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宇宙防衛隊コズブレジェンダーズ!  作者: ハリエンジュ
第一話『少年A・犬丸=スプリングフィールドは人間に非ず』
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8/13

その8 勇気の歌よ、銀河の彼方まで

★宇宙防衛隊コズブレジェンダーズ! 

第一話『少年A・犬丸(いぬまる)=スプリングフィールドは人間に非ず』

その8 勇気の歌よ、銀河の彼方まで


teller:犬丸(いぬまる)=スプリングフィールド


◆


 ヴァンガードがかっこよくってはしゃぎそうになったけど、今は戦艦が何者かに攻撃されている状況だと思い出す。


 それにヴァンガード、さっき穂祈(ほのり)ちゃんを『守る』って言ってた。


 ちらり、とおれの腕の中にいる穂祈ちゃんに目をやる。

 穂祈ちゃんは、きょとりとした表情でヴァンガードを見上げていた。

 まるで知らない人を見るような目。

 ヴァンガードは穂祈ちゃんのことを知っているようだけど、穂祈ちゃんはヴァンガードのことを知らないみたいだ。


 穂祈ちゃんが何者なのか、ヴァンガードは何故アプローズなのに喋るのか、どうしてヴァンガードが穂祈ちゃんを守ろうとするのか。

 全部全部、わからないことだらけだ。


 でも、これだけは言える。

 おれだって、穂祈ちゃんを守りたい。

 おれは穂祈ちゃんの前でかっこよくなりたい。

 まだまだ憧れにはどれひとつとして届かないけど、おれは穂祈ちゃんを守れるようになりたい。

 この子と、ずっと一緒にいる為に。

 この子を守りたい理由は喉の奥までせり上がって来ているけど、それは今じゃない。


 今は、ただ。


 ーーおれは、穂祈ちゃんにとってのヒーローになりたい。今すぐ。今ここで!


 がつん、とまた戦艦が揺れた。

 遠くでまた、ミサイルが飛び交うような爆発音が響く。

 すぐ近くにいるせいか、びくりと穂祈ちゃんが怯える様子がわかって胸が痛くなる。

 優しいこの子を怖がらせたくない。

 この子が傷つくことなく優しいままでいられるように、おれは。


 一歩踏み出し、おれはヴァンガードに乞うように言った。


「ね、ねえ! おれをきみに乗せてよ!」


「ナ……!? 何ヲ巫山戯(ふざけ)タ事ヲ……!? ワタシは自律戦闘機能ヲ搭載しテいル! 少年ノ搭乗ハ必要ナイ! イヤ、率直ニ言えバ足手マトいダ! 迷惑ダ!!」


「お願い、おれも連れてって! おれもきみと同じだよ、穂祈ちゃんを守りたいんだ!! 乗るよ!!」


「待テ、勝手にハッチを操作スルんジャ……待テ乗ルナ!! ナゼ人間なノに対話コミュニケーションを放棄スるノダ!!」


 ごちゃごちゃと抗議するヴァンガードに申し訳なく思いつつも、ヴァンガードのコックピットハッチを外側から無理くり操作する。


 だって外の戦闘音が大きくなっているから。

 きっと、時間がないから。

 おれは出来損ないの下っ端だけど、アプローズの基本操作は習ってる。

 習っている上で、今まで撃墜とかひどいミスばかりしてきた、けど。


 抱き上げたままの穂祈ちゃんを見つめる。

 目が合う。

 かち合った視線に、おれの鼓動はうるさくなる。

 穂祈ちゃんの真っ白な頬がほわりと色付くのがわかって、またおれの心臓が簡単に反応した。

 だけど今はドキドキしている場合じゃない。


「……穂祈ちゃん、おれと一緒に来てくれる?」


 おれの声は、緊張で硬くなっていた。

 喉がいつもより渇いている。

 何かを恐れるような、うっすらとした恐怖心がおれの背中に纏わりついている。

 戦うことへの恐怖よりも、何でもミスしてばかりの自分への絶望よりも、ずっとずっと昏(くら)い感情。


 ――おれは、出会うことができた穂祈ちゃんからの失望が、拒絶が、怖くて怖くてたまらなかった。


 だけど、穂祈ちゃんは。

 おれの首に腕をやんわり回したまま、はにかむように笑ってくれた。

 可愛い子なのに、とてもきれいな笑顔だと思った。

 凄く、すっごく可愛いのに。

 この子の本質はきっと、息を呑むくらいに、きれいだ。


「……一緒に、行きたい。私も、犬丸くんと一緒にいたい……!」


 きみの言葉が、またおれの心を揺らす。

 きみといっしょにいたいおれへの、最上級のアンサー。

 せり上がる理由を、まだ言語化していない穂祈ちゃんへの大きな感情を伝える代わりに、おれは穂祈ちゃんをぎゅっと抱えながら、一緒にヴァンガードのコックピットに入り込んだ。


