第5章 今夜のお宿は?
凍った湖は初めて見た。 良介は独身の頃、一人でふらっと旅に出るのが好きで、けっこうあちこちの湖も見てきた。 そのたいていは夏場だったので、こういう風景には縁がなかった。
バスは榛名湖を後にすると、来た道を引き返し宿泊先の“ホテルふくぜん”へ向かった。
ホテルに着くと、宴会の後に酒盛するための焼酎やウイスキーを袋に詰め込みバスを降りた。 飲み疲れた面々はロビーのソファにどっかりと腰を下ろした。
良介はフロントで受け付けをすますと、部屋係りの仲居さんが部屋へ案内してくれた。
部屋へ着くと、仕事の疲れで車内では一滴も酒を飲まなかった三井が急に、持ち込んだウイスキーのボトルに手をかけた。
「なんだ! ようやく疲れが取れたのか?」
井川が皮肉っぽく三井に言い寄ったが三井は全く眼中になしといった感じでボトルを掴むと自分の部屋へ戻っていった。
宴会の時間までにはまだ2時間ほどあった。 秋元はすぐに浴衣に着替えて風呂に行った。 他の4人は取り合えず、酔い覚ましに熱いお茶を飲みながらくつろいでいると、既に風呂上がりの石山が部屋に来た。
「誰か元気な人がいたら、すぐ風呂に行ってくれないか?」
「どうしたんですか?」
「今、俺が上がろうとしたら八田さんが来たんだけど、ふらついてて危なっかしいから見ててくれる?」
「じゃあ、小暮。 名取。 お前ら行って来い!」
木暮と名取は井川にそう言われるより前に立ち上がり、浴衣を手にすると、大浴場へ走った。
「なんだ? 八田さん、そんなに酔っ払ってたのか?」
「そうですね。水沢観音でヘロヘロだったし、今も部屋に様子を見に行ったら壁に寄り掛かってなかったら立っていられないくらいでしたもん」
「そうか・・・」
「俺もちょっと様子を見てきますよ」
「ああ、そうしろ。 俺ももうちょっとしたら行くから」
良介が風呂に行くと、気持ち良さそうに八田は湯船につかっていた。 両側で木暮と名取がガードするように一緒に入っていた。
良介が隣に入って話しかけると、まともに喋れたので多少は冷めたんだと思った。
取り合えず、大丈夫そうだったので良介は、ざっと体を洗い風呂を出た。 すぐに八田も上がって来て浴衣を着始めた。
多少もたついたが意識もちゃんとしていた。 良介がと木暮が髪を乾かしているうちに八田は一人で部屋の戻ろうとしたが出口の段差でまたよろけてしまった。 すぐに木暮が肩を貸して一緒に出て行った。
入れちがいに井川も風呂場にやってきた。
「八田さんどうだ?」
「まあ、大丈夫でしょう」
「そうか? ならいいんだ」
部屋に戻ると秋元がビールが飲みたいと言い、小暮にバスからビールは持ってこなかったのか聞いた。 ビールは持ってこなかったと聞くと冷蔵庫のビールを飲もうと言いだした。
「冷蔵庫は個人清算ですよ」
「いいよ。 俺が持つよ」
「ごちそうさんです」
秋元は早速冷蔵庫からビールを取り出た。 名取がグラスを持って来てテーブルに置いた。
4人でビールを飲んでいると八田が部屋にやってきた。
「調子はどうですか? だいぶ冷めました?」
「ああ、今日はずいぶん酔っ払ったなあ。 でも、またこの旅行は参加したいなあ」
「どうですか、ビール飲みます?」
秋元がビールを注ぐと、八田はグラスを口に運んでいと口飲んだ。 そして、しばらく喋ってから部屋に戻った。
井川が部屋に戻ると、そろそろ宴会が始まる時間だった。
「じゃあ、そろそろ宴会場に行きましょう」
良介達が部屋を出ると、他の部屋の連中もちょうど出てきたところだった。




