019 いろんな人のいろんな仕事。どれが「まこと」か。
晩ごはん。
ヨモコ様は、一通り話すこと話したら、見えなくなってしまった。
『用事があるとき以外は、隠れています。前のようにうるさくはしませんから。ご安心なさいませ』
最新バージョンのヨモコ様は、話が分かる方のようで、正直助かる。いや、前は本当に偏頭痛きつくて。大きな総合病院でMRI撮ってもらったこともあった位(異常なんもなかった)。
安心して、目の前の課題に専念させてもらおう。
「すずりちゃん、キュレーションメディアの件、ありがとうね」
「あれ以降は、まだなにも掴めてないですけど、希姫さんたちと手分けすれば早いと思います。飲食店プロデュース会社だったら、ネット上の情報は豊富ですから」
「だけど、公安関係からの裏取りもするんでしょ?「正義の鉄槌うんたら」って書き込んだ奴」
「はい。裏取りができるのは一週間は先ですね。それまでに外堀を埋めていきましょう」
今夜の夕飯はいつものメニュー。普通のパックご飯に、筑前煮、サラダチキン。
「昼間恵史郎と色々くっちゃべったんだけどさ。犯人のターゲットは、飲食店じゃないかもしれないよね。元アイドルのインフルエンサーさんを追い詰めたくて、彼女の仕事の邪魔をしてるのかもしれない」
「自分が紹介したお店でことごとく首吊り自殺が起これば、「店舗プロモーション」の仕事を続けられなくなっちゃいますもんね。ネット上ではいまのところ、自殺連鎖とインフルエンサーさんを結びつけるような論調には、なってません」
「当のインフルエンサーさんは、どう思ってるんだろうね」
「案外まったく気にしてないかも知れませんよ?「一度お店に顔出して、写真撮っただけですよ?記事書いたのは、他の人です」とか、普通にありそうです」
「「中の人はオッサンです」ってか。今の東京、分業進み過ぎだよ。どの業界も」
「……ちなみに、当該のキュレーションサイトで、同じインフルエンサーさんが記事を書いた店が、他に4店舗ほどあります。吉祥寺、御徒町、高田馬場、錦糸町ですね。業態は例によってバラバラです」
「これまでは、人形町、北千住、恵比寿、新橋、神田、渋谷、中目黒。だったっけ?そこに吉祥寺、御徒町、高田馬場、錦糸町? チェーン店でない店は都内どこでもあるけどさ、さすがにバラけすぎじゃない?「元アイドル」ってキャリアを生かすなら、アキバ、池袋、中野って、アイドルと相性良さそうな街の店にすればいいのに」
「エリアが変わると、そんなに違うんですか? 私神保町以外は、あまり知らないから」
「俺も大して詳しくないけど、お客さんの用途で変わるよね、まず。仕事関係の接待に使える店と、デートや女子会で使える店、あとはオジサン達が同僚と飲み食いするための店。神保町のカレー屋さんは、自分一人が食べるための店だよね。酒はまず飲まないし」
「今回、銀座・六本木・赤坂って、高級なイメージがあるエリアはないですね。接待に使える店ではないということですね。新橋や神田は、オジサン達のお店ってイメージがあります。女性向けそうなのは、、恵比寿と吉祥寺?なんですかね」
「恵比寿も、場所によるよね。西口の駅前は、いかにもな居酒屋ばっかりだったりする。渋谷も、センター街方向と宮益坂方向でまた違うし。。。実際に、店の前まで見に行ってみようかな」
「これから、まだ自殺の起きてない4店舗で、自殺が起こる可能性が高いです。待ち伏せなどすれば、なにか手がかりが掴めるかもしれません。……希姫さんは、そこまでする気はないみたいで。「最後の1店になってからでいいんじゃない?」って言ってますね」
俺たちとしても、別に自殺連鎖を止めたい訳じゃない。彩命術を悪用されて、弊社のイメージが悪くなるのを防ぎたいだけだ。
彩命術の悪用が疑われる事象は、今回、極めて久しぶり?だそうだが、似たような事件?は、これまでもあったようで。
東京SMM協会に加盟する企業様各社から、内々でこっそりと相談を受けて、トラブル解決に動いたことが、あったそうだ。
刑事事件にするほどでもない、パワハラやセクハラ。お子様の学校でのいじめ。結婚相談や浮気調査。
戦前から続いているような大企業は、コネ入社の二世三世社員が少なくないし、多重下請けの総元締めをやるだけで、中身のある仕事をしてきてない。
ほんの些細なトラブルであっても、自分たちで解決できなくなってしまっている。
「最近、妻が口を利いてくれないんです」って相談を受けることも、少なくないらしい。
SMMの必要性と、モラル汚染を放置することの危険性を身を持って実感してもらうため、協会に加盟する企業様の社内で起こる、「モラルに関するトラブル」の解決を、一手に引き受けているのだ。基本、無料で。
ちょっとかっこ良く言わせてもらえば、我々彩命術師は「人の精神を取り扱うプロフェッショナル」。
どれほど些細なトラブルでも、悪意の連鎖を食い止めることは、全てSMMに通じるのだ。