 ヴァンガードの内部構造自体は、おれが乗ってきた量産のアプローズとそう変わらなかった。

 今までのアプローズを動かしてきた感覚、その時に犯してきた数多のミス。

 それらを、今までのみっともないおれを必死に思い出す。

 キャパオーバー寸前まで脳内で繰り返し繰り返し必死に思い出して、復習のつもりになって。

 おれは、ヴァンガードの両の操縦桿(そうじゅうかん)を握った。


 ――あの幼かった日、憧れたデイブレイカーにはまだずっと、果てしなく遠くて。

 デイブレイカーが着ていたような、コズブレ正隊員が着ているような、昔のおれが憧れていた赤と黒の隊服なんかじゃない。


 おれが着ているのは、いつものオーバーオール。

 いつもの、今までと何も変わらない犬丸=スプリングフィールドがここにいる。

 それでも今のおれは、今までで一番変わりたいはずなんだ。


「少年!? 正気カ!? 穂祈=トロイメライまでワタシに搭乗サセるナド、あなタはワタシの使命ヲ侮辱シテいルのカ!?」


「侮辱じゃない! だっておれ、きみの力にだってなりたいんだ、ヴァンガード!!」


 ヴァンガードのことは、さっき初めて見たばかりだけど。

 それはまあ、穂祈ちゃんもそうなんだけど。


「……ねえ、ヴァンガード。おれ、きみのこと凄くかっこいいって思ったんだよ。おれ、かっこいいもの大好きだ。おれはきみに、憧れてる! だからきみと一緒に戦いたい! おれは穂祈ちゃんを守りたくて、穂祈ちゃんを守りたいきみを助けたいんだ!」


 論理的には程遠い、正直な気持ちだけで出来た言葉をヴァンガードにぶつける。

 おれの言葉が届くはずないってわかってたけど。

 きみをかっこいいって思った気持ちは何も嘘じゃないんだよ、ヴァンガード。


「……あ。ヴァンガードって、ずっと呼ぶとしたら長い名前だよね」


「ハ??」


「じゃあ、あだ名で呼ばせて! おれ、きみとすっごく仲良くなりたいから! ――よろしくね、ヴァン!!」


 自分勝手に愛称を口にして、おれは改めて操縦桿(そうじゅうかん)を強く強く握り直す。

 勇気を出す為に。

 おれの勇気の象徴のゴーグルはもう付けているけど、もっともっと欲しい。特に今は。



 ――アプローズ。

 機体ごとに薔薇(ばら)の品種名を名付けられた、咲き誇る戦士。

 この宇宙における、人型戦闘ロボット。

 主にコズブレが組織全体で擁しているロボット郡。


 起動の合図を、おれは心の中で何度も練習する。

 薔薇の戦士を、咲かす言葉。

 咲き誇るための、言葉。


 緊張でバクバク騒がしい心臓の音が、外の戦闘音すら掻き消しそう。


 アプローズ、とは。

 搭乗者の『勇気』を原動力にして動き、『勇気』に呼応して力を増す、搭乗者の心と密接にリンクしたロボ。

 おれみたいに、少しの失敗や焦りですぐに勇気を損なうやつが乗ったら動きに影響が出る。

 そんなの、身をもって知ってる。


 だから今のおれはいっぱい、勇気を求めた。

 今までのおれとは、少し違う自分になりたいから。

 穂祈ちゃんとヴァン、二人と一緒に勝ちたいから。


 だからおれに応えて、ヴァン。

 宇宙一かっこいいアプローズ、ヴァンガード。

 今、おれに力を貸して!

 


「――っ、薔薇(しょうび)・勝美(しょうび)! 百歌繚乱(ひゃっかりょうらん)!!

