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原発新幹線

 1966(昭和41)年9月 特撮テレビドラマ「ギャラクシーマン」が放映されていたころ、運輸省は空港についてある発表を行った。空港への鉄道アクセスとして京葉電鉄だけでなく、新幹線を敷設するというものだった。

 ルートは新宿駅―東京駅―関東国際空港駅―鹿島駅―水戸駅―日立駅―岩城駅ー東福島駅ー仙台駅とされ、新宿駅で東北・北陸新幹線と接続して乗り入れるものだった。京葉電鉄がどう頑張っても、時速200kmで走行する新幹線に勝てる訳がなかった。


 この発表に京葉電鉄は驚愕の淵に叩き落とされる。石山は当時の京葉電鉄の様子を語る。

「役員たちは混乱していた。『約束が違うではないか』と怒鳴る者、『お上がやることなど、こんなもの』と冷笑する者、『一層のこと、新幹線の予定ルートで反対運動でもけしかけるか』と煽る者と、政府に対して怒りを露わにしている者ばかりだった。そんな中で井出社長は終始静かにしており、『わしが話を付ける』と言って、場を収めた」


 後日、京葉電鉄社長井出康介と砂岡との会談が行われた。場所は都内の料亭「錦」である。砂岡側は砂岡、秘書、運輸省の役人で京葉電鉄側が井出、市村、石山だった。

 このときアジア総合の社長であった市村はアジア総合の社長を兼ねながら、京葉電鉄の総務部部長になっていた。言うなれば市村は実質的に外れていた状態である。そして石山が市村に代わってアジア総合の実質的責任者とアジア総合の運営に携わっていた。

 石山はこの会談の様子を鮮明に覚えている。それだけ印象が強い会談であった。


 京葉側は先に料亭の部屋に入って待っていた。そして砂岡一行がおもむろに部屋に入ってきた。砂岡は開口一番に

「申し訳ない。京葉さんを裏切るような形になって」

と、正座をして深々と頭を下げた。井出は慌てて、

「先生、頭をお上げください。とにかく事情を教えてください」

「井出社長、申し訳ない。こういうことになってしまって」

砂岡は困惑した表情をわざとらしく見せながら、今回の経緯の説明を始めた。

「井出社長、福島に原子力発電所が大量に建設される話は知っているでしょう。あれが理由なのです」


 砂岡の説明によると福島県の海岸沿いに原子力発電所を大量建設する動きがある。その建設で地元への見返りの一つとして、新幹線を建設することになった。そして新幹線の採算性を上げる空港経由になったとのことだった。


 これが後に原発新幹線と呼ばれるものになり、その始まりであった。これ以後、原発建設する際には地元住民への見返りとして、新幹線・高速道路が建設されるようになる。東北新幹線の仙台から以北の延伸区間、北陸新幹線、山形新幹線、九州新幹線、北海道新幹線などが建設されていくようになる。

 原子力エネルギーは広島と長崎に投下された原子爆弾で最悪の印象を日本人に植え付けた。そんな核アレルギーが強い中で原発を建設するとなれば、住民を納得させるだけの見返りを与えるか、建設する地域から住民を排除するかのどちらかであった。実際は見返りを提供することで住民を納得させ、原発建設の賛同させるようになる。


 砂岡は、そうした国家のエネルギー政策による事情であると、困惑した表情をわざとらしく表して説明をした。そして空港用地買収で協力した京葉を補償するための案の話に移った。

「もちろん京葉さんのことは考えています。新幹線で京葉さんは儲けが減るでしょう。当然、納得いっていないことは分かります。これまで空港の用地買収で協力して頂いたのですから、京葉さんが他で儲けられるようにします。それで納得していただきたいのです」

「砂岡先生のことです。その辺りについては特に心配しておりません」

井出は温和な声色で返した。

砂岡は続けて、

「井出社長、用意してきた土産を見て頂きたい」

と砂岡が言うと、同行していた運輸省の役人が資料を出す。そして石山が受け取った。

 石山は受け取った資料を井出に渡そうとする。しかし井出は

「いい」

と言って、受け取らなかった。


 資料には、以下のことが書かれていた。


 ・今度建設される常盤新幹線の駅に直結する形で京葉電鉄のグループ企業の百貨店やホテルを造る。その際、政府の口添えで長債銀などから低利で融資する。

 ・新幹線の用地はアジア総合が購入した土地を借りる形にして、賃料を支払う。

 ・公団がアジア総合から土地を買う際は、相場より高く購入する。

 ・将来的には新幹線の技術を京葉電鉄に提供して、京葉電鉄も高速鉄道を運行できるようにする。


など、小さなことを積み重ねて、京葉グループ全体が儲けられるようなものだった。現行の枠組みの中で積み重ねる、正しく官僚的な提案書であった。


 井出はおもむろに

「砂岡先生、読まなくても大体のことは分かります。土地を高値が買うとか、新幹線の駅に京葉の百貨店を造るといったところでしょう。それくらいのことは誰でも思いつきます」

「まあ、それくらいしかないでしょう」

と砂岡は口元で笑みを浮かべながら、視線は憮然とした表情でいう。手渡した役人は無表情を貫き通していた。井出は続ける。

「砂岡先生といえば、大阪駅の拡張や伊丹空港で名を馳せたお方。もっと壮大なことをおっしゃると思っていたのですが」

と残念そうに呟いた。

 砂岡の目が鋭くなった。場は一気に緊張感が張り詰めた。

「そう、おっしゃるからには井出社長。何かご名案でも」

砂岡は些か意地悪く訊く。明らかに井出に対して不快感を表していた。

 そんな緊張感が張り詰めた室内で、井出は一言


「遷都です」


と発した。


 一同、呆気に取られた。余りに唐突な言葉であったため、一同が飲み込むに時間を要した。そして砂岡が言葉を発した。

「随分と大胆なことを言いますな」

砂岡は呆れた様子で話した。そんなことを意に介さずに井出は

「そんなに突拍子もないと思いますが、今、筑波に大学とか研究機関を移す計画を内々で進めておられるでしょう」

「ほう、これはお耳が早いようで」

「それをこの空港の近くにすれば宜しいでしょう。そしてついでに首都も持ってくればいいではないですか。土地はありますし」


 井出の言葉が事態を大きく変えていくことになる。

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