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蒼月のレゾナンス ~最弱の調律士は運命を選び直す~  作者: なるかめ
第2章 運命を知る者

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第11話 国家の視線

力は、個人のものだと思っていた。


強くなれば、自分の責任。

失敗しても、自分の問題。


けれど――

その力が「国家にとって意味を持つ瞬間」、話は変わる。


守る、という言葉は優しい。

保護、という響きは柔らかい。


だがそれは、本当に“自由を守る”ことだろうか。


それとも、

扱いやすい形に整えることだろうか。


蒼真はまだ、何も奪っていない。

何も望んでもいない。


ただ、持っている。


それだけで十分だった。


この話は、

敵ではないものが近づいてくる物語だ。


拒絶もできる。

だが、拒絶の先に何があるのかは、誰も教えてくれない。


囲うのか。

守るのか。


その境界は、まだ曖昧だ。

放課後。


教室の空気は、いつもより静かだった。


蒼真の机の上に、一通の封書が置かれている。


白い厚紙。

金の紋章。


統律院。


開封前から、意味は分かっていた。



凛が封書を睨む。

「来たわね」


透真が苦笑する。

「無視できるやつ?」



「できない」

蒼真は即答した。



中身を見なくても分かる。

これは通知ではない。決定だ。


封を切る。


――統律院からの招集状


水月蒼真は、重点保護対象として、

統律院中央庁舎に出頭せよ。


日時は明日。


拒否欄は、存在しない。


翌日。


中央庁舎は、石と静寂でできていた。


高い天井。

足音が響く回廊。


蒼真は、凛と透真に挟まれて歩いている。


「一人で行かせない」

凛はそう言ってついてきた。


透真は現実的だ。

「保護対象って扱いなら、悪い話じゃない」


「保護?」

凛が吐き捨てる。

「囲い込みでしょ」


蒼真は何も言わない。


“保護”という言葉は柔らかい。

だがその柔らかさは、逃げ場を削る。


案内されたのは、小さな会議室だった。


長机。

水差し。

整然と並ぶ椅子。


そこに、一人の男が座っていた。


黒い制服。

整った銀髪。


天城レオニス。


名は、すでに噂で知っている。


統律院上層部。

能力管理の責任者。


「水月蒼真くん」


穏やかな声だった。


「来てくれてありがとう」


来なければならなかっただけだ。


蒼真は、黙って立つ。


天城の隣には、無言の少女がいる。


白い髪。

冷たい視線。


セレス。


何も言わない。


ただ、蒼真を見ている。


監視の目。


「結論から言おう」


天城が指を組む。


「君は、保護対象だ」


凛が即座に反応する。


「保護?」


「そう。君の能力は特殊だ。誤用されれば危険だ」


“誤用”。


誰の基準で?


天城は続ける。


「だから、統律院の管理下に置く」


管理。


その言葉が、空気を冷やす。


透真が口を開く。


「それって、昇格みたいなもんですよね? 特別枠?」


現実的な問い。


天城は微笑む。


「そう考えてくれて構わない」


凛が机を叩きそうになるのを、必死で抑える。


「本人の意思は?」


天城の視線が蒼真に向く。


「もちろん、尊重する」


「だが拒否すれば、君は“未管理危険対象”に分類される」


言葉は穏やかだ。


だが選択肢はない。


書面が差し出される。


保護契約書。


・能力の定期観測

・任務優先出動義務

・居住区域の限定

・外部接触の制限


凛が声を上げる。


「これ、拘束じゃない」


天城は静かに答える。


「安全のためだ」


誰の?


蒼真は、紙を見つめる。


自分の名前。


署名欄。


「守る」と言いながら、

逃げ道を削っている。


透真が小さく言う。


「蒼真。断ると、もっと面倒になる」


それは脅しではない。


事実だ。


凛は違う。


「断ってもいい。私が――」


言葉が止まる。


凛一人では、国家に抗えない。


蒼真は気づいている。


自分一人の問題ではない。


凛も、透真も、巻き込まれる。


天城が静かに言う。


「我々は敵ではない。君を守る側だ」


守る。


囲う。


管理する。


言葉は違う。


構造は、同じかもしれない。


「……分かりました」


蒼真は言う。


凛が振り向く。


「蒼真」


「拒否しても、終わらない」


声は静かだ。


「だったら、外から怯えてるより、中にいたほうがいい」


天城が微笑む。


「賢明だ」


蒼真は署名する。


ペンの音が、やけに大きく響いた。


その瞬間。


セレスの視線が、わずかに細まる。


観察対象が、正式に管理対象へ変わった。


庁舎を出たあと。


凛が蒼真の腕を掴む。


「縛られたのよ」


「守られたとも言える」


透真が言う。


凛が睨む。


透真は目を逸らさない。


「現実だ。蒼真が一人で抱えるより、まだましだ」


凛は黙る。


蒼真は空を見上げる。


曇り空。


広いはずの空が、少し狭く見える。


国家は、敵ではない。


だが、味方とも言い切れない。


守ると言いながら、

縛っていないか。


蒼真は、自分の署名を思い出す。


もう、完全に自由ではない。


物語は、次の段階へ進む。


今度は、世界が蒼真を囲い始める。

今回の話で描きたかったのは、

「悪ではない圧力」です。


統律院は、蒼真を傷つけようとしているわけではありません。

天城も、理屈の上では正しいことを言っています。


危険な力なら、管理する。

不安定なら、保護する。


それは、制度としては自然な判断です。


けれど――

その“自然さ”の中に、自由はどれだけ残るのか。


ここが今回のテーマでした。


蒼真は、自分の意思で署名しました。

強制されたわけではありません。


ですが本当に“自由な選択”だったのかどうかは、

読者それぞれに委ねたいところです。


凛は感情で反発し、

透真は現実で受け止めました。


二人の反応の違いは、

この先の立場の違いへと繋がっていきます。


そして天城。


彼は敵ではありません。

少なくとも、今は。


だからこそ怖い。


世界は、蒼真を否定していません。

むしろ評価しています。


その評価が、枠になる。


第11話で物語は、

「能力の問題」から「制度の問題」へと移りました。


次は、

囲われた側の視点が揺れ始めます。


蒼真は守られているのか。

それとも、扱われているのか。


答えは、まだ出ません。


ですが確実に、

自由の幅は少しだけ狭まりました。


ここから物語は、

もう一段、重さを増していきます。

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