ヴァンガード!! Brave up(勇気を出して)!!」



 起動の合図を、口にした。

 アプローズの為の、アプローズを呼び起こす為のトリガー。


 瞬間、コックピット内部が、かっと強い光に包まれる。

 それはきっと、機体全体が同じだ。


 眩しさに反射で目を閉じて、次に目を開けた時。

 そこは、宇宙空間だった。


 驚いて、言葉の体を成していない素っ頓狂な声を上げるおれ。

 確かに息をひゅっと呑んだ穂祈ちゃん。

 どうやらヴァンガードには、すぐに戦場に駆けつけられるようにワープ機能が備わってるらしい。


 コックピットは、いつの間にか暖かい緑の光に包まれていた。

 ヴァンには、ヴァンガードの機体には、こんな風に装備もないおれたちを宇宙空間から守る機能があるらしい。

 ……ヴァンは、かっこいいだけじゃなくて、すっごく優しいロボットなのかも。


 モニターの小窓には、今の【ヴァンガード】の姿の全身図が描かれていた。

 ついさっき目の前で相対したヴァンとは、また違う姿。


 大きさはそのまま。5m級。

 頭部には同じく角があるけど、針のように細かった角が槍のように切っ先を尖らせ、より凛とした強さを増していた。

 分厚くもデザインに蜂のような刺々しさがあった装甲は、より強固な装甲に。

 様々な箇所に鋭いトゲがあしらわれていて、ただの蜂というより殺人蜂キラービー、と呼べるくらい攻撃性も強くなっている。

 ブースターも露になって、空中戦も難なくできるようになったらしい。


 そして、ヴァンガードは武器を持っていた。

 第一印象は、剣。

 でも、どこか構造が量産機とは違う。

 あちこちにカラフルな、でも澄み切った色を持つ石が埋め込まれている、不思議な形の剣。

 まるで変形を前提に造られているように、ギミックが見え隠れしている。


 これが、ヴァンガードの戦闘モード。


 こんなにかっこいい機体なのに、その色合いは初めて見た時と変わらない。

 とても優しい色をしている。


 ヴァンの優しさと、おれの勇気で勝ちたい。

 それで――穂祈ちゃんを守るんだ。絶対に。


 モニターに表示されている周辺宇宙のマップを確認する。

 戦艦を攻撃しているのは、純白の戦闘ロボットだった。

 なのに、マップを参照しても白いロボットの内部には一切の生体反応がない。


「……無人戦闘機……?」


 おれがぽろっと口に出した言葉に反応したのは、ヴァンだった。


「イヤ、ソれハ違ウ、少年。あレはロボットではナイ。宇宙空間ニ廃棄さレた戦闘機ヲ乗っ取リ侵食シテ同化した――宇宙災害指定クリーチャー、【ヴァーミリア】ダ。生態ハ貪欲ナ儘(まま)ニ他ノ生命ヲ喰ラウ破壊型……此処デ食イ止め撃破シナけれバ宇宙ガ喰イ尽クさレテしまうゾ!!」


「わかった! あいつらを倒せばいいんだね! 行こう、ヴァン!」


「待テ少年!? ソンナ行キ当タりバッタりナ……!?」


 戦艦が集中的に攻撃されてるからか、他の隊員は防戦メインで前線には出てないらしい。


 ……おれが。

 おれが、頑張るんだ。

 誰かを守りたいんだ。

 穂祈ちゃんを守りたいんだ。

 ヴァンを助けたいんだ。

 今度こそおれは、本当の意味で誰かの為に生きたいんだ。

 かっこいい『人間』に、なるんだ!!


 決意して、ヴァンガードの機体をようやっと操作する。

 まずは宇宙をビュンビュン飛び回り【ヴァーミリア】を撹乱しようとする。

 おれの悪い癖がまだ残っているせいで、コックピットがいちいちガタガタと揺れる。

 歯を食いしばって、血が滲むくらい強く操縦桿(そうじゅうかん)を強く握り締めて、せめて穂祈ちゃんが苦しまないようにと揺れを最小限に抑えようとする。


 おれの悪い癖。

 アプローズに乗ると、機体がおれの言うことを聞かなくなる。

 自分の操作イメージの感覚と、アプローズの俊敏な動きに、著しいズレがあるんだ。

 いつもこっちが勢い余って、敵はおれの想像を超えた浮きを見せるものだから、戦闘中のおれはいつも混乱してばかりだった。


 機体に振り回されるな、追いつけ、追いつくんだ、ヴァンガードの力に。

 このかっこいいロボットに完全に相応しい、有能なパイロットにはまだなれない。

 なれなくても、なれないからこそ食らいつけ。


 こんなおれでも――いや、こんなおれを今変えたいんだよ。変わるんだよ!!


