おまけ 結婚するのなら(キース視点)
初めて魔物を殺したのは9歳のときだった。
父の指示の元、レオンと大オオカミを挟撃し討ち取った。
血だまりに沈む大オオカミと無表情だが満足げに私達の頭を撫でる父。
このときに私とレオンは確信した。母が間違っていたのだと。
ベスティエに平穏はない。
有無無象に湧いて出る魔物と昼夜問わず戦い続け、種の存続のために家族をつくる。毎日誰かが死に誰かが生まれる。殺すか殺されるか生きるか死ぬか。それが私たちの日常だ。
家族は私を含めて4人いる。
父と母と双子の兄。
男は魔物を狩り、女は家を守る。どの家もそれは同じで私たちは母親に育てられた。母が求める理想の男として。
母は父を非難しながら私たちを育てた。
お前達の父親は横柄で横暴だ。父親のようになってはいけない。常に女性を気遣い労り意思を尊重する男になりなさい。毎日毎日刷り込むように言い含められた。
幼い子供は親が世界だ。
涙ながらに語る母はとても哀れで、それを肯定するように父は帰宅するなり母を連れて部屋にこもるから母の話は真実なのだと信じて疑わなかった。
私もレオンも父を嫌っていた。父のようにはなるまいと母の理想通りに育っていった。
だが7歳のとき、初めて参加した魔物討伐で父が命懸けて戦っていることを知った。父の印象が大きく変わった。同時期に戦闘訓練が始まり、私たちに魔物との戦い方を教え守り導く父は本当に母が語るような人物なのか。母への疑念が膨らんでいった。
そうして9歳のときに私とレオンは確信した。母が間違っていたのだと。
父に母のことを告げれば無表情に言われた。
「知っている」
女はそういう生き物だから仕方がない。彼女達の抱える不満は身勝手なものばかりで、そのことを自覚しているから男のいない場所でしか不満を口に出せないのだと父は語った。
感情的で自制心のないレオンは憤慨した。
父に守られているくせに文句ばかり言い被害者ぶる母も、そんな母を知りながら何も言わない父も理解できないようだった。
不本意だがそれは私も同じだった。
「お袋に言われっぱなしでいいのかよ。ダッセェなァ」
「なぜ母に苦言を呈さないのですか? 理解できません」
「あァ? 真似すんなよ、殺すぞ」
「レオンが私の真似をしたのでしょう。死んでください」
「「……。」」
「やめろ、お前達。殺し合いは禁止だと何度言えばわかる…」
私とレオンを縛り上げながら父は言った。
「妻と子を守るのが夫の仕事だ」
「答えになってねーよ」
「答えになってません」
「「……。」」
「…こら、蹴り合うな」
父は私とレオンの足も縛った。
「妻の仕事は家を守ることだ。俺が留守の間、家を守りお前達を育てる。飯も清潔な服も全て彼女が用意したものだ」
結婚とは男女が夫婦の役目を全うするための契約であり、母はその役目を全うしているため、母が陰でなにを言っても父から文句を言うことはないのだそうだ。
「もちろん彼女が直接私に不満を言えば、私も言葉を返す。結婚当時は何度かあったな」
お前は私の妻だ、ならば黙って私の言うことを聞け。一人では生きられないくせに文句だけは一人前だな等の正論を言えば母は黙ったそうだ。
「それに…私に媚びへつらうくせに陰で文句を言う彼女は愚かでかわいいだろう?」
「「全っ然」」
「…そうか。まぁお前達も妻ができれば、もしくは恋をすればわかるだろう」
縛り上げた私たちを木の枝にくくりつけて父は魔物討伐に行った。
「はあー? 意味わかんねェ~」
「……。」
レオンは蓑虫のように暴れ回っていたが、私は父の言わんとしていることがわかった。
ようするに女は男より劣っているのだ。肉体的にも知能的にも。
母は父に不満を持っているのに陰で文句を言うだけで改善しようとしない。家を出て一人で生きれば父から逃れられるのに。
もちろん魔物がはびこるこの世界で女性が一人で生きることは難しい。だが不可能ではない。道具と戦術を駆使すれば子供にだって魔物を倒すことができる。子供にできることを成人女性ができないわけがない。方法があるのに妻の仕事に甘んじて家を出ようとしないのは、そのことに気付けないからだ。女は知能が低いのだろう。
だから男は女を守らなくてはいけないのだ。
種の存続のために女は必要だ。妻という女を生かすのも夫である男の役目。
なるほど確かに理に適っている。
「あ、そっか。俺、結婚しねーわ。それでいいなァ。俺、女嫌いだし」
「……。」
納得していたら隣でレオンも自己完結して笑っていた。
どうしてこの男は私の真似ばかりするのか。
「お前は結婚すんの?」
「しますよ。当たり前でしょう。男の義務ですから」
だから胸を張って答えた。
私とレオンは正反対なのだから。
「あーよかったァ。これまで真似されたらキモすぎて吐くところだった」
「それはこちらの台詞です」
「「……。」」
蓑虫状態で体当たりしあいながら思う。
どうせ結婚するのなら愛する女性を妻に迎えたいと。そして妻にも私を愛してほしいと。
父は母を愛しているようだった。妻を愛するのは夫の仕事ではないから、きっと本心から母のことを好いている。
それが少しだけ羨ましい。
母は父が目の前で魔物に殺されたとしても怯えるだけできっとなにもしない。それは子供が殺されても同じだろう。彼女は弱い人間だから。それが女という生き物だから仕方がない。
でもきっと父は母が魔物に襲われれば身を挺してでも守る。それは夫の仕事であると同時に母を愛しているからだ。
妻に迎えるのなら、私のことを身を挺して守ってくれるような馬鹿で愚かな女性がいい。
私のことを心配して、私の死を恐れてくれる、そんな女性がいい。
この世界では特異で叶いそうにない夢だから誰にも言わないし期待もしないけれど。
心の中で願う。
いつかそんな女性に出会えますようにと。
これにて2章は終わりです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
3章が完成したらまた投稿を再開します!




