。

 その後も来る料理を次々撮っていたが、食べるほうを楽しんでいて、お酒はあまり飲まない人らしい。

「土曜日の飲み会は楽しかったですか?」

「あ、あれは流れたんです。女性側のメンバーが集まらなくて」

「ええと、もしかして、同級生の態度が…、ええと」

 彼女が笑った。

「チャラかったからですか? はい。お友達をチャラいって言って申し訳ないですけど。押しが強すぎて、女性側が引いてしまって。あの人が来るならパス、ってことで」

「すみません。学生時代はいい奴だったんですけど、久しぶりに会ったら、なんか変わってました。俺が誘わなければよかったんですが」

「でも、あの人の押しがなければ、合コンをやってなかったかもしれないですし。今日の食事もなかったかもしれないです」

 にこっとされて、耳が熱くなった。

 彼女が俺に声をかけたのは、料理を美味しそうに食べてたから、だそうだ。

「え? いや、実際、美味しかったですよ。さすがレストランウェディングだなーって」

「美味しかったですよね。でもああいう場だし、料理が脇役になりがちな中で、美味しそうに食べていたのが印象的だったんです。それに綺麗に食べてたから。好きな具だけ掘って食べてたり、お皿のすみに、刻みネギを集めて残してる人とかいるじゃないですか。ああいうのダメなんです」

「ああ、確かに。それは見苦しいかも」

 彼女の食べ方も美味しそうだし、綺麗だ。

「一緒に食事して楽しい人って意外といないです。一人で外食するのは全然平気なんですけど、居酒屋って女一人だとナンパされるんです。女複数だと更に。私は、料理を、美味しく、食べたいんです」

 きっぱり言いきった。

 ……。ナンパ除けかもしれないが、ごはん友達ができたみたいだ。

 俺も彼女も翌日は仕事なので、居酒屋飯を楽しんだあと、その場で解散した。彼女から言い出して、割り勘。俺のほうがたくさん食べたからと、少し多めに出した。楽しかったし、俺は奢ってもよかったんだけど、彼女が、割り勘のほうが次も誘いやすいから、とのことだった。ほんとにごはん友達だ。



「卯の花」

 おから  二分の一袋

 人参   三、四センチ分

 切り揚げ 二分の一袋

 板こんにゃく 二分の一個

 塩昆布  十本くらい

 水    コップ三分の一くらい

 しょうゆ コーヒースプーン一杯くらい

 酒    カレースプーン一、二杯くらい

 ごま油  コーヒースプーン二分の一杯くらい

 ごま   コーヒースプーン一杯くらい


「卯の花 超簡易版」

 おから  二分の一袋

 塩昆布  十本くらい

 なめたけ 二分の一瓶

 水    コップ三分の一くらい

 しょうゆ 一たらし



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