「……あ」


 スピードを出し過ぎてしまうヴァンガードと、おれを翻弄する【ヴァーミリア】の敏捷性に焦りが募っていった頃。

 それまで『戦闘』という状況に困惑していたのか黙っちゃってた穂祈ちゃんが、ぽつりと声を漏らした。

 声に反応して、おれまで思わず操縦の手を緩ませたら――気付いた。


 ヴァンガードの操縦にいっぱいいっぱいになっていたけど、ヴァンガードから聴こえていたオルゴールの音が、大きくなっていた。

 穂祈ちゃんが眠っていた白い病室でも流れていた旋律。

 きれいな、メロディ。

 今まで聴いたことがないからこそ、新しい美しさに惹かれるメロディ。

 この曲は一体、何なんだろう。


 おれが疑問を口にするよりも前に、穂祈ちゃんが目を閉じて小さく息を吸い込んだ。

 そして――穂祈ちゃんは、歌い出した。

 オルゴールの旋律をなぞるように、おれの知らない言葉で、よく通るように、でも澄んで儚さもある、泣きそうなくらい美しい声で、穂祈ちゃんは歌い続けていた。


 どうして、なんて言葉すら浮かばなかった。

 だって、歌う穂祈ちゃんがあまりにも綺麗だったから。


 穂祈ちゃんの歌声は、オルゴールから流れる旋律は、確実におれの心を癒していった。

 少しだけ、落ち着けた気がする。

 モニターを確認すると、白い【ヴァーミリア】たちはまるで動揺したようにぴりぴりと身をぎこちなく震わせていた。

 完全に、動きが止まっているらしい。

 歌の影響?

 理由は、わからないけど。


 今だと思った。

 穂祈ちゃんの歌声をBGMに、おれは再びヴァンガードを翔ばせて。


 目を、見開いた。

 知らない感覚が、さっきから連続で押し寄せてくる。


 機体のスピードが上がりすぎない。

 揺れが少ない。

 おれでも、スムーズにアプローズを――ヴァンガードを動かせる。


 穂祈ちゃんの歌が、おれとヴァンガードの仲を取り持ったみたいだ。


 平和の歌。愛の歌。祈りの歌。

 なんて、優しさに溢れた歌声なんだろう。

 また一つ、穂祈ちゃんへの特別な感情がはっきりしていく。


 かつてないくらい、自分自身と一体化したように操縦しやすくなってるアプローズ、ヴァンガードを駆って、数体の【ヴァーミリア】を装備されていた剣でぶった斬る。

 距離が遠い数体の敵には、剣ではなく両肩の辺りに設置された小型追尾ミサイルを発射し、見事に命中できたので爆散させる。


 残りの敵は、一体。


 他の【ヴァーミリア】より大柄だ。

 素体となった廃棄戦闘機のサイズが大きかったのだろう。


 装甲が硬く重そうだ。剣はきっと通らない。

 丈夫な装甲を考えるとミサイルは……残りの残弾だけで対処できないかも。

 

 あまり良くない頭でそんなことを考えて、メインウェポンの剣に変形機能があることを思い出した。


「ヴァン!! もうあの敵だけなんだ、倒したいんだ! どの武器なら効くと思う!?」


「……頑丈ナ装甲ナラ、操縦桿(そうじゅうかん)側面ノ黒いボタンヲ押セ! 穂祈=トロイメライの歌デ敵ガ弱体化シテいル内ニ、変形武器デ破壊シロ!!」


「わかった、ありがとヴァン! ……穂祈ちゃん、もう少し頑張れる?」


 歌いっぱなしの穂祈ちゃんを心配しつつも声をかけると、穂祈ちゃんは疲れた顔をしながらも、おれに。

 ――こんなおれに、また笑ってくれたから。

 おれだって頑張りたくなったんだ。

 頑張れる自分を、いま好きになれそうなんだ。


 だからおれは今、勝つ。終わらせる!


 ヴァンの指示通り、操縦桿(そうじゅうかん)の側面を見る。

 ヴァンガードの剣に埋め込まれた石の色に対応した配色のカラフルなボタンが並んでいた。


 おれは迷わず、話題に上がった黒いボタンを押す。


 不思議と、言葉は脳の奥から響いた。

 これを唱えろ、という誰かの声を、おれの心は確かに受け取っている。


「花装(かそう) 開花(かいか)! モード:フレイル!!」


 おれの言葉に合わせて、剣がガチャガチャと組み変わる形で新たな武器へと変形した。


 ――フレイル。

 柄の先に伸びた永く頑丈な鎖のその先に、無数のトゲで武装された巨大な鉄球が存在感を放っていた。

  蜂の姿よりもずっと、攻撃の意志が強い武器。

 この武器を、おれは守る為に振り下ろすんだ。

 穂祈ちゃんへの大きな想いも、ヴァンガードへの好意的な感情も、おれの夢も。

 全部、守る為に。


 穂祈ちゃんの歌声に包まれながら、おれはヴァンガードを通してフレイルを握り締めて、【ヴァーミリア】の最後の一体に飛びかかった。

 勢い任せに振り下ろした鉄球は【ヴァーミリア】の頭部を一撃で潰し、貫通の延長で胴体の一部も潰し壊していく。

 ばち、ばち、と【ヴァーミリア】から良くない雰囲気の火花が放たれるのがわかった。

 おれが慌ててブースターを駆使して後方にヴァンガードを退避させたその時。

 【ヴァーミリア】は、爆炎と共に大破した。

 

