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蒼月のレゾナンス ~最弱の調律士は運命を選び直す~  作者: なるかめ
第1章 運命に従う者

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第5話 観測対象D

強い人は、止められない。


それが、この世界の前提だ。


火乃宮凛は強い。

誰よりも努力し、誰よりも前に立ち、誰よりも結果を出す。


だからこそ、彼女は“止まらない”。


けれど――


強さは、いつだって安全とは限らない。


力が大きくなればなるほど、

一人で抱える重さも増していく。


そして蒼真は、まだ知らない。


自分が持つものが

「止める力」なのか、

それとも「奪う力」なのかを。


暴走は、突然やってくる。


止められないとき、

誰かが止めるしかない。


その行為は――

支配か、救済か。


第5話「暴走」

ここから、物語は一段深く沈む。

第5話 暴走


凛の胸が強く締めつけられる。


炎の色が、橙から白へと変わりはじめる。


白は、危険域。


温度が上がりすぎている証拠だ。


次の瞬間――


空気が裂けた。


爆ぜる音と同時に、鉄骨が軋み、ボルトが弾け飛ぶ。


衝撃波が横から叩きつけ、凛の足がわずかに滑る。


足元のコンクリートに、蜘蛛の巣のような亀裂が走る。


炎と乱流が真正面でぶつかる。


光が歪む。


視界が白く染まる。


耳鳴り。


喉の奥に焦げた鉄の匂いが流れ込む。


「くっ……!」


剣を握る手が震える。


出力を落とせば乱流が拡散する。


上げれば、自分の炎が暴れる。


選択肢がない。


――止めなければ。


その思考だけが、凛を縛る。


炎をさらに押し出す。


だがその瞬間。


炎が自分の制御から、ほんのわずかに外れた。


柱の一本が焦げ落ちる。


鉄が溶け、滴る。


「凛、下がれ!」


声が遠い。


退けば、広がる。


前に出れば、崩れる。


凛の呼吸が乱れる。


胸の奥が焼けるように痛い。


一人で抱え込む力は、重い。


その時。


蒼真の視界だけが、異様に澄んだ。


爆音が水の中のように遠ざかる。


代わりに、光の流れが見える。


炎は、赤い線の束。


乱流は、灰色の渦。


二つがぶつかり、絡まり、引き裂き合っている。


その中心。


力が押し合い、ねじれ、逃げ場を失っている一点。


凛の波が、そこから外へ外へと押し出されている。


戻れない。


戻る場所がない。


(違う)


ぶつかっているんじゃない。


――一人だからだ。


蒼真の足が勝手に動く。


炎の熱が頬を焼く。


睫毛が焦げる匂いがする。


視界が揺れる。


それでも止まらない。


凛の背に触れた瞬間。


掌に、鋭い熱が走る。


皮膚が焼ける。


だが同時に、凛の波が流れ込む。


荒れている。


焦りと責任が、渦になっている。


止めなければ。


守らなければ。


その圧力。


蒼真は押し返さない。


奪わない。


ただ、受け止める。


自分の内側の、何もない場所。


静かな空洞へ。


凛の波が流れ込む。


絡まった一点が、ゆっくりと緩む。


炎の色が、白から橙へ戻る。


軌道が整う。


凛の呼吸が、深くなる。


乱流が崩れる。


恒一の雷が貫く。


灰色の渦が裂け、消える。


風が抜ける。


熱が引く。


静寂。


凛の膝が地面に落ちる。


炎は消えている。


蒼真は、手を離す。


自分の掌を見る。


赤く腫れている。


何をしたのか分からない。


ただ。


凛が、一人ではなくなった。


凛が振り返る。


その目には、初めて見る種類の揺らぎがあった。


恐怖ではない。


怒りでもない。


理解に近い、何か。

今回は「暴走」。


力は、強いほど危うい。


凛は強い。

でも、だからこそ止まれない。

止まることが、弱さに見えてしまうから。


一方で蒼真は、

まだ何をしたのか分かっていません。


止めたのか。

奪ったのか。

救ったのか。


本人が一番、分かっていない。


ここが大事なポイントです。


蒼真は“ヒーロー”になったわけではありません。

むしろ逆で、自分の力に対して少しだけ怖さを感じ始めています。


止める力は、優しい顔をしていても、

一歩間違えば支配になります。


それでも――


誰かが止めなければならない瞬間は、確かにある。


この物語は、

「選び直す物語」です。


でもその前に、

まずは「止めるとは何か」を問い続けます。


次話では、

蒼真が“救ったはずなのに評価されない”という現実が待っています。


止めたのに、証明できない。


ここから物語は、

静かに、しかし確実に軌道を変えていきます。

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