+ノル日記『お客様名簿』
夏の盛りも過ぎたある昼下がりのことだった。
可愛いウサギのノルさんこと俺が窓辺でうとうとしていると、背中をつんつんする不届き者が現れた。
「ノルさん、ノルさん」
「ん……どした、ロゼ。俺をモフりたいなら、あと一時間後にして欲しいんだが」
「実はですね。こちら(ユーハルド)で出会った皆さんのプロフィールをまとめていたのですよ」
「俺の話、無視かよ。……プロフ? なにそれ」
「お客様名簿というやつです」
ロゼの右手には緑の冊子が握られている。
なるほど。
顧客リストというやつか。
俺は机の上に飛び乗ると、ぐぐっと身体を伸ばして欠伸を噛みしめた。
まあ、まだ眠いが付き合ってやるか。
器用に前足で羽根ペンを掴んで俺はロゼを見上げた。
「──つまり、俺の血液型とか好きな食べものとか、プライベートな情報が知りたいってことだな?」
「いえ、それについては興味がないので結構です。そうではなくて、わたしがいない時にノルさんが出会った人たちのことを記してほしいんですよ。ほらノルさん、よくその辺をお散歩していますし」
「うん。もっと俺に興味持って? ──わかったよ。ほれ、そいつを貸してみろ」
ひどいご主人様から冊子を受け取り、俺は羽根ペンを走らせた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【ロゼッタの料理工房/スタッフ】
■ロゼッタ(年齢は乙女の秘密♡)
俺の相棒兼、店主のロゼだ。
ジョブは魔導師。
見た目は黒髪セミロングの清楚系美少女、といっておこうか(中身はアレだけど)。
服装は地味。いかにも魔女っぽい黒のローブを愛用しているな。
性格はひとことで言えばマイペース。
生まれも育ちも森の中。
おかげで世情に疎いド田舎娘。
ユーハルドに来てからは魔女の工房兼、小さな食堂を開いて日々料理の腕を上げている。
■ノル(俺も秘密♡)
可愛いうさぎとは仮の姿。
その正体は世界の神秘、星霊様だったのだ──!
なんてな。まぁ精霊とか妖精とか、なんかそういう類いのもんだと思ってくれ。
好物は、麦酒と串焼き。
あとは甘味も好きだな。
いちおうヒトの姿も取れるが、ロゼにおっさんと言われる。
いやいやいや、ノルさんそんなに老けてないからね?
【お客様リスト】
── シルギィードの月(三月)──
■ペリード(18)
眼鏡の兄ちゃん。ベルルーク侯爵っつう、由緒正しい家柄の三男坊らしい。
緑の髪にペリドットの瞳。
趣味は菓子作り。
ユーハルドの第二王子の補佐官として仕えていたが、紆余曲折してのちに菓子店を開くことに。
■リック(6)
くりくりとした栗毛の少年。
オムライスのタマゴは柔らかめが好み。
■ジェシカ(26)
リックの母親。
けっこう美人だったな。
■リリック(28)
リックの父親で『ブーランジェリ・トルトュ』とかいう発音しづらいパン屋の店主。
息子と名前似てて紛らわしいわ。
■通りすがりの銀髪少女(10才前後)
ロゼは知らないが、リックの母親探しの時に噴水に落ちた俺を助けてくれた少女。
犬耳だか猫耳だかのフードマントをいつも着用している。
口数が少なく、舌足らず。
普段はこの国の第四王子の護衛をしているらしい俺の初友だち。
■エオホズ(64)
パピヨン亭の店主。いちおうロゼの料理の師匠といえるじいさん。
うん十年前、まだ見習いだった店主は実はロゼと会っているんだが、まあ気付かないよな。
■セリカ婆さん(60)
ペットの猫を探してくれーって依頼に来た婆さん。ミートグラタンが得意。
■サラ(15)
赤みを帯びた茶髪の少女。
セリカ婆さんのお孫さん。
お子様ランチが好き。
■靴下を履いた猫ことシュクレくん(2)
俺のほうが可愛いよな?
── ウェンティードの月(四月)──
■アルバ(16)
見た目は聖女、中身はヤンキー。
金髪紫眼の雷魔法を得意とするフィーティアの神官さんだ。
のちのロゼの親友兼、常連さん。
グラタンが大好き。
■ソフィア(15)
大通りにあるケーキ屋のオーナー兼店長。
すげぇ暗いオーラをまとった嬢ちゃんだけど、長い前髪を上げるとけっこう可愛い顔をしている。
ちなみに兄はドーナツ屋を経営。
名前はジャン。すげぇやる気のない兄ちゃんだが製菓の腕は確か。
■商人の男(45)
ソフィアの父。
王都で卸商をやってる商人で、いわゆる運搬兼問屋だな。
彼の場合は店舗を持たずに農家から直接買い取ったものを王都まで運んで顧客(お店や貴族の屋敷)に卸している。
毎回ロゼに野菜を破格で提供してくれるので、ソフィアパパの店が潰れないかノルさんは心配です。
── ベルティーネの月(五月)──
■リック一家/二回目
リック少年ふたたび。
まーた母親とはぐれたって言うんで、ノルさん(人間体)と一緒に祭りを回った。
楽しかったぜ!
