その7 ヴァンガード、此処に咲く
★宇宙防衛隊コズブレジェンダーズ!
第一話『少年A・犬丸=スプリングフィールドは人間に非ず』
その7 ヴァンガード、此処に咲く
teller:……………………
――エネルギー充填完了マデ、残リ30秒。
センサー良好。おるごーる、に反応アリ。
起動マデ、残リ――。
――守らネば。
ワタシが、目覚めタ理由。
守ル。
ソノ為ダケニ、ワタシはイマ――。
◆
teller:犬丸=スプリングフィールド
戦艦の揺れが収まった頃、もう一度おれは穂祈ちゃんをしっかりと抱き上げて立ち上がった。
もう一度、この両手にこの可愛い女の子を守るように抱える。
守りたい。
そればかりを強く感じた。
おれを許してくれたこの子のことだけは、何が何でもおれがこの手で守りたい。
眠る彼女を初めて見た時より強い感情が、胸の奥で全力で存在を主張していた。
さっきからほっぺたにあったかいものが触れている気がして、視線をずらす。
穂祈ちゃんがおれの頬に片手で触れて、涙を拭ってくれていた。
結局おれはまだ泣き虫のままで、まだ、人間じゃない。かっこわるい。
狼兄ちゃんはおれを人間だって言ってくれたけど、まだ全然人間じゃない。足元にも及ばない。
まだ。そう、まだ。
だっておれはまだ、穂祈ちゃんのことだって一回も守れてない。
穂祈ちゃんの指で丁寧に涙を拭われながら、おれは遠い遠い言葉を思い出していた。
『――知ってるか? サングラスをかけりゃ、誰でもいつでもヒーローになれるんだ』
デイブレイカー。
おれにとって一番かっこいい最強無敵のヒーロー。おれの憧れ。おれの夢。ああなりたい、おれの理想。
おれは。
おれは今、かっこよくなりたい。
――おれは今、ヒーローになりたい!
額に、キャスケットと重なる部分に引っ付けてたゴーグルをずらす。
涙で濡れてた瞳が、見慣れたレンズに覆われる。
涙を隠せば、少しは世界が違って見えた気がした。
世界から見えるおれも、穂祈ちゃんから見たおれも、少しは違って見えるといい。
おれの、こころのお守り。
勇気の象徴の、このゴーグルで。
変身完了! あとはもう、頑張るしかない!
「穂祈ちゃん、あの新しい扉の向こうに行こう。おれが来た道、檻とかあって行き止まりだから……まず進もう!」
穂祈ちゃんを抱き上げたまま、病室に突然出現した扉へと足を向けると、穂祈ちゃんの視線を感じた。
ぎくりとしそうになる。
身体の自由のきかない穂祈ちゃんを勝手に連れてくことになるわけだから、穂祈ちゃんを不安にさせない為に、信じてもらう為に言葉を尽くさなきゃと頭の中がいっぱいいっぱいになりそうだ。
だめだ、変身したじゃん。
今のおれはヒーローだって暗示かかってるはずじゃん。
かっこよくいかないと。
きみを守るよ、ってかっこよく誓いたいのに。
「……私……じゃま、じゃないの……?」
なのに、穂祈ちゃんの口から出てきたのは予想外の言葉だった。
その言葉がちくりと寂しくて苦しくて、横抱きにしたままの穂祈ちゃんを無性に抱き締めたくなった。
この子を抱き締めたい気持ちが、溢れて溢れて。
「――おれは、きみと一緒にいたい!」
気持ちが溢れすぎて、悲しみを通り越した先まで溢れて、おれは穂祈ちゃんの前で初めて笑えた。
きょとんとしている穂祈ちゃんに、おれは溢れた勢いでさらに言葉を足す。
「ずっと傍に居たいから、おれがきみをいつだって守るよ! だから一緒に行こう! 穂祈ちゃん!」
穂祈ちゃんの瞳が、ゆらりと揺れた気がした。
それこそ今度は穂祈ちゃんの方が泣きそうなくらい。
ゴーグルのレンズ越しに穂祈ちゃんと視線が合う。
なんでだろう。初めて見た時から、この子とはずっと見つめ合いたくなる。
穂祈ちゃんが、掴まるようにゆっくりゆっくりとおれの首に腕を回した。
「……ありがとう。私も、犬丸くんと一緒にいたい」
初めて穂祈ちゃんの声で呼ばれたおれの名前は、病室に響くオルゴールの音色より、遠くで響くミサイルの音や爆発音よりずっと強い音な気がした。
なんでだろう。
きみが名前を呼んでくれるだけで、おれはいつもよりずっと強くなれる気がする。
