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蒼月のレゾナンス ~最弱の調律士は運命を選び直す~  作者: なるかめ
第3章 運命に抗う者

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第23話 出生の意味

蒼真は母・叶音の最終研究に触れる。

“完全同意共鳴”という理想は、なぜ現実で歪められたのか。



静寂地帯の外れ。


崩れかけた研究棟の一室に、ノアは蒼真と月乃を連れてきた。


「ここは……」


蒼真が見回す。


他と違う。


破壊されていない。


いや——


“守られていた”。


月乃がすぐに気づく。


「隔離領域……記録保存用」


ノアは頷く。


「叶音の最終研究室だ」


その一言で、空気が変わる。


蒼真は、足を止めた。


入っていいのか分からない。


だが——


もう、知らないままではいられない。


一歩、踏み込む。


部屋は静かだった。


整っている。


まるで、今も使われているかのように。


中央の机。


端末。


そして——


一枚の紙。


ノアはそれに触れない。


「残したんじゃない」


「残ってしまったんだ」


月乃が手袋越しに紙を取る。


劣化している。


だが、読める。


「……手書き」


珍しい。


共鳴研究はすべてデータ化されるはずだ。


月乃は、静かに読み上げる。


「“完全同意共鳴プロトコル(最終案)”」


蒼真の喉が鳴る。


「完全同意……」


月乃は続ける。


「共鳴は、同意を前提とする

 同意なき接続は、すべて無効とする」


一行ごとに、重い。


「接続は、双方の確認を必要とする

 同意は、いつでも撤回できる」


蒼真の目が止まる。


「……撤回?」


月乃が頷く。


「同意撤回権」


ノアが小さく言う。


「当時は、存在しなかった概念だ」


蒼真は紙を見つめる。


そこに書かれているのは、優しいルールだ。


強制しない。


奪わない。


いつでもやめられる。


それは——


理想だった。


「……これで、救えると思ったのか」


蒼真の声は、かすれていた。


ノアは否定しない。


「叶音は、本気だった」


月乃が静かに補足する。


「理論としては、正しい」


一拍。


「ただし——」


言葉を選ぶ。


「成立条件が、厳しすぎる」


蒼真は顔を上げる。


「全員の同意が必要」


「一人でも拒否すれば、成立しない」


「そして、いつでも崩れる」


ノアが続ける。


「戦場では、使えない」


沈黙。


分かる。


優しすぎる。


正しすぎる。


だから——


間に合わない。


蒼真は机に手をつく。


「……じゃあ、意味なかったのか」


声が震える。


「母さんのやったことは」


月乃は、はっきり言う。


「意味はある」


だが、続ける。


「そのままでは、使えない」


その言葉は、冷たい。


だが、正確だ。


蒼真は歯を食いしばる。


「使えないなら……」


「捨てられる」


ノアが言った。


「あるいは——変えられる」


蒼真の背筋が凍る。


変える。


どうやって。


答えは、もう見ている。


「……同意を外す」


月乃が頷く。


「最低限の承認だけにする」


「あるいは、事後承認」


ノアが続ける。


「あるいは——強制」


その言葉が、重く落ちる。


蒼真は理解する。


この理論は、歪められる。


優しさは、そのままでは使えない。


だから——


削られる。


「……ふざけるな」


声が漏れる。


「それ、もう別物だろ」


ノアは否定しない。


「そうだ」


「だが、現実はそれを選ぶ」


蒼真は紙を握りしめる。


震えている。


怒りか。


悲しみか。


分からない。


「……母さんは」


言葉が続かない。


月乃が、静かに端末を操作する。


「もう一つ、ある」


音声データ。


短い。


再生。


ノイズ。


そして、声。


『……うまく、いかなかった』


蒼真の呼吸が止まる。


『みんなを守りたかっただけなのに』


かすれた声。


それでも、笑っている。


『同意があれば、傷つかないと思った』


沈黙。


『でも、それでも——足りなかった』


ノイズ。


途切れそうになる。


最後の一言だけ、残る。


『選べるように、して』


音が消える。


完全な静寂。


蒼真は動けなかった。


優しい。


正しい。


でも——


届かなかった。


守れなかった。


「……なんでだよ」


誰に向けたのか分からない問い。


「こんなに……正しいのに」


月乃が答える。


静かに。


逃げずに。


「正しすぎるから」


蒼真が顔を上げる。


「純粋な理論は、現実を切り捨てる」


「だから、現実がそれを切り捨てる」


その言葉は、冷酷だった。


だが、真実だった。


ノアが付け加える。


「そして、切り捨てられた部分は」


「誰かの痛みになる」


蒼真の手が、震える。


母の理論。


国家の選択。


強制共鳴。


全部、繋がる。


「……じゃあ、どうすればいい」


声は弱い。


だが、逃げていない。


月乃は答えない。


ノアも答えない。


代わりに——


蒼真の手の中にある紙を見る。


未完成の理論。


優しすぎる理想。


壊れた正しさ。


それでも——


残っている。


蒼真は、ゆっくりと言う。


「……捨てない」


二人が、蒼真を見る。


「壊れたままじゃ、終わらせない」


まだ答えじゃない。


ただの意地かもしれない。


それでも——


「選べる形にする」


風が吹く。


今度は、確かに音がある。


静寂の外。


世界は、まだ続いている。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

蒼真の母は間違っていたわけじゃなかった。

それでも、その正しさは誰かを苦しめた。

蒼真は思う。意志を受け継ぐとは、同じことをすることではない。

その正しさに、もう一度意味を与えることだと。

次回は「選択の問い」。

蒼真が“正しさ”にどう向き合うのかが問われます。


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