この街の精神の循環を、正常なものに戻すために。
……実際にやってることはな。ネットサーフィンして下見してっていう、飲み会の幹事と、あんまり変わらないんだけれども。
「四條畷さんとしては、もう少し泳がせたいのかな。……足並み揃えたほうがいいよね。明日半日は身体空くから、なにかやれるけど」
4月に孵った雛鳥たちもすっかり大きくなって、カラスの葬式は今とても少ない。コロナ禍も収まりつつあって、飲食も観光も金が回りだしてるようで、都内での孤独死も少ない。
葬式関連の仕事以外に、最近は都内各地の公園をまわって、カラスに彩気を分けてやるようにしている。彼らも喜ぶし、別に餌付けするわけでもないし。霊感の鋭い奴らがいたほうが、先々メリットあるように思われるので。
「銀一郎さんは、どう思います?今回の犯人。……捜索対象が漠然としすぎているときは、「勘」を頼るのが、意外と上手く行ったりするんですよ」
「今回の7+4の、11店舗か。この中で知ってるのは北千住の店だけなんだけど。別になぁってお店なんだよね。確かに人気あったみたいで、店の外に行列できてたりしてたけど、行列は作ろうと思えば作れるしなぁ。あってもなくてもどっちでもいいというか、「好きにすれば?」って印象しかない。……お店に強い恨みがあってのっていうことではないんじゃないかな」
「インフルエンサーさんの方が、ターゲット?」
「男はさぁ、よっぽど金に汚くならない限り、そうそう恨み恨まれってないからね。彩命術悪用してでもっていうのは、女性の方なんじゃないの?……あ。今一瞬思ったんだけど、もしかしてこのインフルエンサーさん自身が犯人だったりしてな。「こんなの私がやりたい仕事じゃない」とかいって」
「キュレーションサイトの仕事を辞めたいけど、自分から辞めるって言い出せなくて、「辞めさせられる事情」を作り出そうとした?確かに、なんでも「他人のせい」にしたがる、女性らしい動機ですけど」
「あるいは、インフルエンサーさんのそういう気持ちを利用する、黒幕が別にいるのか」
今のところ、一連の自殺連鎖事件との間に深い「縁」が出来ているのは、この元アイドルの女性インフルエンサーさんだ。「人間本来の在り方から外れた死。悪意によって引き起こされた死」。そういうものに関わり始めている。人の道からほんの少しだけ、外れようとしている。
彼女は今、どのような心でいるのか。
「インフルエンサーさんは、この飲食店を紹介する仕事を、どう思ってやっていたんだろうね?やりがいはあったのかな。芸能活動以外の仕事が来て、安心してたのかな。それとも、やりたくなかったのかな。……うん。11店舗のなかで、女性が利用しそうな店だけ、明日ちょっと見てくるよ。恵比寿、中目黒、吉祥寺ね」
「インフルエンサーさん自身が、気にいるお店だったのか? あるいは、女友達にオススメできるようなお店だったのか? を確かめるためですね」
「オッサン御用達の呑み屋を褒めちぎってさ、「おいしいです」って写真を撮ってもらうだけの仕事だったら、「女」を安売りしてるだけじゃん。同じ女性から認められないじゃん。女性にとって価値ある情報を提供する仕事になっていれば、また違うと思うんだよ」
改めて、キュレーションメディアのWebサイトを眺める。
芸能活動の経験のある女性たちによる、華のあるキューレーションメディア。
東京に最近登場してきた新しいグルメやファッション、商業施設を紹介する媒体。
Webサイトはとても綺麗にまとまってて、Webデザインに相当金かけてることが伺える。
顔出ししている女性たちも含めて、ビジュアル面でのクオリティはこの手の媒体ではトップクラスだろうと思われ。
インフルエンサーさんをアイドル時代から追っかけてきた男性諸氏からすると、手の届くところに彼女達との接点があるというのは、嬉しいことかも知れない。
だがしかし。アイドルコンテンツを消費するような男性が、錦糸町の飯屋使うか?っていうと、使わないと思うのだが。
そもそもな。20代半ばで料理の良し悪しや酒の味が分かるのか?って話である。
アイドル時代はスタイル維持優先で、好きなように食事できたわけでもないだろうし。
……どうにもいまいち、「元アイドル」と「オッサン向けの飲食店」とが、繋がらない。
元アイドルに宣伝してもらったところで、オッサン向け飲食店の売上は、さして伸びないだろうと思われるし。
飲食店を紹介するキュレーション記事の写真を見る限りでは、インフルエンサーさんは20代半ばから後半といったところだろうか。芸能界の第一線で活動している女優さん方は30代前半が多いから、まだまだ現役でやっていける歳のはず。
ちょっと第一線から退くの、早いように思える。
嫌になっちゃったのかな、芸能界。この人の事、まだちゃんと調べてないけど、恋愛禁止なのに彼氏いるのバレたとか、何かスキャンダルでもあったとか?
