19話
決闘が終わってどれぐらいの時間がたったのだろうか?まだ演習場から出ていないことから、そこまで時間はたっていないと思うのだが……そう思いながら体を起こす。特に体に異常はないので、最後の一撃は本当に意識を奪う程度の一撃だったのだろう。回復魔法は……使うほどなら医務室にでも連れて行かれてただろうし。
「あ、あの……体は大丈夫ですか?」
と、隣から声が聞こえた。見るとかなり小柄な女子がこちらを見ていた。
「特に、異常は、無い、と、思う」
あれかな?保健委員とかそういった子かな?
「……右腕に少し火傷があったので、そこを治しました。ですから、その……一応違和感がないか確認しといてくださいね?」
袖をめくってみるが、特に皮膚が新しくなっている様子もなく、少し振ってもなんともない。
「大丈夫」
「よかったです」
そこで会話が途切れるが、あえて気にせず演習場へと視線を向ける。……やけに大きな音が聞こえると思ったが、原因はティーナとナハートだった。光と雷がかなり派手にぶつかり、消滅したり破裂したりしている。ラルツとほか数人がその危険地帯の隙間を縫って、お互い魔法をぶつけ合っていたりもする。
「……まだ安静にしててくださいよ?ついさっきまで意識がなかったんですから」
俺の視線の先に何があるのか確認して、そんなことを言ってくる少女だがもちろんあんなところに行く気はない。
「行く気は、ない。それより、名前を、教えて、欲しい」
そういうと少女は、少し小首を傾げてうなずいた。
「……そ、そういえば言ってませんでしたね。あの、えっと…あたしは、ミコトといいます。グランバルトのミコトです。専攻は『樹』ですが、え~と、その色々興味があって他の属性についても調べています」
ミコトか……聞いたことがあるような……そうだ!
「本の虫?」
「……はい。不本意ながらそう呼ばれています」
あ~、読書家なら本をたくさん読んでるっていうのはむしろ誇ることだと思っていたんだが、この子、ミコトにとっては違ったようだ。
「ごめん……。アスカ・グランツだ。よろしく」
「……はい、よろしくお願いします」
そういえばラルツがミコトに『俺の魔法の現状』のこと話してみたらみたいなことを言ってたが、どうしようかな?
「あの……アスカ君、ちょっと聞いていい?」
「……俺に、答えられる、ことなら」
先を越されてしまったな。まあいいか、内容も予想できてるし。少し背筋を伸ばし、聞く姿勢を作る。自分のことを話すときは少し切り替えとかないとな。『設定』に沿って話さないといけないから、できるだけ矛盾を作らないように……ほんの少しわざとらしいとこを入れれば、追及されなくなったりしないかな?
「アスカ君は、『心剣』をだれに習ったの?」
「祖父に、教わった。けど、魔法として、ではなく、思想、として、教わった」
実際は漫画なんかの聞きかじりだが、それらしく聞こえるよう作らせてもらった。今後、何かしらすごいことをやってしまったら『祖父に教わった』で統一しようと思ってる。
(ごめん爺さん。俺のためこの世界では超人になってくれ)
心の中で爺さん(最近囲碁にハマって勉強していた)に謝っておく。……特に意味はないが。
「魔法じゃなくて思想?えっと……もう少し詳しく教えてもらえる?」
む……ちゃんと教えると『心剣』じゃないってわかっちゃうからなぁ。……まあ、隠していたら俺の求める人が寄ってくるかも、とかいう理由だから無理して隠す気もないんだが。いや、そうだ、隠して実際の実力以上のことを要求される方が危険だな。
「あ、その、無理に聞く気は……」
「いや、いい。そもそも、勘違い、している、みたいだった、から」
ミコトがポカンとした顔をしてこちらを見てくる。……ちょっとかわいいではないか。
「え?勘、違い?」
「そう。あれは、『心剣』、じゃ、ない。『五行思想』、に基づいた、『強化』、だ」
「え?え?『五行思想』ってあの『五行思想』ですか?」
今気づいたんだが、ネルレシア共通語にも『五行思想』あったんだな。同じものじゃないかもしれないが。
「『五行思想』って、木・火・土・金・水の五行ですよね?それでどうやったら、あんなことができるんですか!?」
「どうって、『金剋木』?」
五行を知ってるならわかるもんじゃないのか?とか思うが、アスカの知っている五行も、結構いい加減なものであることを思い出す。
「えっと、『木気』には、『木のざわめき』すなわち『風』も含まれて、『風』には、空から降る『雷』も含まれる。よって、『金気』を持つ剣は、『木気』を持つ雷に、勝てる」
断言したが、細かい所は覚えていない。だが実際できたんだから細かい所はいいはずだ!
「確かに『金剋木』は知ってますけど……それはちょっと無理があるんじゃ……」
いいんだよ!そもそも五行は、世界はこの5つの要素でできている、とかいうものだったはずだし!いやこれ以上は自分の無知を晒すだけだしやめよう。
「……わかりました。まあ理屈はともかく、『あれ』は確かに一流のものでした。それで、その……それを見込んで、お願いしたいことがあるんですけど……」
……あまりいい予感がしない。しないんだが、ここでその頼みを聞く前に断るなんて図太いマネもできない。
「……言ってみて」
「はい!……その、あの……あたしに魔法を教えてください!」