 宇宙に、静けさが訪れる。

 歌い終わった穂祈ちゃんは体力が尽きたのか、ふらりとおれに寄りかかったので、慌てて抱き留める。

 自然と目が合うのが、嬉しかった。

 お互いがお互いの近くにいることに、ひどく安心する。

 穂祈ちゃんも、おれに微笑んで、おれの背中に腕を回してくれた。

 おれもたまらず、穂祈ちゃんを抱き締めた。



 おれはまだ、人間じゃない。

 だけどおれ、初めて勝った。

 こんなおれでも、やり遂げられたんだ。

 穂祈ちゃんとヴァンのおかげだけど、そんな二人がおれは大好きになってしまったから。

 おれはやっぱり、この二人を助けられる光になりたい。


 人間になりたい夢を、また追いかけたいとおもえた。

 穂祈ちゃんを、ヴァンを照らせる光になりたいという新しい夢もできた。


 ……良かった。

 おれ、まだ走れる。まだ、笑える。

 世界の脇役でしかなかった、舞台の隅の少年Aがお似合いのおれでも――諦めるには、まだ早い。

 抱き締めたいくらいの希望と未来が、おれを待っている気がした。



◆



「お犬(いぬ)!!」


 戦艦に戻るなり、狼(ろー)兄ちゃんに心配そうに声をかけられた。

 艦長の千永(ちえ)ちゃんも一緒だった。

 あと、見覚えあるなしに関わらずコズブレ隊員の皆さん。

 おれが連れてきた穂祈ちゃんとヴァンにようやく気付いたのか、周りが驚いたり不信感をいっぱいにじろじろとこちらを見てくる。


 ――そうだ、穂祈ちゃん。


 さっき初めて出会った頃から漠然と形になっていった気持ち。

 どんどん募り大きくなっていく気持ち。

 言わなきゃって、思ってたんだ。

 言いたいって、願ってたんだ。

 まだ穂祈ちゃんのこと全然知らないし、あの歌がなんなのかもわからないのに。

 おれは、それでも穂祈ちゃんとの出会いを奇跡だと思っていて。


 抱っこしている穂祈ちゃんの目を見る。

 頑張って、おれには慣れてない真剣な表情を心がける。


 そして、すうっと息を吸い込み、おれは一世一代の大勝負に挑んだ。


「穂祈ちゃん!! おれ……穂祈ちゃんのこと、大好きです!! おれと……おれと、結婚してください!」


 しん、と辺りが静まり返る。

 だけど数拍置いて、穂祈ちゃんはきょとんと瞬きを繰り返し、やがてはにかんだように笑って。

 はっきりと、頷いてくれた。


「うん……私も、犬丸くんが大好き……ずっと一緒にいたい……だから……結婚、したいです……犬丸くんの、傍に、いたいの……」


 ――さっきよりも、辺りが静まり返った。


 それでも、一番最初に我に返ったのは、おれだった。


「っ~~!! ありがとう、穂祈ちゃん!! おれ絶対絶対、穂祈ちゃんを宇宙一幸せにするからね!! 大好き!!」


「ありがとう……私も、犬丸くんがずっと笑顔でいられるよう、頑張るね……大好きだよ……」


 お姫様抱っこした状態で穂祈ちゃんをぎゅうぎゅう抱き締めるおれ。

 ほっぺたを染めながらおれを抱き締め返してくれる穂祈ちゃん。

 そんな、二人っきりの世界の横で。


「……ハァァアアァアァァアアア!?!?!?」


「はああああああ!?」


 ヴァン含めた、周囲の驚きすぎた奇声じみた叫びがぎゃんっと騒々しく辺りの音支配したけど、おれはただただ、幸せだった。


 まだまだ前途多難だろうし、まだまだわからないことだらけだし、おれ一人だとてんで弱い。


 そんな、何も解決していない状況だけど。


 ――生まれて初めて、最愛の女の子ができた。


 世界がざわざわ騒がしい中、おれの勇気を呼び覚ます音と、初めての恋にときめく音が調和して、宇宙を包む勢いで穂祈ちゃんへの気持ちが大きくなる。



 これが、おれの本当の始まり。


 ――初めて知った愛しいは、いつか、無限大の勇気に変わる。



◆

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