あるいは、単に実力が及ばなくて、こういう仕事しか、来なくなっちゃったのか。
★ ★ ★
夕飯も夕食後のコーヒーも終わって、時刻はまだ19時。もう一仕事できるな。
すずりちゃんは、リビングのノートパソコンにタブレットを繋げて、マルチモニタで関係者の調査を継続。
俺はダイニングテーブルの方で、タブレット1台で、調べ物を継続。
キュレーションサイトをさらに深く。吉祥寺の店の紹介記事、使われている「写真」に焦点をあてて、改めて精査する。
オジサン、趣味で写真やってたから、写真を見れば「その写真をどのように撮影したか。どの位の手間やコストを費やしたか」分かるのだ。
店舗外観が1枚。
インフルエンサーさんと、店舗スタッフさん複数名との集合写真が1枚。
店長さんお一人で写ってる写真が1枚。
店内カウンター席やテーブル席の写真が2枚。
インフルエンサーさんが料理を頂こうとしている写真が1枚。
料理のみの写真が2枚。
写真が合計8枚か。飲食店紹介記事にしては、かなり多いほうだろう。
……スマホで適当に撮った写真ではない。
人物を写した写真が、ちゃんとライティングを考慮したものになっている。
人物写真はカメラだけで撮影すると、周囲の光の影響で、顔が背景に埋もれてしまいがち。なので人の顔を綺麗に写したい時は、レフ板やライトをカメラとは別に用意して、顔を明るく際立たせるようにする。
いや、ライトちゃんと使ってるな。インフルエンサーさんの瞳の中に、白いリングが光っている。
料理のみの写真は、食材の質感が強く出ている。……ちゃんと、マクロレンズ使ってるな。
インフルエンサーさんが料理を頂こうとしている写真は、背景が大胆にボケている。いいボケ味だ。顔から手前の料理までをギリギリ焦点に収めて、それ以外をボカしている。
なめらかな階調。フルサイズだな。
画角50mm。絞り2.0。シャッタースピード1/10 〜 1/30秒。ISOは800かな? そのくらい。
画角50mmでこのボケ味。一本10万を超える、単焦点レンズだろう。
インフルエンサーさんだけでなく、料理にもきちんとライトが当たっている。3箇所くらいから、スタンド立てて、光当ててる。
2〜3人の撮影スタッフは使ってる感じがするな。
あるいは、相当しっかり、写真を勉強してきたスタッフが撮っている。
APS−Cとフルサイズの違い。ズームレンズと単焦点レンズとの違い。それらをきちんと弁えている者が撮っている。
……プライド持って仕事している、プロの写真家だな。うむ、これは予想外の発見だった。
この写真を撮った人が男性なのか女性なのか。
インフルエンサーさんと、どういった関係なのか。それで、状況は大分変わってきそうだ。
写真に写っているインフルエンサーさんは、かわいい笑顔を見せているけど、それだけだ。自分の顔や身体を使って、何かを表現しようとか、人の心を動かそうとする心意気は、伝わってこない。直観としては、「まわりの男たちに言われるがままに、顔出しの仕事してる」だけのように感じられる。
ここまでか。……この記事の写真だけでこれ以上の詮索をするのは、ちょっと失礼かな。
それでは、このインフルエンサーさんのアイドル時代はどうだったのか。……ナントカ48ってグループに所属。およそ3年前に、アイドルグループを22歳で卒業。コロナ禍が始まった頃だな。芸能界も、相当影響受けてた時期だ。22歳での卒業が早いのか遅いのか、分からない。あぁでも3年前に22歳で卒業なら、今25歳か26歳ってところか。
……オジサン、アイドル方面、良くわかんないんだよな。
「すずりちゃーん、アイドルのこと、分かるー?」
「少年アイドルなら少しはー。タ○ポン詰め詰めして踊る方々のことは、分からんとでーす」
そりゃそうか。ちゃんと自分で探そう。
ご本人の名前をキーワードにして、ネット検索かければいくらでも出てくるんだけど、なかなかどうにも、俺が知りたい情報にたどり着けない。
アイドル時代の姿より、インフルエンサーしてる今のほうが美人さんなんだけど。……女磨きがんばったのか、それとも整形したのか。美容整形の是非については、ちょっと踏み込みたくないな。
動画サイト見ても、やらせ感満載のバラエティ番組の切り抜きか、ファンの皆様へのメッセージみたいなものばかりで、舞台で役になりきっていたり、しっかり歌って踊ってっていう動画が見つからない。……そもそも代表作がなんなのか。どうだったのか。それすらも分からない。
この女性は、アイドルという仕事に魂を込めて打ち込んでいたのか。それを知りたいんだけど。
