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獣乱のゲノム  作者: 大野 響


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旅の途中

 ナモスタンを抜け、ひたすら西へ進む獣衛隊トラックの前に、突然少年が倒れた。

 急ブレーキで止まるトラック。


「大丈夫!?」

 ドアを開けて飛び出した志穂が、少年に声をかけた。

 痩せ細った暗い顔の少年は、虚ろな瞳で虚空を眺めているだけで、志穂の呼びかけにすら応じない。

 志穂に続いてトラックを降りた菅原が、近付いてくる複数の子どもに気が付いた。

 いつの間にか、多数の子どもがトラックの周りを囲んでいた。


 険しい顔で車内の森田と目を合わせる菅原。

「麻薬の匂いがする。その子は恐らく、薬物中毒だ」

「え、こんな小さな子が!?」

 菅原の言葉に驚く志穂。


 二人の中年男性が、遅れてやって来てヘラヘラ笑いながら話しかけてきた。

「おいおいおい、ナモスタンから来た車が、通行料も払わずにこの村を抜けられる訳ねーだろぉ?払うもん払ってくれよ、ほら」

 中年男性Aは、菅原に向かって手を出した。

「おい、俺達は」

「菅原、ここは俺が払う」

 森田が菅原の言葉を止めた。

「ええ!」

 驚く菅原。

「軍資金は防衛隊からたんまり貰ってるからな」

 ニヤリとする森田。


 トラックから降りた森田と獣衛隊員、カルム。

 金を払った森田が、子ども達を見回してから口を開いた。

「この金で子ども達を助けてやってくれ。こんな細い腕の子どもを麻薬漬けにしたら、あと半年も命が持たないぞ」

「ケッ。金持ちが正義ヅラしてんのかぁ?ふざけんな!ネズミが多過ぎるせいで、この辺りの村はどこも壊滅状態だ。俺達だって半年後にはもうあの世に行ってらぁ」


「生きることを諦めるな!!」

 中年男性Aの胸ぐらをいきなり掴んだ森田が、いきなり大きな声で怒鳴りつけた。

「そうは言っても、この辺りは荒地ばっかりで野菜もまともに育たねぇ。俺達には麻薬吸ってネズミに食われる恐怖から目を逸らすくらいしか、もう策がねぇんだよ」

 森田の勢いに押された中年男性Bが、言い訳するように言った。

「だったら新しい策を教えてやる。水川、研究所からもらった種を持ってきてくれ」

 森田は中年男性Aの胸から手を放した。

「はい」


 志穂は森田に、里山研究所からもらった種を渡した。

「これはどんな土地でも芽を出すよう、研究された種だ。まだ試作品だが、畑に蒔いて1日待てば芽が出て食べられる。さらに1日経てば花が咲いて種もとれるはずだ」

「おお、いいのか!?」

 喜ぶ中年男性Bが手を出した。すると森田は種を男性Bに渡す寸前のところで手を止めた。


「その代わり、俺達がここにいる間はこちらの言うことを聞いてもらう。いいな?」

 森田が目を鋭くさせて中年男性ABにすごんだ。

「お、おう」

 中年男性ABは承知した。


「今夜はここで野営する。その前に、まずは村を柵で囲うぞ。それから種蒔きだ」

 森田が獣衛隊員達に指示した。

「はい」


「こんな所で余計なことしてないで、早く西に進んだほうがいいんじゃないですかぁ?」

 風人がコソコソと志穂に耳打ちした。

「この先に何が起きるかわからないのよ?もし撤退することになった時のためにも、味方は多いほうがいいでしょ」

「なるほどねぇ」

 志穂に諭され、納得する風人。


 森田の指示により、村を柵で囲い、隊員みんなで畑に種を蒔いた。

 その様子を見て、他の村人達も森田の指示に従い始めた。


 畑仕事の途中で、次々と倒れてしまう村の子ども達。

「おなかすいて、力が出ないよ」


「お前達、ネズミは食べないのか?」

 子ども達の様子を見た森田が中年男性Aに聞いた。

「よその国では食ってると聞いたことがあるが、ここらへんでは聞いたことがねぇな。それに、ネズミは凶暴すぎて俺達の手に余る。武器もねぇし」

 中年男性Bが答えた。


(えええ、ネズミって食べられるのぉ)

