第三十二話
カラカラと引き戸を開けると、教室は静まり返っている。
というよりも、誰もいない。
それは当然だろう、何せ今は文化祭。
ここは文化祭の会場からは離れた、それも多目的室で、どこかのクラスの教室として使われているわけではない。
ならここで誰かが来る、ということ自体がイレギュラーのはずだ。
「降谷くんは、聞いたことあるよね。文化祭の都市伝説」
「ああ、告白したら、ずっと一緒に居られるってやつか」
聞いたことはある。
昔、先輩が教えてくれたものだ。
「で、それがどうした」
一目惚れを信じるか、と言われたら嘘になる。
ただ、ずっと気になっていた、その気持ちに今気づいたということも、その範疇に入るのかもしれない。
日差しは淡く、しかし秋にしては強い。
雲は出ているが、それすらも消え失せようとしている。
わずかに、教室の隅にまとめられているカーテンが揺れた。
今、この多目的室で動いているのは、俺と彼女、ただ2人だけ。
「あのね、言うよ」
一度だけだから、よく聞いててね。と、深屋は教えてくれる。
そして、その気持ちの内も。
呼吸は少し早まり、鼓動は気持ちのビートを刻みだす。
彼女の告白を、俺は聞き受けた。
何を言ったか、はあえて教えないでいよう。
ただ、彼女と、俺と、この日の秘密だ。