恵史郎の製菓もそうだし、すずりちゃんの筆書きもそう。己の仕事に魂を込めることが出来る人間は、彩命術悪用の、被害者にも加害者にもならない。卑しい悪意の餌食にならないし、悪意を利用して他人を貶めようとも考えない。己の命、己の魂を確信して、己の人生を生きることが出来るからだ。悪意を浴びせられても「それがどうした!」って、跳ね返すことができるのだ。
……だめだ、分からん。
あーやめやめ。このインフルエンサーさんのことは、ここまでにしよう。「詳細は不明」。これが結論。
コーヒー淹れよう。
「すずりちゃーん、コーヒー飲むかーい?」
「あーそうですねー、お願いしまーす」
すずりちゃんも手を止めて、身体を伸ばして小休止。
★ ★ ★
コーヒー休憩終わり。調べ物継続。
次は例の写真を撮った写真家だ。こっちの方で進展があった。先のキュレーションサイトでの写真一枚一枚に、コピーライト表記がついていて、それをキーワードにして検索したら、分かりやすいのが出てきた。
フリーランスの写真家。女性。自分のWebサイトを持っている。
1985年生まれ。女性なんだけどしっかり生年を公開している。某私立大学の文学部卒業。
お祖父さん、親父さん、そして本人と、親子三代続く写真家の家系。お祖父さんは太平洋戦争の従軍から生還し、戦後長く報道写真家を勤め上げた方だそうで。
親父さんも当初は報道写真家だったようだが、途中で第一線から退いて、最近までカルチャーセンターの写真講師などをやっていたらしい。
女性写真家さんのWebサイトで、お祖父さん、親父さんの代表作が公開されている。
お祖父さんのは、安保闘争の頃の、白黒写真。
親父さんのは、東日本大震災時の混乱した東京を写した、カラー写真。
ふむふむ。なかなか味のある家系なのではないかな。思想面では「左寄り」な感じだけど。私大の文学部卒業ってところも踏まえると。
ただまぁ、今後の身の振り方は、それなり大変かもしれない。テレビも新聞も、マスメディア業界はあまり先行きがよろしくない。
この女性写真家さんも、報道写真一本では食べていけないだろうということは承知しているようで、いろんな活動をしている。
自分が撮影した写真のライセンス販売もやってるし、外国人旅行者向けの、記念写真撮影サービスなんていうのもやっているみたい。
東京駅の丸の内駅舎をバックにウェディング写真をとりたいっていうのが、一部で人気らしく、夜の丸の内行くとウェディングドレス来た女性をしょっちゅう見かけるけど、ああいうことをやってるんだな。
キュレーションサイトでの写真撮影も、手広くやっている仕事のうちの一つのようだ。
……本当は、祖父や父親の仕事を継いで、報道写真一本で行きたい。けれどそれでは食べていけない。なんとか写真で食べていくために、先入観にとらわれず、あらゆる方面でがんばっている。そういう印象の女性だ。
頑張って生きているのは、分かる。実力のある人なのは、分かる。
なんだけどな。それだけだとなかなかしんどいのが、今の時代の恐ろしいところ。
自分がネットにあげた写真全てに、自分のコピーライトを入れている。自分の著作権を守るためには当然の措置なのかもしれないけれど、見ていて少々息苦しい。
自分の権利ばかり主張するクリエイターって、敬遠されちゃうんだよな。
許可申請不要、無料、商業利用OKの、写真ストックサイトとか今普通にあるからな。
時代の流れは、「コンテンツは基本タダ」っていう認識に向かいつつある。
その中でどう立ち回るか。難しい問題。
「ぎーんさーん、今日はこの位にしておきましょー?おフロ、入りましょーよー」
「りょーかーい」
今日はこの辺にしておこう。続きは明日。
★ ★ ★ ★ ★
翌日、雨天。
朝、北の丸に寄ってから、吉祥寺までやってきた。
まず、井の頭公園のカラスたちに挨拶しないと。
皇居や北の丸公園と比べて、そこまで大きな公園ではないのだけれども、坂道や階段が多いので、雨の日にキャリーカート持参の身ではなかなかに移動が煩わしい。
神田川にも繋がる池をまわって、動物園のある西側へ。動物園手前の「御殿山」なるエリアを突っ切りながら、近寄ってくるカラスたちに彩気を分けてやる。
……エサをやるわけじゃないから、ワラワラと群がってくるわけじゃない。一羽飛んでいったら、また一羽飛んでくる。その程度。
もうちょっと大勢相手できると、こっちも張り合いあるんだけれども、やっぱり都内のカラス、数減ってるみたいだ。この井の頭公園にも、一般利用者の立ち入れないエリアの中に捕獲トラップが仕掛けられているらしく(北の丸にもある)、かなり警戒していると思われ。
