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90話 ビジネスマン

 

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「あ、芽衣これ美味しいよ。いけるんじゃないかな」


 冬越し祭りの試作品をオセロットくんに試食してもらった。孤児院の怪魚討伐から帰ってずっと祭りの準備を進めている。相変わらずアカデミーからの通知はこないし、私は気を紛らわせることに必死になっているのかもしれなかった。商家の生まれのオセロットくんが屋敷に遊びにきてくれたので彼の意見を聞くことにした。


「一人で準備から店番までするの?」


「うん、そうだね。大変そうだけどせっかく材料はあるし」


 巨大ウォーターリーパーを二人が仕留めたので材料は大量にある。だが全部を下ごしらえする時間はなかったのでまだ身はそのままで氷漬けにしてアイテムバックに入れたままだ。期限は一週間ほど。仕事は山のようにある。オセロットくんが頬張りながらしばらく黙り込んだ。


「……こんなに美味しいし、僕のところで協賛させてよ。すり身にするのなら家の工場を使えば時間も短縮出来るし貸せるものは貸すよ、必要なものの注文があれば作るし安くする。孤児院の子達も一回作ったならノウハウがあるし手伝ってもらえばいい、もともと材料費はタダ同然ならアルバイト代も出せるし夜は僕が馬車で安全に送ってく。どう?」


 さすが商家の息子なだけあって頭が回る。孤児院の子達も院長先生が今年は腰が悪くて祭りに参加させてあげれず不憫がっていた。すでに一人でてんてこ舞いになっていたので人手はとてもありがたい。経営観念ゼロの私が考えるよりとてもいい方に進みそうだ。金銭感覚のしっかりした彼に指導役として指示を仰いでもらうことにした。


 道具についてあれこれ話し合っていると鉢巻姿のリップさんがおぼんを持って部屋に入ってきた。


「芽衣お昼ごはんだよ今日は……あ、オセロット来てたのか」


 オセロットくんの姿に気づいて少し躊躇ったがおぼんに乗ってる器を見て意を決して入ってきた。


「リップさんありがとうございます。わぁ、今日も美味しそう!いただきます」


「今日は言われた通りほうれん草を練りこんでみた。どうだろうか?」


 リップさんはあれからうどん作りにハマってくれて、お昼ごはんに手作りのうどんを提供してくれるようになっていた。腕前はどんどん上達していて私も舌を巻くほどだ。


「とっても美味しいですリップさん!もうお店出せちゃいますよ!」


「そうか、よかった!」


 頭を掻き嬉しそうに笑うリップさんは照れているのかとても可愛い。一生懸命に色味を出すコツを説明するリップさんにオセロットくんも興味が出たのか一口啜った。


「聖騎士のあなたが何をしてるのかと思えば……美味しいじゃないですか」


「ありがとうオセロット、芽衣に教えてもらってハマってしまってね。なかなか奥が深くて修行のように無心になれるんだ」


「ハハ、なるほど……うん、いいね」


 尻尾を遊ばせながらオセロットくんがなにか考え事をしだした。不思議に思いながら私はニコニコしたリップさんに見守られながらお昼ご飯を食べていく。うん、本当にお店に出せる味、何でもこなせて器用な人だ。


 オセロットくんと話を詰め、計画を立てていった。計算や順序を効率よく立ててくれ、設計や構成も考え出してくれた。戦闘だけでなくビジネスマンの才能も遺憾なく発揮する同い年の彼に、素人の私は目から鱗が落ちるような細かなことにも気づいてくれた。


「よし、お店のイメージはこれでいいんだね。ずいぶん地味に思えるけどいいの?目立つように家で雇ってるデザイナーに頼んでもいいんだよ」


「ううん。そこまでお金もないし、これなら自作出来るだろうから」


「なんだか楽しそうだな。大工仕事なら私も手伝おう……これなら屋敷のもので揃えられるが、本当にこんなに簡素でいいのかい?」


「ありがとうございますリップさん!これが味なんですよ」


「じゃぁ僕は商業ギルドを通して出店の申請に顔を出してくる。いい場所を確保できると思うよ。教えてもらった調理器具はクリオロさんに頼んでみるね」


「ありがとうオセロットくん、助かります」


「商人の息子なものでね、こういう話には血が騒ぐんだ。明日は工場で材料を加工してから孤児院に顔出ししに行こう。じゃまた明日」


 テキパキとしたオセロットくんは確かに生き生きとしてるようにも見える。ビジネスマンの血だろうか、初めて見る一面だ。挨拶も早々に颯爽と部屋を飛び出して行った。


「オセロットはすごいな、位は中流貴族になっているが家名のブランド力は上流貴族でもなかなか敵わない家柄だよ。実力が伴っているからだろうね。オセロットもあの年齢で自ら立ち上げた企業を持っているんだよ」


「そうなんですか!?オセロットくんってすごい人だったんですね」


「ああ、私もそっち方面は詳しくはないがビジネス雑誌によく顔が載ってるようだよ」


「わぁ……リップさんといい、みなさん才能や特技があって羨ましいです。私は何にもできないので」


 目をパチクリと瞬かせたリップさんに両方の頬をつねられた。訳がわからず私も目を瞬かせた。


「い……いひゃいです、リッフひゃん」


「おっとすまない、寝ぼけてるのかと思って……さぁ我々も仕事に取り掛かろう」


 私の頬をしばらくふにふにしていたが引っ張るのをやめ、リップさんは立ち上がった。私も頬をさすり、後に続いて追いかける。

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