■アルバ(16)/二回目
屋台の売り子さんやってた。ほんと黙ってればお客さんホイホイなのにな。
■サラ(15)/二回目
兄をともない、道ばたでバッタリ。
■ユーリ(16)
考古学者なるインテリ系のジョブにつくサラの兄貴。
動物全般が苦手らしく、ノルさんが近づくとガグガクブルブル震える。
兄ちゃん、うさぎは人畜無害な生き物ダヨ?
── ヴィクタランの月(六月)──
■サラとユーリ/妹∞回目・兄二回目
喧嘩した友人と仲直りしたいとかでロゼに菓子を習いに来たんだが……俺は何も見ていない。
■アルバ(16)/∞回目
ところでサラもアルバも常連すぎて『何回目』のカウントしなくていい?
なんか大体こいつら毎回いるから、リック一家と眼鏡の兄ちゃん含め、これ以降はノーカンでいくわ。
── セレンの月(七月)──
■しがない門番さん(23)
厳密に言えば会ったのは先月だが、まあそこは適当に。
ユーハルドの正門を守る兵士さん。
彼女募集中。
■村人たち
ユーハルドの南東方面、ベルルーク領にある小さな村の名も無きエキストラたち。
── ルグルムの月(八月)──
■ジー様(ご生誕から1年くらい)
各ご家庭にたまに遊びにくる白光りのアレだ。
気休めだが、ヒンヤリ草を玄関近くや窓辺に置いておくとけっこう効果があるからオススメする。
■白ハトたち(推定1才)
犯人はおまえかーーー!
というやつである。
こいつら賢くて、ノルさんのこと見かけるとあいさつしてくれる。
激しくつつくのが、ハト流の挨拶なんだよね?そうだよね?
■厨房長(35)
厨房の司令塔。ドジっ子属性を装備したオッサンとか誰得なんだろうか……。
■見習いくんことピーターくん(17)
最近の若者は言葉づかいがなっとらんとノルさんは思うのよ。
職場で語尾に「っす」はダメっすよ。
言っておくけどそれ、敬語じゃないっすからね?
■ウェナン(当時18)
ユーハルドの第一王子。
未来の第二十九代目ユーハルド国王その人である。
つまり、今から二代前の王様だな。
妖精剣(聖剣)に選ばれし男。
王子時代に旅した彼の軌跡は『ウェナンの大冒険』という本につづられている。
■ミリア(当時18)
ウェナン少年の未来の王妃。
名門ベルルーク家の出身で、メガネの兄ちゃんのご先祖様ってところだな。
■ストラス(当時18)
ウェナン少年の未来の腹心。
生涯ウェナン王にのみかしづき、彼のために剣を振るった騎士の中の騎士だったと記述が残されている。ウェナン少年とは友と書いてライバルと呼ぶ。
■先生(見た目20代前半)
ウェナン少年の指導魔導師。
ロゼから見た第一印象は、近づくなキケン。
── ゼノスの月(十月)~年明けまで──
新規客ナシ。
──ベルグラの月(二月)──
■エルフィード(軽く1000才以上)
ロゼが言うには「顔だけのヒト」。
つまり中身がない残念なイケメンことロゼの大叔父。黒髪の美青年。
■オーゼン・アンブローズ(年齢不詳)
やっと会えたロゼのお師匠さん。
正式な弟子ではなく、あくまで教え子。魔法を教えてもらったのもほんの数ヶ月と案外短い。
薬草知識に明るく、魔法の腕に関しては言うまでもないが、ロゼの話を聞く限りじゃかなりの変わり者。
白髪に黄昏色の瞳をした青年。
俺の中ではオレンジ師匠と呼んでいる。
また、ロゼいわく『長い髪の女』が好み。
よってロゼも普段は髪を伸ばしているが、定期的に行う散髪後のタイミングで毎回お師匠さんが里に来るため、実は一度も長い髪を披露できなかったという裏事情がある。
なお、記憶に関しては本人いわく「崖から落ちたら色々忘れた」とのこと。
うん、たぶんウソである。
【俺は面識ないがロゼの親戚関係】
■ユノヴィア・バレンタイン(没)
ロゼのひいばあちゃんで、偉大な魔女。
ベルグラの月の十四日は聖国パトシナでは聖ユノヴィア祭を、ユーハルドではバレンタインが開催されるぜ。
彼女の数々の功績はロゼにとって重荷であるのと同時に誇りでもある。
実はお師匠さんのお師匠さんである。
■ディラン(没)
ロゼの祖父。
森族の里の前長老。
■ロゼの叔母(年齢不明)
名前はなんだっけか…忘れた。
仲はあんまり良くなかったみたいだな。
■クルックー(3)
エルフィードおじさんの飼いハト。
くるっくーと鳴くからクルックー。
【備考】
大陸歴1023年、初春までの情報を記載。
最後までお付き合いくださりありがとうございました。
少しでも、ロゼたちの物語が皆様の心の中に残ってくれたら作者冥利に尽きます。
感謝を。