ゴミ捨て場を荒らされるのも迷惑だし、衛生面でも問題が出てくるから、駆除を進めるのも仕方ないんだけどな。
さて、カラスの相手が終わったので、例のキュレーションサイトで取り上げられた飲食店を見てこよう。
飲食店のある場所は、駅の北東側だった。井の頭公園周辺の古着屋が集まったオシャレなエリアからも、駅前中央のアーケードのある賑やかな商店街からも、離れた場所だ。家電量販店の大きなビルの裏手側。時刻は10時45分。まだ開店前だ。
「隠れ家的な地中海・ダイニング」って紹介されているけども、店の周囲にキャバクラやラブホが並んでいて、正直雰囲気がよろしくない。今は午前中だから静かだけど、夜になったら客引きの兄ちゃんがたむろしてそうだ。
正直、女性が安心して立ち寄れる店だとは、思えない。この店にすずりちゃん連れてこようとは、思わない。
うーむ。「外れ」。失礼ながら。
「おいーす」
「うぉっ!……びっくりしたぁ!」
急に話しかけれられて、 遠慮なく派手にビビってしまった。……真光兄貴である。
「どうよどうよ?オレっちも近くまで来てたからさ、ちと寄ってみたんだわ。調子どうよ?」
「近くまで来てたって、どこ行くつもりだったんだよ?」
「おう!ここんとこ、じぃさん通り魔の方、手がかり探して都内フラフラしてるんだぜ。だけど、それだけじゃつまんないじゃん?せっかくだから、今日は武蔵野南線を開拓しようと思ってさ。梶ケ谷ターミナルからEF65型を追っかけるぜ!隅田川着は18時45分だ!」
「武蔵野線をぐるってまわって、南流山〜馬橋から常磐線入るやつか。あんま無理すんなよ?」
真光は鉄道マニア。それも貨物特化型。旅客にはほとんど興味ないそうだ。以前俺が10時打ちして確保したサン○イズツインのチケットも、四條畷さんと錦織さんにあげてしまった。喜んでくれたそうなので、それはそれでいいけれども。
この脳筋青年は、彩命術で強化された身体を活かし、貨物列車を人力で追いかけるという、非常識でおバカな趣味を持っている。
俺も真光から「貨物時刻表」なる書籍を渡され、最近徐々に毒されてきてしまっている。
だけど、北千住一丁目踏切を通る貨物列車が、常磐線経由で武蔵野線に入り、埼玉や西東京をぐるって回って、品川区の貨物ターミナルまで行くっていう、貨物輸送ならではの運行は、分かるとなかなかおもしろい。
しかしながら。「近くまで来てたから」はさすがに方便だろう。梶ケ谷ターミナルからここ吉祥寺まで、ざっくり20kmは離れてるし、鉄道も繋がってない。……四條畷さん辺りから、「様子見てこい」って言われたんだろう。別にいいけど。
「なんにせよとりあえず、挨拶だけでもしてってくれよ。ホレ」
軽く念じて。
ポン!って感じで、ヨモコ様に現れてもらう。今回は頭の上に乗ってもらった。
『わたくしが大人しくしているか、様子を見に来たのかしら?……この通りです。ご心配なさらず』
「おひさしっす!……いや、もうめっちゃ馴染んでんスね。あぁ、こりゃ、問題ないわ。兄貴すげぇな」
「……なんだかんだ、声が聞こえるようになって、お互いに会話するようになって20年は経ってるからなぁ。何、そんなに異常なの?」
「兄貴さぁ、まがりなりにも「日本国を産んだ神様」だぜ?その神様が「常鎮」してるっていうのは、そうそうないって。そんなに自然におさまってもらえるのは、ウチらだと椿姫くらいだって。……いや〜兄貴さぁ、よくも今までぶっ壊れなかったな」
真光がしみじみと、俺を労ってくれる。……結構本気で心配してくれているらしい。
『真光。銀一郎殿にいろいろと骨を折って頂くのは、まだしばらく先ですよ?椿姫も分かっていますけど。少しはゆっくりさせてあげて』
「いやぁ、もちろんっすよ。いろいろおっ始まるのは来年くらいからっすかね?」
……やっぱり何か、あるんだな?だけど、今すぐのことでないなら、気にしないでおこう。彩命術師としては、分からないことも、出来ないことも多いし。
「真光部長、せっかくここまで来てもらったんだ。ちょっと相談に乗っておくれよ。……あの店、どう思う?」
真光とヨモコ様とのやり取りが落ち着いたのを見計らって、店の方に意識を向けてもらう。
「……この店、本当に営業してんの?ってくらい、「巡ってない」な。金も彩気も、流れてない。「満足」ってもんが、湧いてない。……畳んじゃったほうがいいんじゃね?」
「あ〜あ」って表情で件の店を見渡す真光。……やっぱり俺が見えないものが見えているんだよな。
「やっぱりそうなんだな。しかし、その「念視」? 俺、自殺直後の霊なんかだとそこそこ見えるんだけど、生きてる人間相手には、まだあんまり上手くできないんだが。……なんかコツないかな?」