 驚くアラン。


「ネズミを倒すだけなら、高性能な武器などなくても剣や弓矢で充分だ。獣衛隊で余っている剣はくれてやる。弓矢は簡単だから今から作るぞ。よく見て作り方を覚えろ」

 森田はそう言うと近くにあった木から弓矢を作り、その弓矢でネズミの狩り方を村人達に教えた。


 

 小さな子ども達には、志穂が器用な指先で編みぐるみを作り、子ども達にプレゼントした。

「かわいー!」

「素敵!」

 喜ぶ子ども達。


 その様子を見ていたミランが、志穂のベルトを見て言った。

「水川さんのベルトに付いてるそのワンちゃんも、手作りですよね?いつもかわいいと思ってました」

「あら、気付いてた?これはね、チョコって言うの」

「名前もついてるんですね」

「ええ。私の愛犬の名前なの。モフモフは、世界共通言語よ!」

 モフモフ愛で鼻息を荒くする志穂。



 夕食時になり、さばいたネズミをネズミ鍋にして食べる村人と獣衛隊員達。

「今回さばいたのは、ネズミの中でもまだ乳離れしていない子ネズミだ。体長70cm以下の子ネズミはまだ人間を食べていないから、安心して食えるぞ」

 菅原が隊員達に教えた。


(安心だって言われても···)

 アランは恐る恐るネズミ汁に口をつけ、目を見張った。

「嘘だろ!?意外といける!」

「東京じゃネズミを食わないが、地方では災害時の非常食として備蓄している地域もある。それにネズミの皮は、鞄や家財道具としても活用の余地があるんだ。ネズミを狩る獣衛隊の一員として、その命を無駄にしない方法も、覚えておくべきだろう」

 森田が言い、隊員達は各々その言葉の意味を噛みしめた。



 星空の下、何やらおしゃべりしているミランとマモル。

 そこへやって来たアラン。

「ミラン、何やってるんだ?」

「ああ、これは···マモル、言ってもいい?」

「うん」

 恥ずかしそうに頷くマモル。

「マモルが飛ぶ練習をしてるの。ほら、マモルがナモスタンで酔っぱらった時は飛んでたでしょう?でも、お酒が抜けたら上手く飛べないみたいで」

 ミランがマモルを見て微笑んだ。


「そういや、ミランも羽根が生え始めた頃はよく練習してたよな」

 アランはふと、その頃を思い出した。

「だね。なつかしい」


「マモル、飛ぶ!」

 ミランも練習していたことに勇気づけられたのか、マモルは飛ぶ練習を始めた。

 それを見守るアランとミラン。


「あのさ、この前言ってた父さんの話なんだけど」

 アランは気になっていた話を切り出した。

「うん」

「ドゥニアのこと以外に、何か父さんのこと話してなかったか?」

「うーん。大した話は別に···あ、お父さんの写真は見せてもらったよ」

「え!?ど、どんな顔だった?」

 前のめりになってミランを見るアラン。

 アランを指差すミラン。

「似てたよ。アランに」

「え、俺に?」

 驚くアラン。


「アランよりも賢そうな、ナイスミドルだったけどねー」

 ミランがアランを冷やかすようにそう言って笑った。

「そ、そうなの?うわー、日本に戻ったら俺も実家帰らなきゃ」

 自分の顔を手で触りながらそわそわしだすアラン。


「マモル、すごいじゃん!」

 さっきまで低空を飛んでは落ちていたマモルが、上空まで飛んで楽しそうに笑った。

 ミランもその場から飛び上がり、マモルと一緒に飛び始めた。


星空の下、飛ぶミランとマモル。それを眺めるアラン。

「綺麗だな」

 呟くアラン。



 誰もいない獣衛隊トラックの中、スピーカーから漏れる音声。

『ガガ···ガ···バキ···ヘル···プ』


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