第三十話 引き裂かれた世界
ロシア海軍太平洋艦隊が日本海北部で跡形もなく消滅し、ハワイ沖で米英豪の連合軍が完封されたという報は、地球上のすべての国家に既存のパワーバランスの完全な崩壊を告げていた。新・大日本連邦海軍が手にした、全長九百八十七メートルの超巨大原子力空母『神龍』の圧倒的な航空運用能力。そして、三日前に完成報告のあった『核レールガン三連装砲』と『レーザー波動砲三連装砲』への全主力艦の最終換装。この異次元の超技術を前に、人類の歴史は二つの巨大な陣営へと急速に引き裂かれようとしていた。日本の怪物的な巨大化と、自軍の壊滅という最悪の現実に直面した大陸の列強たちは、生存をかけた究極の選択を迫られていた。北京の極秘会談場。重苦しい冷気が立ち込める最高機密室の円卓に、中国、北朝鮮、そしてロシアの三ヶ国の国家主席が一堂に会していた。「もはや、個別の軍事行動ではあの島国のバケモノ艦隊には立ち向かえん。西側諸国がハワイで恥を晒し、我が方の水上艦隊が日本海で全滅した今、我々に残された道はただ一つだ」ロシアの最高権力者が、血の気の失せた顔で冷酷に言い放つ。中国、北朝鮮の首脳もまた、深く、そして重い決意を秘めて頷いた。三ヶ国の国家主席は、互いの思惑をすべて捨て去り、机の上の極秘書簡に同時に署名を行った。大国としてのプライドを捨て、自国が保有するすべての弾道ミサイル、残存する航空・潜水艦戦力、そして数千発に及ぶ戦略核弾頭の指揮権を完全に一本化する、人類史上最も危険な大侵略同盟――『大陸共栄同盟』の結成であった。しかし、世界秩序の完全な崩壊を恐れていたのは、大陸の列強だけではなかった。日本の圧倒的な軍事力と、莫大な地下資源の独占。さらに、ロシア、中国、北朝鮮が手を組んだという最悪の凶報を受け、これまで世界を動かしてきた西側諸国もまた、国境を完全に越えた空前絶後の巨大防衛同盟の樹立へと動いた。「――ワシントンより緊急電! 日本、アメリカ、イギリス、オーストラリアの四ヶ国に、新たに欧州の重鎮であるドイツ、イタリア、そしてオランダを加えた計七ヶ国による、史上最大の『対中国・大陸同盟』が正式に締結されました!」呉基地の超極秘地下ドック。換装作業が最終段階を迎えていた戦艦『やまと』の第一艦橋で、航海長の佐藤宏が、世界中から送られてくる国際政治の巨大な地殻変動データをホログラムディスプレイに映し出し、緊張に声を震わせた。世界は今、中国・北朝鮮・ロシアの『大陸同盟』と、日・米・英・豪・独・意・蘭の七ヶ国による『対中国同盟』という、地球上のすべての軍事力が二つに分かれて激突する、真の「世界統一戦争」の舞台へと突入したのだ。「アメリカやイギリスだけでなく、ドイツの技術力、イタリアやオランダの海軍力までが我が艦隊のデータリンクに組み込まれるか。実に壮大なチェス盤になりましたね」艦長席から立ち上がった総司令官・新海努大佐の眼鏡の奥の瞳には、重度のミリタリーオタクとしての狂気的なまでの歓喜が燃え上がっていた。新海はジーンズのポケットから軍用端末を取り出し、新大日本連邦海軍、そして七ヶ国連合艦隊の全ステータスを一画面に集約させた。「敵の『大陸同盟』は、我々を潰すために数千発の核ミサイルを同時に放つ構えでしょう。……だが、彼らは致命的な勘違いをしている。我が『対中国同盟』の総旗艦となるのは、三日前に竣工したばかりの新たなる大和型『月詠』『紀伊』、そして全長九百八十七メートルの漆黒の巨龍『神龍』だ。さらに、全主力艦の主砲はすでに『核レールガン』と『レーザー波動砲』へと換装を終えている。世界中の最強の防衛網が我が艦隊と一つになった今、大陸の妄想ごと、彼らの全戦力を一撃で消滅させてやりましょう」新海の不敵な覇王の命令とともに、呉の極秘ドックから、核レールガンとレーザー波動砲の青白き閃光を放ちながら、完全完成版へと新生した無敵艦隊――そして七ヶ国連合の鋼鉄の翼が、地球の運命を決める最終決戦へ向かって、白日の下へと堂々たる出撃を開始するのだった。