「あぁ、兄貴は念視、難しいんだ。8相開いてるじゃん?ヨモコ様もいて、常に自分の彩気がモヤモヤ巡ってるから、周囲の微弱な彩気の流れを、とらえにくいんだ。……部屋の中にホコリってフワフワ浮いてたりするじゃん?それを目で見つけたいのに、すぐ側で扇風機回してるようなもん。俺はパンゲア以外開けてないから、他の彩気を見つけやすいんだ」
「なるほど。真光が1相しか開けてないのにも理由があったんだな。なかなか奥が深いな」
「ま、強いてコツを言うなら、「自分を99%まで死なせる。生命力を1%まで落とす」って感じだ。……まだ頑張らないほうがいいぜ。失敗すると「鬱」になる。」
『銀一郎殿は、もう少し、仲間を頼ることを覚えましょう。……もう、今までとは違うのですから』
「そういうこと。オレっちやすずりを上手く使ってくれ」
「分かった。……それで、この店なんだが。すずりちゃん達が調べた限りでは、一連の自殺連鎖と関連がありそうで」
一旦辺りを見渡して、誰にも聞かれないか確認する。声を落として。
「そろそろ店長か誰かが、自殺する」
「おう。オレもみんなの書き込みは見てるから。だけど、まだだな。まだ「仕掛けられてない」。……確か、週に2件くらいのペースだったよな?この場所で張り込んでおくのが確実だけど、仕掛けがやって来るのが、最悪10日以上先だぜ。オレはやりたくない。この程度の、つまんない店のために」
「俺も、別に張り込みしようとは言ってないって。……そんなキッパリディスらんでも」
「だってさー、念視うんぬん以前に、まるでやる気ないじゃん、この店。これからランチ営業だろ?開店まで1時間切ってて、誰も来てないんだぜ?飲食でありえないじゃん!」
あぁ、確かにな。本来なら食材の下ごしらえなどやってるはずだものな。
そういえば、どんなランチ提供するんだろう?キュレーション記事ではなくて、店自体のWebサイトを見てみようか。
店のWebサイトは、スマホでも綺麗に見れるように、よく出来てはいる。……どうせこれも業者丸投げだろうけど。どれどれ、ランチは……
「自家製ハンバーグに、ローストチキン、キーマカレーか。……なんで地中海ダイニングでカレーとハンバーグやるんだよ?世界観メチャクチャじゃん。それにしても、写真ひどいな」
典型的なスマホ写真。しかもジャギってる。Webサイト自体は良く出来てるのに、店側が提供したであろう写真データの質が、すごく悪い。……Webサイトを制作した業者さんの苦労が忍ばれる。ランチはいわゆる1000円ランチ。いや、だけどこれは酷い。キーマカレー、ルーの上からライス盛り付けてる。よほどルーに自身ないんだな。神保町なら肉ゴロゴロのチキンカレー、950円だぞ。
「ネットの情報って、本当にいい加減だよな。こんなんで「人気店」とか言っちゃうんだからさ。だからオレはネットあてにしない。そういうのは、希姫やすずりに任せる」
「あ〜、いや、まいちゃったなぁ〜、まさかここまでとはなぁ。四條畷さんが言うように、最後の1店になってからで、十分だったわ」
「吉祥寺にあります」っていう以外、なにもない店。正直、わざわざ足を運んだことを後悔している。こんな店でも、吉祥寺だもんなぁ。家賃月50万は軽く超えるだろう。スタッフの人件費と食材費差っ引いて、一日2万は利益出さないといけないんだぞ。……ん、待てよ。
「1ヶ月25日の営業として、1日の必要スタッフが4名。スタッフ一人一日1万として、人件費が1日4万。食材費が1日3万にしておこうか。一ヶ月あたりの人件費と食材費が175万か。人件費+食材費+家賃=225万。1日10万の売上があれば、1ヶ月250万。。。。黒字にはなるのか」
「コロナ前なら1日10万とか、チョロかったろうけどな。今というか、これから、どうだろうな」
「駅からはそう離れてないからな。吉祥寺ってイメージと、店内インテリアさえおさえておけば、あと適当でも、酒呑んで騒げればいいって客は来るか。……なんだかんだ、商売としては悪くないのかな」
「ここは立地勝負の店だ。利益出そうと考えたら、ひたすら引き算だよな。スタッフどこまで減らせるか。食材の質どこまで落とせるか。重たい固定費は、家賃だけ」
うーむ。これはこれで、アリなのかな。「仕事終わりに、吉祥寺で呑みました!」ってだけで、満足してくれる人は、まだまだ居そうだもんなぁ。需要と供給がマッチするなら、それで一向に構わないけどって、、、店の人、誰か来た。
11時の直前。11時からの出勤かな。店のオープンは11時30分。30分で開店準備間に合うのか?
