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蒼月のレゾナンス ~最弱の調律士は運命を選び直す~  作者: なるかめ
第1章 運命に従う者

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第7話 観測者

誰かに「分かる」と言われることは、

安心でもあり、少しだけ怖い。


自分でも知らない何かを、

他人のほうが先に見つけてしまうことがある。


水瀬月乃は、見る人だ。

感情ではなく、数値で。

印象ではなく、波形で。


けれど――

本当に理解するということは、

ただ分析することではない。


それは時に、

相手の未来に名前を与えてしまう行為でもある。


理解は救いか。

それとも拘束か。


第7話「観測者」


静かな視線が、

蒼真を正確に捉え始める。

夜の観測室は、静かすぎる。


水瀬月乃は、三枚目の波形を重ねた。


炎の出力ピーク。

乱流の増幅点。

そして、その一瞬だけ沈んだ数値。


「偶然ではない」


小さく呟く。


誤差の範囲。

そう扱われても仕方のない揺らぎ。


だが三回。


同じ位置。

同じ沈み方。


まるで、誰かが“触れている”かのように。


 


月乃はデータを拡大する。


共鳴波は通常、増幅か減衰かのどちらかだ。


だが水月蒼真の干渉は違う。


押し返していない。

打ち消していない。


――空白を作っている。


「……穴」


その言葉が浮かぶ。


波を止めるのではなく、

逃がしている。


受け皿のように。


 


端末が小さく震えた。


統律院内部回線。


「観測官、水瀬月乃。第三区画任務の詳細データを提出せよ」


月乃は一瞬、視線を落とす。


来た。


予想より早い。


 


「提出済みです」


「異常値がある」


「誤差範囲です」


沈黙。


画面の向こう側は映らない。


だが気配だけはある。


 


「水月蒼真。Dランク調律士」


「はい」


「継続観測対象に指定する」


 


決定は早い。


月乃の胸の奥が、わずかに冷える。


理解される前に、囲われる。


それがこの国のやり方だ。


 


「……了承しました」


通信が切れる。


 


月乃は椅子にもたれた。


理解は、救いになる。


だが同時に、拘束にもなる。


証明された瞬間、

制度はそれを所有しようとする。


 


翌日。


訓練場の隅。


蒼真はいつも通り、後方に立っている。


目立たない位置。


灰色の腕章。


 


月乃は遠くから観測する。


数値ではなく、呼吸を見る。


視線の動き。


炎が揺れる瞬間の反応。


 


凛が前に出る。


炎が立ち上がる。


蒼真の呼吸が、わずかに変わる。


その瞬間。


波形が沈む。


 


確信に近づく。


 


休憩時間。


月乃は蒼真の前に立った。


「少し、いい?」


蒼真が驚く。


「あ、はい」


 


「自分の波、感じる?」


「……感じません」


即答だった。


月乃はうなずく。


「そう」


 


蒼真は居心地悪そうに視線を逸らす。


「俺、やっぱり不適合なんですか」


 


月乃は少しだけ考える。


正確な言葉を選ぶ。


 


「不適合ではない」


「え?」


 


「測定方法が、あなたに合っていないだけ」


 


蒼真は意味が分からない顔をする。


月乃はそれ以上説明しない。


 


まだ言えない。


証明が足りない。


そして――


知られれば、動く。


 


「水月蒼真」


月乃は静かに告げる。


「あなたを、しばらく観測する」


 


「観測……?」


 


「怖い?」


 


蒼真は少し考えてから言う。


「……ちょっと」


 


月乃は、ほんのわずかに口元を緩めた。


「正直でいい」


 


理解されることは、

丸裸になることだ。


 


凛が遠くから見ている。


恒一も視線を向けている。


蒼真は、まだ気づいていない。


 


統律院上層。


薄暗い部屋。


報告書が開かれる。


 


「共鳴停止型干渉……」


低い声が呟く。


 


まだ名は出ない。


だが、興味は向けられた。


 


訓練場の風が吹く。


蒼真は空を見上げる。


自分が見られていることに、

まだ気づかない。


 


理解は、救いか。


それとも、拘束か。



月乃は端末を閉じる。


証明は、いつも誰かの自由を狭める。


だが、証明しなければ、

この国はもっと残酷になる。


彼女は目を逸らさなかった。

第7話「観測者」までお読みいただきありがとうございます。


今回は、静かな回です。

爆発も暴走もありません。


けれど、物語としては大きな一歩です。


水瀬月乃は“気づいてしまった側”に立ちました。

蒼真の異常性を、感覚ではなく、理屈で。


ここが重要です。


理解は優しさに見えます。

けれど同時に、分類でもあります。


「あなたはこういう存在だ」と言葉にすることは、

世界の中に位置を与えること。


それは救いにもなる。

けれど――囲い込みにもなる。


月乃はそれを分かっています。

それでも、目を逸らさなかった。


この選択が、後にどう響くのか。


蒼真はまだ、自分が“観測され始めた”ことを知りません。

凛もまだ、自分が救われた意味を理解していません。


静かな包囲は、もう始まっています。


次話、第8話「測定不能」。


ここで、制度そのものが揺れます。


物語は、初めてはっきりと動きます。


引き続き、見届けてください。

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