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氷の魔女の料理屋さん~最愛の師匠を探してモフモフな食堂を始めました!~  作者: 遠野イナバ
最終章『眠りの村の調査依頼』

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43 眠りの村を調査します(2)

 山に入ると動物たちの姿はなく、さぁーっと静かな風が、わたしの髪を揺らしました。

 寂しい山。

 いまは冬の時期ですから枯れ木だらけのも頷けます。


 そうして寒林を抜けた先。

 広がる冬の空とそびえ立つ岩壁。切り取られた崖の下に、睡魔鳥やつはいました。


「チッ、初めて見るがかなりデカいな。丸焼きにしたら何人前だ?」


 そこ、気になりますかねアルバちゃん。

 多分さきほどの村で宴が開けるくらいの大きさだとは思いますけど。


「就寝中……でしょうか?」


 緑の羽で体全体を覆い隠し、わらで作られたいかにも鳥っぼい巣の中で眠る睡魔鳥すいまちょう

 魔鳥などと言うからには魔獣の類いだと間違えられることもある睡魔鳥ですが、あれはれっきとしたただの鳥。

 本来ならば高山に住みつき、人の居住区域には来ることのない鳥なのです。


 それが産卵期になると、たべものを求めて低い山へと移動するため、その過程で人里に降りてしまうことが稀にあるそうです。

 その話をふたりにすると、


「ほーん。つまりあれは親鳥で、あの巣の中には卵があるってことか。食ったらうまいの?」

「それはもう絶品だと言われています」

「なら鳥ごとまとめて捕獲だな」


 方針は決まりました。

 あとはオムライスにして……じゅるり、などとわたしが心の中で舌舐りしていると、睡魔鳥がパチリと目を開けました。


 ──巣を荒らす不届き者。


 そう認識したらしい睡魔鳥は立ち上がると羽を広げて突進してきました。


「うぎゃああ! 来た、来たぞロゼ、アルバ! 早くあれをなんとかしろ!」

「わかってる。しかしまさか二足歩行で来るとはな。てっきり飛ぶもんかと思ったが……」

「いや飛びますよ! でも飛ぶのがあまり得意な鳥ではないので、山から山へ移動するときくらいにしか飛ばないんですよ! 冷静にコメントしてないで、早く逃げてください!」


 さっきからちょいちょい天然スキルを発揮するアルバちゃんを急かし、ノルさんを腕に抱え、突撃してくる睡魔鳥からわたしは逃げました。


『クェェェェェエ!』

「きゃああああ!」


 猛スピードでぐんぐんと。ずんぐりむっくりした巨大な鳥が近づいてきます。

 圧がすごい。

 あれに蹴られたらひとたまりもないでしょう。


「あなたを丸焼きに、〈大きな炎(ノル・イグニス)〉!」


 わたしは疾走しながら魔法を打ち込みました。

 しかし、羽で弾かれて効きません。

 睡魔鳥の羽は魔法を弾く。だから魔導師殺しの鳥だと呼ばれているのです。


ひかりに敵対する者に女神のいかずちを──〈雷槍(タランス)〉」


 アルバちゃんが雷の矢を放ちました。

 効果はありません。

 鳥にカミナリ。

 本来なら、こうかてきめんな組み合わせなのに!


「……くっ、かくなるうえは歌われる前にわたしの大魔法で──」


 あ、歌われました。

 きれいな歌声が鼓膜を震わせ、そして、わたしの意識はそこでふつりと途絶えました。


 ◇


「はっ!」


 目をますとそこはどこかの洞窟でした。

 ぴちょんと頬にしずくが落ちてきて、わたしは慌てて飛び起きます。

 隣には眠るアルバちゃん。

 むにゃむにゃ言っててかわいいです。


「じゃなくて! アルバちゃん、アルバちゃん! 起きてください!」

「んぅ……グラタン、風呂……」


 どんな夢、見てるんですか?

 グラタン風呂とか内容が気になるところですけど、わたしはアルバちゃんの肩を揺すって起こします。

 ノルさんは起こすとうるさそうなので放置で。


「どこだ、ここ」

「さあ……、おそらく山の中の洞窟のようですが」

「──起きたようだな」

「!」


 突然かけられた知らない声にびくりと肩を震わせると、やってきたのは冒険者っぼい恰好をした男の人でした。


 例の派遣隊のリーダーさんのようです。


 普段は〈ウミネコの剣〉とかいう商都の自警団の団長をしていると彼は言いました。

 ここにもその自警団の仲間と一緒に来たとのことです。


「俺を含めたみんな怪我をしちまってなぁ。村に戻るにも戻れないんだ」


 頭に包帯を巻いたリーダーさん改め団長さんは、「こっちだ」と言って手招きしました。


 少し奥に進むと小さな地底湖が見えてきました。

 そのまわりには寝かされた負傷兵たち。

 全員重症です。

 包帯からは血が滲み、見るのもはばかれるほど痛々しい姿です。


「わ、痛そう……」

「持ってきた薬もぜんぶ使い果たしちまってな。薬草でも取りに行くかとここを出たら、倒れた嬢ちゃんたちに襲いかかる睡魔鳥を見つけてよ。んで、なんとか隙を突いて連れ帰ってきたってわけよ」


 苦笑すると、団長さんは近くの岩に腰をおろしました。

 見たところ、ざっと十人程度の小隊のようです。

 その中で動けるのは団長さんを含め三人程度。たしかにこれではほかの負傷兵を担いで山をおりることも難しいでしょう。


 重傷者の中には、例の捜索依頼が出ている神官さんの姿もありました。


「薬、薬……と。これで大丈夫そうですか? そこまで多くはないですけど足しになるといいのですが」

「おお! ありがとう助かる。遠慮なく使わせてもらうぜ」


 団長さんが仲間の包帯を替え始めたのを見て、わたしとアルバちゃんも動きます。

 テキパキと薬を塗り、包帯を巻き。その際にこっそりと、みなさんには治癒のまじないをかけておきました。

 これで多少は回復が早まるといいのですが。


「町からの援軍はどうなっている? まさか嬢ちゃんたちだけかい?」

「えっとそれがですね」


 白ハトたちが眠っていることを伝えると、


「通りでまったく援軍が来ないと思ったわけだ、はははっ!」


 と、団長さんは笑い飛ばしました。

 いえ、ここ笑うところでもないんですけど。


「困りましたね。みなさんの治療のためにも早く村に連れて戻りたいところですけど、途中で睡魔鳥に遭遇してあの歌声を聞かされたスヤーですもんね」

「だな。まずはあの鳥をどうにしかするしかねぇな。──ま、じきに暗くなる。今日のところはここで世話になろうぜ」

「ですねー、はあ……」


 歌声のせいで接近できず、おまけに魔法を弾く羽まで持っている。

 鳥のくせにチート級のスペックを誇る睡魔鳥相手の戦いは、苦戦の予感です。

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