怪しまれないように場所を変えて、少し離れたところから観察を続ける。出勤してきたのは男性。飲食業の人間らしく、いい感じの下っ腹。キンキンにつり上がったメガネ。丁寧に揃えられたアゴ髭。舐められたら敗けと言わんばかりの、ギラギラした金髪。全身それなり筋肉ついてるけど、体幹ができてない。猫背の上から肉が乗ってる。
所帯持ちには見えないな。あと、アイドルとか、好きそう。
入り口の扉を開けて、店舗内から什器類を店舗外に並べる。メニュー表を乗せるイーゼルに、テーブル、ランチのサンプル。
男性の動きは悪くない。……時給で仕事するパートじゃないな。「30分で間に合わせてやるよ!」って気合いの入った動きしてるな。時々店内から大きな音がする。なかなかに手荒な開店準備である。
「うん。あのおっちゃんの気合いは悪くないな……店長な感じするぜ」
開店15分前になっても、他のスタッフが誰も来ない。ランチタイムにワンオペ?まさか。……いやしかし、店長であるなら、ありえない話でもないか。
「ランチは14時ラストオーダーの14時30分までだよな。そっから2時間休憩とって、ラストまで。それだったら17時から後2人来てもらえば、一日回っちゃうな」
「一日を3人で回せれば、一ヶ月25万浮くけどさ。残業代なしの、1日13時間労働か。……真光が見た限りでは、あの人が店長?」
「まず間違いないぜ。魂が、もう黒い。ドロドロだ。……老後のことなんざ、まるで考えてないな。死ぬまでにタバコあと何本吸えるのか。何回女とヤれるのか。そんなこと考えちゃってるな、もう」
11時30分になって、開店。しかし、お客が来ない。
12時を過ぎてからようやく、近隣のオフィスワーカーがチラホラと来店する。雨が降っていることもあり、来客はまばらだ。……あれなら、一人でも回せるだろう。どうせほとんどレンチン調理なんだろうし。
近隣に商業施設は沢山あって、そういうところで働く人達がランチをずらすから、13時過ぎても客は来るだろう。
「ざっくり、ランチの来客は30人ってところ?売上3万か」
「本当はもう一人は欲しいところだろうけどな。ワンオペ踏ん張って、5000円浮くわけだ」
「実際はもっと大きいよ。ランチタイムの3時間だけ仕事してくれるスタッフなんていないんだから。フルタイムで使ってやらないと」
……この辺で、おいとまさせてもらおう。
散々観察させてもらっておきながら、お店を利用してあげることはできなかった。店から漂ってるくるのがほぼ殺気。こっちが神経すり減らしてしまう。
「だけど、なんとなく、いや、きっとそうだ。「元アイドルを使うキュレーションメディア」と「オッサン向けの飲食店」が、繋がったよ。お客のことなんて、どうでもいいんだ。多分あの店長さんが、アイドル好きなんだ。元アイドル達と仲良くなりたい。ただそれだけのためにキュレーションメディアを使ってるんだ」
「「仲良くなる」とか、そういう見返りすら期待してないと思うぜ、最早。自分が儲けた金を、少しでもくれてやろう。もうそう考えちゃってると思うぜ」
「「推し活」ってわけだな。今時の言葉だと」
「ちなみになんだが。いいかい、クローム兄貴? あのワンオペ店長をなんとか助けてやろうってのが、俺らの仕事では、ないんだぜ。あの店長は、長くない。もしかしたら今夜仕掛けられて、明日首吊るかも知れない。だけど、それはそれで、あのおっちゃんの生き様だ。自分で決めた人生だ。それを無理矢理覆すのは、違うんだ」
「うん。そういうもんだっていうのは、もう承知してる。清掃会社で仕事してる時は、俺も似たようなもんだったし」
「俺らが見つけなきゃいけないのは、彩命術を悪用してる奴だ。あのおっちゃんを首吊りに追い込んで、得をする奴だ。なんとかそいつを探し出して、捕まえねぇと。……だがそれ以上に、やらなきゃいけない事がある!」
くわっ!って、真光の両眼が熱く光る。
「昼飯だな、俺らの。どこ行く?」
「おでんそば!行こう、兄貴。吉祥寺じゃねーけど!せっかく中央線乗ったら、やっぱりおでんそば行かねーと!!」
★ ★ ★
吉祥寺から中央線で更に西。立川駅構内にはかつて、明治創業の老舗立ち蕎麦屋があったのだ。そこの名物メニューがおでんそば。
立ち蕎麦屋を経営していた会社は、既に鉄道系のグループ会社に吸収合併されてなくなってしまっているが、昭和の風情を残す名物として、事業を引き継いだ店がメニューを残してくれている。
