表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蒼月のレゾナンス ~最弱の調律士は運命を選び直す~  作者: なるかめ
第2章 運命を知る者

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/43

第12話 天城レオニス

正しい人間は、いつも正しい顔をしているとは限らない。


そして――

間違っているように見える人間が、必ずしも悪とも限らない。

力を持つ者が現れたとき、世界は二つの反応を示す。

恐れるか。利用するか。


だが、もう一つの可能性がある。

救うために、力を使う者。

その結果として、何万という命を守った者。

その男は、悪人ではない。

むしろ英雄に近い。

だからこそ厄介なのだ。


もしその正しさが揺るがないとしたら――

それに抗うことは、間違いになるのか。


第12話は、敵との対峙ではない。

圧倒的に“正しい”男との対話だ。


蒼真は初めて知る。

力を持つ者の行き着く先が、必ずしも破滅ではなく―― 

世界を救う形にもなり得ることを。

だが同時に、救いは、選ばれた者の上にしか立たないという事実も。

 統律院中央庁舎・第七応接室。


 高層階の静寂は、地上とは質が違う。


 音がないのではない。

 不要な音だけが、排除されている。


 蒼真は、再びその部屋に呼ばれていた。


 窓の外には都市が広がる。


 整然と並ぶ建物。

 規則正しく流れる車列の光。

 遠くに見える共鳴塔が、淡く脈動している。


 この街は、守られている。


 その中心に立つ男がいる。


「直接、話そう」


 そう告げたのは、天城レオニス本人だった。


 蒼真が部屋に入ると、天城は窓辺に立っていた。


 背筋は伸びている。

 威圧はない。


 だが、場の空気が彼を軸に整っている。


 静かな支配力。


「来てくれてありがとう」と天城は言った。


 柔らかな声だった。


 拒否できない立場だと分かっていながら、

 あくまで“選んだのは君だ”と言っているような声音。


 凛は壁際に立ち、腕を組んでいる。


 セレスは天城の半歩後ろに控えていた。


 守る位置ではない。

 思想を支える位置だ。


「水月蒼真くん」


 天城が振り向く。


 その目は冷酷ではない。


 むしろ、人を見る目だった。


「君の力は、珍しい」


「……危険、なんですよね」と蒼真は言った。


 天城は首を横に振る。


「危険かどうかは、使い方で決まる」


 即答だった。


「私は、力そのものを危険とは思わない」


 一歩、蒼真に近づく。


「放置されることを、危険だと思う」


 卓上の端末が起動する。


 空中に映像が展開される。


 三年前。

 研究都市共鳴崩壊事件。


 人口十万。


 暴走圏内、四万八千。


 映像は荒い。


 だが、伝わる。


 炎が街区を呑み込み、

 雷が高層建築を貫き、

 共鳴波が制御不能のまま増幅していく。


 叫び声。

 崩れる建物。

 逃げ場のない群衆。


「当時、私は現場にいた」と天城は言った。


 映像の中に、若い天城が映る。


 単独で中心部へ進んでいる。


 周囲の能力者はすでに暴走。

 命令は通らない。


 共鳴は破綻していた。


 天城が立つ。


 ただ、立つ。


 その瞬間。


 暴走波が押し潰されるように収束した。


 音が消える。


 炎が止まる。


 雷が消える。


 共鳴が、強制的に終わる。


 強制停止。


 四万八千人のうち、四万三千が生還。


 都市は、崩壊を免れた。


 映像が止まる。


「止めた」と天城は言った。


 説明は、それだけだった。


 だが、誰の目にも明らかだった。


 あれは調律ではない。


 上位からの、絶対的な制圧。


 凛が低く言う。


「……支配」


 天城は否定しない。


「そうだ」


 あまりにもあっさりと。


「私は、あの時、全員の力を奪った」


 部屋が静まり返る。


「だが、救われた命の方が多い」


 天城は蒼真をまっすぐ見た。


「正しい支配は、正義になり得る」


 誇示ではない。


 事実の提示。


 蒼真の胸がざわつく。


 救うために、奪った。


 それは――


 自分の力と、どれほど違う?


