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大深度地下開発特別措置法

「約400年前に太閤秀吉公が大阪城を築城し、その地に新たにダブル21が立ちました。21世紀の大阪はもとより日本の繁栄に役に立つことを願っております」

大阪城天守閣を背に竹上幸三郎が挨拶した。

 1986(昭和61)年4月23日、高層オフィスビルダブル21の披露式が開催された。ダブル21の低層階にあるアトリウムに設けられたステージでは、塩崎淳二と女性アシスタントが式典の司会進行を務めていた。


「さて、皆さん。ダブル21は高さが150mもあり、これは西日本で一番高いビルで、それが2棟も並んでいる凄いビルなんです」

独特な塩崎節でダブル21のビルが紹介される。そして女性アシスタントが続ける。

「現在、京橋で大阪マーケットシティ略しましてOMCが開発されております。このダブル21はOMCの中核となるビルとなりまして、今後、続々と高層ビルが建設されることになります」


 会場となったアトリウムは、2棟のタワーに挟まれた構造で低層階の4階分で2棟のタワーを結んでいる。巨大なアクリルガラス壁面からは大阪城が望め、外光がアトリウムを明るく照らした。

アトリウムは吹き抜けの4階で2棟のビルを繋いでいる。アトリウムの上部には巨大な映像装置が設置され、ステージの様子を映し出していた。

 尚、ダブル21のタワーは、門真市にある竹上電器産業本社の会長室から望むと、大阪城を2棟のタワーが挟むようにして見えるように配された。これは竹上が太閤秀吉を強く尊敬しており、大阪城に強い思い入れがあったためであった。


 式典には竹上幸三郎を始め竹上グループの関係者たちが居並んでいた。工事関係者や当地の再開発の共同事業者である大阪市長大山清を始めとする行政の関係者たち、それにテナントの関係者たちが居並んだ。またマスコミ関係者も招待されており、全国的に報道されることになった。

 総勢300人はいる中で、石山は賓客として招待され出席していた。東京ドリームランドの創設メンバーでありながら開園式に招待されず、殆ど関係ないダブル21の開業式に招待されることに石山は皮肉なものを感じていた。尤も、石山は今後ダブル21を含むOMCの開発に間接的に関わることになるため、招待された以上は出席しなければならなかった。



 この披露式の数日前の夜に石山は料亭「恵山」で竹上と会っていた。恵山は大阪の千日前通りと堺筋線が交差する日本橋交差点付近にあって、竹上幸三郎の愛人水尾菊枝が経営していた。

 石山が女将の水尾に奥間へ案内されると、既に竹上・迫水・東郷が座って待ち構えていた。部屋は車椅子の竹上に合わせて、畳の座敷でなく板張りの部屋となっていた。

「よう来てくれたはった。まあ座ってください」

と竹上が石山に声を掛ける。石山は女将が案内する席に座った。

 そして、もう一人の客を待つことになった。山海電鉄の三好作造である。三好は昨年山海電鉄の社長に就任した男である。三好は大阪湾国際空港建設のための用地買収で功績が認められて社長に就任した。この会合は、そんな三好を納得させるためのものだった。

 石山が席に座って、少し時間が経ったころに本日の主人公である三好が入って来た。三好は場の者たちに簡単な挨拶をして席に着いた。


「よう来てくれたはった。まあ、一杯」

と竹上が三好に酌をした。経営の神様と言われる男からの酌を三好は緊張して受けた。そんな様子で食事が進んでいった。竹上が迫水に話を促し、迫水は話を始めた。

「本日は砂岡の代理で来ました。主、砂岡は国会の会期中で動けませんので、私が代わりに話をさせて頂きます」

それを聞いた三好は、目を鋭くした。

「現在、国会で大深度地下開発特別措置法が審議されており、今国会で成立することになっております。それを受けて、大規模な計画が動くことになります。詳しいことは東郷さんが説明されます」


 大深度地下開発特別措置法(以後、大深法)が1986(昭和61)年5月に成立し、翌年の1987(昭和62)年4月1日に施行された法律である。政令が定める地域において、政令が定める深さ以下の地下を公共目的であれば土地の所有者の意思に関係なく、更に使用権料も払わず開発できるものである。

 対象地域は三大都市圏(首都圏、近畿圏、中部圏)の一部区域で、政令が定める深さは以下の通りである。

 1.地下室建設のために利用されていない深さ(地下40m以深)

 2.建築物の基礎設置のための利用が通常行われない深さ(支持地盤上面から10m以深)


 この大深法を使って、ある鉄道路線の建設構想の説明を東郷が始めた。東郷は翌年の日鉄の分割民営化後に西日本エリアの会社の副社長に就任することが内定していた。これは将来的に東郷が西日本エリアの社長になることを意味していた。つまり、これから東郷が話をする内容は重大な意味を有していた。

「現在、線路容量が逼迫している東海道新幹線のバイパスとして、京都駅から分岐して京橋を通り、建設予定の大阪湾国際空港を通って和歌山の白浜まで通す新幹線を構想しております」

この東郷の話に三好は徐に東郷から石山に向けた。そして三好は石山に訪ねた。

「石山さん、これ、どういうことですか」


 三好が石山に問いただすのは当然であった。元々の話で空港への鉄道アクセスでは山海電鉄だけでなく、日鉄も一緒に担うことにはなっていた。それは在来線での話であって、新幹線ではなかった。

 しかし新幹線となれば、速度面で逆立ちしても山海電鉄が勝てる訳がなかった。これでは、何のために空港建設に協力したのかと思うのは当然であった。

 

そこに竹上が割って入った。

「石山さんは堪忍してやって欲しい。これはワシの我儘でな、ワシのビルに新幹線の駅を造りたかったのでな。とりあえず、東郷君の話を聞いて欲しい。山海には損をさせないから」

三好はとりあえず、竹上の言葉に従い東郷の話を聞くことにした。

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