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蒼月のレゾナンス ~最弱の調律士は運命を選び直す~  作者: なるかめ
第2章 運命を知る者

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第13話 救済者か支配者か

守られている街は、美しい。


事故は減り、救われた命は増え、夜は以前よりも静かになった。

数字だけを見れば、それは疑いようのない成果だ。


だが――


守られているということは、

誰かが、どこかで、線を引いているということでもある。


その線の内側にいる人は安心し、

外側にいる人は、理由も分からず立ち止まる。


安全と引き換えに、何が削られているのか。

自由は、本当に贅沢品なのか。


第13話は、戦いの回ではありません。

思想の回でもありません。


“揺れ”の回です。


蒼真は初めて、

救われた命の温度と、奪われた選択の冷たさを、

同時に目にします。


そして読者にも問います。


自由が混乱を生むなら、

それでも自由は、必要ですか。


ここから物語は、

正しさを競う段階に入っていきます。

保護契約が発効してから、一週間。


統律院の管理下に入った蒼真は、初めて“統制区域”を視察することになった。


案内役は月乃だった。


凛も同行している。


「見てほしいの」


月乃はそれだけ言った。


統制区域は、驚くほど静かだった。


暴走件数ゼロ。


救急搬送時間、従来の三分の二。


能力医療の成功率向上。


モニターには、数値が並ぶ。


「天城体制になってから、共鳴事故は半減しています」


月乃は淡々と説明する。


「能力の登録、出力制限、発動許可制。すべて管理下に置いた結果です」


廊下を歩く。


病室の扉が開く。


少女が、ベッドの上で笑っていた。


「ありがとう、統律院のおじさん」


母親が頭を下げる。


「暴走しかけた娘を、止めてくれたんです」


凛の目が、わずかに揺れる。


少女は生きている。


管理が、救った命。


蒼真の胸が締めつけられる。


(……悪くない)


否定できない。


統制は、確実に機能している。


だが。


次の区画。


そこには、静かな列ができていた。


能力使用許可申請窓口。


「発動制限、再申請です」


若い男が書類を差し出す。


職員は無機質に告げる。


「本日は却下です。情緒安定指数が基準未満」


「でも、仕事が……」


「規則です」


男はうつむく。


怒りも叫びもない。


ただ、受け入れるしかない顔。


凛が足を止める。


「選ばせてないじゃない」


月乃は静かに言う。


「暴走させるより、まし」


「それは結果論よ」


凛の声は強い。


「怖いから止める。危ないから縛る。それを正義って言うの?」


月乃は答えない。


ただ、視線を蒼真に向ける。


屋上。


都市が見える。


整然とした光。


事故のない夜。


安全な街。


「どう思う?」


月乃が問う。


蒼真は答えられない。


助かった命。


奪われた選択。


どちらも本物だ。


「自由は、不安定です」


月乃は続ける。


「ですが、不安定は、暴走の温床にもなる」


「じゃあ全部管理すればいいの?」


凛が返す。


「そうすれば事故はゼロになる?」


月乃は小さく首を振る。


「ゼロにはならない。でも減らせる」


蒼真は、少女の笑顔を思い出す。


次に、申請窓口の男の背中を思い出す。


温度が違う。


片方は温かい。


片方は冷たい。


(どっちが正しい?)


天城の言葉が蘇る。


――放置されることが危険だ。


もし管理がなければ。


もし自由が暴走を生むなら。


自由は、本当に必要なのか?


凛が蒼真を見る。


「蒼真はどう思うの」


逃げられない問い。


「……分からない」


正直な答えだった。


「助かってる人がいる」


「でも、選べない人もいる」


言葉が揺れる。


凛の目が柔らぐ。


「迷ってるのね」


「当たり前だ」


蒼真は、空を見る。


曇り空。


広いのに、どこか閉じている。


「俺が止めれば、救えるかもしれない」


ぽつりと零れる。


「でも、止めるたびに、誰かの意思を奪うかもしれない」


月乃が静かに言う。


「だから制度がある」


凛は即座に返す。


「だから人がいる」


蒼真は、その二人の間に立っている。


秩序。


自由。


どちらも正しい。


どちらも危うい。


帰り道。


統制区域の外。


少しだけ荒れた街角。


規制の届かない路地。


そこで、小さな共鳴事故が起きていた。


少年が震えている。


発動許可が下りなかった能力者だ。


「……抑えられない」


周囲がざわつく。


凛が一歩出る。


蒼真は、足を止める。


(もし、ここで止めれば)


救える。


だが。


それは、少年の“選択”を奪う行為かもしれない。


少年の目が、蒼真を見る。


助けを求めている。


迷いは、そこで終わった。


蒼真は前に出る。


触れる。


静かに。


波が沈む。


暴走は未然に終わる。


少年は泣き崩れる。


「ありがとう」


その声は、確かに温かい。


だが。


蒼真の胸の奥は、重い。


救った。


だが。


止めた。


蒼真は、ゆっくりと息を吐く。


自由は、混乱を生む。


だが。


混乱の中にしか、生まれない何かもある。


それでも。


目の前で壊れる命を、見過ごせるのか。


答えは、まだ出ない。


ただ一つ、確かなこと。


天城は間違っていない。


凛も間違っていない。


そして蒼真は、そのどちらにもなりきれない。


物語は、選択を迫り始める。


救済者か。


支配者か。


それとも――


まだ名前のない、第三の存在か。

この回では、あえて「悪」を出していません。


天城の統制は、確かに人を救っています。

治安は安定し、医療は迅速になり、暴走は減った。

それは紛れもない事実です。


だからこそ、厄介なのです。


もし圧政であれば、反発は簡単だったでしょう。

ですが今回は違う。

正しさが、成果を出している。


そして同時に――

選べない人たちがいる。


第13話は、

「支配か自由か」という単純な対立ではありません。


救われた命の温度


奪われた選択の冷たさ


その両方を、同じ画面に置いた回です。


蒼真はまだ答えを出しません。

凛は感情で拒み、

月乃は理性で理解しようとし、

読者もまた、少し天城側に傾きかける。


それでいいのです。


物語はここから、

「どちらが悪いか」ではなく、

「どちらを選ぶか」へ進みます。


自由が混乱を生むなら、自由は要らないのか。

安全が秩序を強いるなら、それは許されるのか。


蒼真はまだ揺れています。

その揺れこそが、この物語の中心です。


次回、彼はさらに深い場所へ踏み込みます。

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