戦艦が攻撃されているだろうに、おれと穂祈ちゃんは二人で内緒話するみたいな距離で笑い合って、扉の向こうを目指して、知らない世界へと歩き出す。
あの日おれの頭を撫でてニヒルに笑ったデイブレイカーよりはきっとずっと子どもっぽい笑顔だったろうけど、今日のおれのヒーローの真似事は調子が良い。
変身の効能がまだ続いてる。
涙がもう乾いているのが嬉しくてたまらない。
弾む足で、穂祈ちゃんをぎゅうっと抱えたままおれは扉の前に立つ。
その瞬間扉は光って、静かに開いた。
そこは想像していたよりも暗い空間だったけど、怖くはなかった。
灯りがゼロなわけじゃない。
おれの視界にちゃんと穂祈ちゃんが見えるなら、この手に穂祈ちゃんがいてくれるなら、この子を守る為に頑張れるなら。
おれはむしろ暗闇を照らす側になれる気がした。
ずっと、照らされるのを待っていたのに。
おれにもスポットライトが当たって主人公になれる日を待ち望んでいたのに、今のおれは歩き方から、息の仕方からいつもと違う。
おれは今、知らない『劇的』の中にいる。
知らないステージを、踏み荒らしてる。
そして、いつもの舞台と違う証拠は、向こうからやってきた。
「――少年、止マレ。速ヤカにソノ少女ヲ解放シロ」
地響きにも誓い、低く重たい声が聴こえた。
空間が少しずつ明るくなる。
目の前に既にあったらしい灯りが、次々に点いていく。
おれが穂祈ちゃんに呼ばれた自分の名前を『強い』と感じたように、穂祈ちゃんを見つけてから空間に響き渡るオルゴールの音色が、知らない旋律の音が、より強くなった気がした。
ぼんやりと確信する。
オルゴールの音は、目の前にいる巨大な『誰か』から聴こえている。
灯りが点灯しきって、彼は、声から察するにたぶん『彼』は、その場に姿を表した。
5m級の、巨大な人型ロボット。
造形はコズブレジェンダーズが擁する人型歩行戦闘ロボット『アプローズ』に近い。
でも量産機と違って、針のような角が頭部に生えている。
青いような、緑色のような。
海のような草原のような、どこか懐かしい優しい色をしてる機体なのに、機体を覆う分厚い装甲は所々が蜂を思わせるほど刺々しいデザイン。
優しい色なのに、確かな攻撃性を感じる。
あと、胸部と言うか心臓部だけ異質な造りだ。
無理くり何かが埋め込まれて光っている。
きっとあれが、オルゴールの正体。
見たことのない機体だ。
それに、何より。
「……ワタシはアプローズ、『ヴァンガード』。ワタシの使命は、穂祈=トロイメライを守るコト。その為に、ワタシも目覚めタ。少年、あなたハ此処にイルべきデは」
「かっっ……こいい……!!」
「……ハ?」
「角かっけえね! 声低くてかっけえ! その、ほら、装備……剣? デカいネギみたいでめちゃくちゃテンション上がる!」
「イヤ違ウ。葱ではナイ、少年」
「長い棒状のものって持ってたらこうさ、ガーッてくるじゃん! 形いい長ネギとか手にしたらこう、」
「葱カラ離れロ!! 少年!!」
それに何より、かっこいい。
見たことのない、未知の機体。
何でかわからないけど、喋るアプローズ。
感情に合わせてなのか、頭部の目のような模様の灯りの色がコロコロ変わる。
かっこいい。
いつもと違う理由がわかった。
もう主人公がそこにいる。
目の前の彼がそれだ。
だってこんなに、シビれるくらいに煌めいてる。
全部を照らすくらい眩しい灯りに、おれは惹かれてやまない。
とある銀河の、とある出来事。
おれはこの日、宇宙一可愛い女の子と出会って、宇宙一かっこいいロボットに出会った。
宇宙全体から見たらちっぽけな出来事だとしても、おれの心がそれ以上にでっかい宇宙を作り続けて、広がっていく。
◆
人間オーディションの真っ只中。
まだおれは、ステージに立っている。
まだライトは、消えてない。
まだ、おれは諦めてない。
人間だけじゃなく。
ヒーローだけじゃなく。
おれは見つけたばかりの二つのおっきなライトそのものを抱き締められるくらい、強い光にもなりたくてなりたくて、今まさに欲張りに走り出していた。