立ち蕎麦のためだけに、わざわざ立川まで行きましたよ。足立区生まれの陰キャとしても、吉祥寺でランチより、おでんそばがいい。
最早往時の味ではないのかも知れないけれど、まぁこういうのは、風情を楽しむものなので。俺も真光も、さつま揚げ、がんもどき、煮玉子の全部盛り。
14時すぎ。ランチのピークを過ぎて、立ち蕎麦もほどよく空いている。外は引き続きの雨模様。
今日みたいな、一日中しとしと雨が降ってる日に、おでんそば、いいよなぁ。
「あの店の他に、既に自殺のあった、恵比寿と中目黒の店に行ってみようと思ってたんだけどな。もういいや」
「店の回し方は似たりよったりなんじゃね?……今の東京で、料理人の腕で勝負してる店、どのくらい残ってるんだろうな」
神田の老舗蕎麦店の、すっきり細い更科蕎麦とはまるで違う、小麦粉たっぷりの田舎蕎麦。化学調味料相当入っているであろう、しょっぱいおつゆ。
だがそれがいい。俺も真光も、勢いよくズルズルとすする。我々プロレタリア星人は、一日10g、グルタミン酸ナトリウムを摂取しないと死んでしまうのだ。
「とりあえず、例のキュレーションサイトが、料理店を正当に評価しようなんて、まったく考えてないのが分かった。金もらって行灯記事あげるだけだ。インフルエンサーさんも、なんのプライドも乗せないで、ただ写真うつってるだけなんだろうな。キュレーションメディアも料理店も、お互いに虚無な仕事だ」
「そんな虚無 ✕ 虚無の仕事してる連中相手に、わざわざ彩命術使って嫌がらせしてる奴の動機が分かんねぇな。あのワンオペ店長は、放っておいても体壊してリタイヤだ。自殺まではしないだろうけど」
「見たところ、あの店長一人で頑張ってそうだよな。あの人は、恨まれてなさそうだよな。好かれてもいなさそうだけど。料理の質も大したことないんだから、仕込みが大変だったりもしないだろうし」
「店長より上の、オーナーの事は、殺してやりたいと思ってるかもしれんけどな。あの店長が」
真光、直接店員さんに小銭渡して、コロッケ追加。やると思った。俺はコロッケはいいかな。でも、おつゆは全部頂きます。
「ちょっと気になってるのがさ、キュレーションサイトの写真なんだよ。結構本格的なの。そこそこ魂入ってる感じする。んで、その写真撮ってるのが女性のフォトグラファーなんだ。昭和の報道写真家の、孫娘さんらしくて」
「そのおねーさんが、誰かに恨まれてるのかい? あるいは、そのおねーさんが、やらかしてるのか。昭和の報道写真家か。権力の悪を暴く、正義のジャーナリストって訳だな」
悪を暴く正義。そうか。「アダム」か。
二人ともおつゆをしっかり飲み干して、「ごちそうさまでーす」ってちゃんと言って、退店。「ありがとうございましたー」って、優しい声。
このお店は、大丈夫そうだ。
「女性フォトグラファーの親父さん、まだ生きてるか。報道写真家は引退してるそうなんだけど。……娘さんの虚無な仕事ぶりが許せないとか?」
「店への恨みでも、元アイドルさんへのやっかみでも、なさそうじゃん?……魂スカスカの仕事してる人間は、誰の記憶にも残らんからな。……親父さんとは限らないかもな。学生時代の知り合いなんかかもしれん」
いずれにしても次は女性フォトグラファーだな。
昨夜得た情報以外に、どう調べを進めるか。……彼女は、今日、今どこで何をしている?
毎度の炎上騒動でおなじみの某呟きSNSには、手を出していない様子。
毎月実施日固定の、月次の仕事とかしてないかな。第3金曜には必ずここにいます的なの。
彼女のWebサイトを改めて見てみる。
俺が覗けそうなのは、丸の内駅舎バックのウェディング写真撮影か。
あれだったら、ウチから歩いてすぐだからな。
……曜日固定でやってたりはしないみたいだな。「スケジュール応相談」ってなってるな。
「そいじゃぁ、兄貴が万事順調なのも分かったんで、オレは南武線乗って梶ケ谷行くわ……どったん?」
「真光、いやさ、この女性写真家さんに会ってみたいんだけど。なんかアイデアない?」
「おねーさんの動き探るんだったら、俺らだけでやるより、美羽希姫繭頼る方がいいぜ。俺らは女子トイレ入れんから」
「あ、成程。そうだな」
ちょっとここまでの進捗を、すずりちゃんに報告しておく。俺からいきなり鈴懸さん達に仕事振ると波風立ちそうだからな。
すずりちゃんから相談してもらおう。