「君は、私に近い」と天城は言った。


 凛の肩が強く揺れる。


「違う!」と凛が言った。


 即座だった。


 天城は穏やかに答える。


「違うと願う気持ちは理解できる」


「蒼真はあなたみたいに“奪う側”じゃない」


 凛の声は鋭い。


 だが天城は視線を逸らさない。


「彼は選別できる」


 一拍。


「止めるか、通すか」


 蒼真の背筋が冷える。


 あの瞬間。


 炎と乱流の交点。


 自分は、選んだのか。


 


「確認しよう」と天城は言った。


 セレスが前に出る。


 手のひらサイズの共鳴結晶を取り出す。


 淡い光が内部で脈打っている。


「微弱な共鳴波です」とセレスが言った。


「外部に影響はありません」


 天城が蒼真を見る。


「止めてみてくれ」


「……できません」と蒼真は言った。


「できる」と天城は断言する。


 凛が間に入る。


「やめなさい。実験じゃない」


 天城は視線を動かさない。


「これは確認だ」



 蒼真は結晶を見る。


 小さな光。


 ただの揺らぎ。


(止まれ)


 思った。


 その瞬間。


 結晶の光が消えた。


 完全な静止。


 凛が息を呑む。


 蒼真は動かない。


 その代わり、指先がわずかに震えた。


 (……まただ)


 あの時と、同じだった。


 廃工場の任務。

 炎と乱流がぶつかった、あの一点。


 違うのは・・・ “意識した”こと。


 「……止まった」と蒼真は、うつむき気味に言った。


 自分で分かってしまった。


 止められる。


 そう思った瞬間に、止まった。


 一歩、遅れて後ずさる。


 「……俺がやった」


 その声は小さい。だが、はっきりしていた。



「無意識だ」と天城は言った。


「だが確実に“選択”している」


 セレスが端末に記録する。


《外部共鳴停止確認》



 蒼真は手を見る。


 何もしていない。


 だが、止まった。


 

「君はまだ無意識だ」と天城は続ける。


「だが、いずれ意識する」


 静かな確信。


「その時、君は決めなければならない」


 救うか。


 奪うか。


 両方か。



「私は君を囲うつもりはない」と天城は言った。


「だが、世界は放置しない」


 それは脅しではない。


 ただの事実。



「私の後継になる気はあるか」と天城が言った。


 凛が一歩前に出る。


「ふざけないで」


 天城は微笑む。


「冗談ではない」


 蒼真は言葉を失う。


 後継。


 圧倒的救済者の。



「私は独裁者ではない」と天城は言った。


「ただ、決断する者だ」


 そして。


「君にも、その役目が来る」



 沈黙。



 窓の外で、夕陽が都市を赤く染めている。


 守られた街。


 救われた命。


 奪われた自由。



 蒼真は、自分の手を見る。


 救いと支配は、遠くない。


 天城は悪ではない。


 むしろ、多くを救った。



 だが・・・


 その正しさは、軽くない。



 正義を貫くには、時に誰かの自由を押さえ込む力がいる。


 守るという名で、上に立たなければならない瞬間がある。


 物語はここで、単純な敵味方を失った。



 蒼真は初めて知る。


 正しいだけでは、世界は救えない。


 正しさを通すための力が、必要になることを。

天城レオニスは、悪ではありません。

むしろ、多くの人間から見れば英雄です。


十万の命を救った男。

都市を守った責任者。

混乱を止めた存在。


その事実は揺らぎません。


だからこそ、蒼真は揺れます。


もし「支配」が救済として機能するなら。

もし「管理」が秩序を守るなら。

それを否定する理由は、どこにあるのか。


天城は暴君ではありません。

合理的で、冷静で、そして結果を出している。


物語にとって厄介なのは、

“間違っていない相手”です。


ここで世界は単純な構図を失います。

悪を倒せば終わる話ではなくなった。


蒼真の前に立つのは、

圧倒的に正しいという実績を持つ大人です。


そしてその大人は、蒼真を否定しません。

むしろ認めます。

後継として。


それが、この章の怖さです。


力を否定されるよりも、

正しい方向に導かれる方が、ずっと抗いにくい。


蒼真はまだ答えを持っていません。

ですが、ひとつだけ確かなことがあります。


彼はもう、「ただのDランク」ではいられない。


次章から、物語は“選択”の段階へ入ります。


支配を受け入れるのか。

支配に抗うのか。

あるいは、第三の道を探すのか。


ここからが本当の分岐点です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