我田引鉄
「詫びを兼ねた食事会ですか。まあ、ゆっくり食べていきましょうか」
と砂岡はくつろいだ様子で配膳された料理を口にしていった。
そもそも砂岡が推していた本州3分割案は、新幹線の運用上難しかった。東海道新幹線と山陽新幹線が大阪駅で分けることが出来なかったためである。
東海道新幹線と山陽新幹線は大阪駅の狭さから、大阪駅だけで捌けずターミナル機能を京都駅と新神戸駅で分担していた。実質3駅が一体化して運用されており、どの駅で境界とするかが明確にすることが出来なかった。
大阪駅の新幹線ホームは島式2面4線で捌いていた。これは大阪駅周辺で狭い土地しか確保できなかったからである。
そのため東海道新幹線計画時より、大阪駅だけで折り返しする新幹線を捌くことなどは出来ないとされた。そこで大阪駅では極力折り返し運転をしないようにする処置が取られた。
処置の一つとして、ホーム内での折り返し運転はせずに西側の引上線や更に奥の宮原車両基地で折り返しとした。これで大阪駅の新幹線での停車時間を短縮化させることにした。
また京都駅を大阪駅の緩衝とした。京都駅の新幹線ホームを島式3面6線にして、更に2線分の引上線を用意した。これで京都駅にて新幹線の一部を折り返し運転ができるようにしたのである。
そして山陽新幹線では、新神戸駅を対面2面島式1面の4線のホームにする。これによって新神戸駅で東海道新幹線の車両を折り返しできるようにした。
こうして京都・大阪・新神戸とまたぐ形で新幹線を運用していたため、東海道新幹線と山陽新幹線を分けることができなくなっていた。よって、運用上の問題から本州2分割が妥当ではあった。
しかし、これ妥当であったとしても砂岡は不快感を抱いていた。砂岡は懇意としており、同時に役人の天下り先と重宝している航空会社の利益を考慮しなければならなかった。
それが入院で砂岡の意思が無視されたことで、砂岡の面子がつぶれてしまったのである。代わりの何か得なければ、砂岡も立つ瀬がない有様であった。
「ところで東郷。今回の件でワシは航空会社たちに対しての面子がつぶれた格好になっているが、お前それを挽回できる話とかはないのか」
砂岡は料理を口にしながら、東郷に訊いた。そのとき東郷は料理をまだ口にしていない。
そして東郷は重々しく口を開いた。
「はい、京都駅から新幹線を分岐させて京橋を通り、そして大阪湾空港に繋げるようにします。これで大阪都心と空港を結ぶだけでなく、京都とも結んで利便性上げます。これでご理解を願いたいと思っております」
この提案に砂岡一同は驚いた。そして石山は昔の出来事を思い起こした。かつて京葉電鉄が独占的に鉄道アクセスを担うところを原発新幹線として常磐新幹線が建設された件である。
「東郷、面白いことをいうな。でも、そんな簡単な話ではないだろう。建設費は掛かるし、今から用地買収となると時間も掛かる。そして何より山海電鉄が怒り狂う」
と半笑いをしながら砂岡は答えた。
「東郷君、もうええやろ。後はワシが話する。東郷君は折角の料理や、冷めんうちに食べ」
竹上が東郷に助け舟を出した。どうやら、この絵図を描いたのは東郷でなく竹上のようであった。そして、真打の登場といった様子で竹上が説明した。
竹上は手帳とペンを取り出し、空港に繋がる新幹線のルートを描いた。そして、描いた紙をちぎり砂岡に手渡した。受け取った砂岡は一瞥して秘書の迫水に渡し、迫水も一瞥後に石山に渡した。
そこに描かれていたルートが京都駅から新幹線が分岐して、京橋に向かって空港に至るものである。更に空港手前の駅で空港に向かうルートと和歌山方面に向かうルートに分岐して、和歌山方面では白浜・那智の滝まで線を引いたものだった。
「随分と大胆ですな。どさくさ紛れに竹上興産が開発中の京橋に新幹線を通すなんて」
砂岡は少々あきれた様子で話した。我田引水ならぬ我田引鉄であった。竹上は自社が開発する高層ビル街の価値を高めるため、新幹線を京橋に引こうとしていた。それに対して竹上は屈託なく
「ええやろ」
と軽く答えた。
「それにしても、これは大胆というか。建設費や用地買収の手間が大変ですな。何より山海電鉄が怒りますな」
砂岡はこの竹上のプランに疑問を投げかけた。そして竹上がどのようなことを言うのかを楽しみに待っているようでもあった。
「その点は考えている。そこに分岐して和歌山方面に向かうのが大事でな。今度和歌山に3ヶ所くらい原発ができるやろ。そうすれば政府と電力会社は見返りに新幹線を造らないといけない。空港だけだと建設費を政府や電力会社は出さんが、原発が絡んだら出さざるおえん。それを活用する。」
竹上の話に砂岡は多少納得した様子で
「なるほどね。確かに原発絡みであれば、政府も出資することになるでしょうな。ただ土地は簡単ではないでしょう。都心の土地を買わなければいけない。手間も金もかかる。後、山海をどう納得させるか」
竹上はそこで再び、突拍子もない提案をして来た。
「そこで先生にお願いなんやが地下深いところだったら、土地の所有権が及ばない法律を造って欲しいんですわ」
「これはまた大胆なことを」
砂岡は竹上の話を面白がりながら聞き入っていた。




