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氷の魔女の料理屋さん~最愛の師匠を探してモフモフな食堂を始めました!~  作者: 遠野イナバ
最終章『眠りの村の調査依頼』

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41 隣国に行くことになりました

 ちらちらと空から雪が舞い降りてきました。

 季節は冬本番。

 暖炉の前から動いてくれないノルさんをなんとか脇にどかして新しいまきをぽいぽいと。

 それから冷たくかじかんだ手を擦り合わせてわたしは厨房へと向かいました。


 すると、こつこつと。

 戸を叩く音が聞こえて窓を開ければ、ハトが入ってきました。

 クルックーさんです。

 エルフィードおじさまの飼い鳥の。


『今度、王都に行くわ。差し入れなにがいい? 追伸:鳥難ちょうなんの星が出てるから注意な』


 クルックーさんの足から文を外して確認するとそう書いてありました。


 今度、というのがいつの『今度』なのかはわかりませんけど(森族エルフ的に年単位だったりするので)、とにかく遊びに来てくれる、という知らせでした。


 差し入れ。

 うーん、これといってとくべつ欲しいものが思い浮かびませんね。


 ひとまず、師匠、とだけ書いておきましょうか。


 返信用の紙を足に巻き付けやると、くるっくーと鳴いてクルックーさんは飛び立って行かれました。

 ちなみに後半の内容は見なかったことにしました。鳥難ってなんですか。意味不明です。


「ノルさーん。お店を開きますよ。早く準備してください」

「へーい」


 いつもの定位置クッションについたノルさんは看板猫さながら看板うさぎとして今日もお客様を出迎えます。

 さっそくランチにいらした美人なお姉さんに頭を撫でられてご満悦のご様子です。


 わたしとしては、人間姿に変身してホールの仕事をしてほしいんですけど、ノルさんが寒くてイヤだと駄々をこねるので、冬のあいだはモフモフ要因として招きウサギをやってもらうことにしました。


 あれでけっこう客寄せになるんですよね。

 でも、飲食店に動物とか衛生的にどうなんでしょう。今更ですけれど。


「よう、ロゼ。いつもの頼むわ」

「アルバちゃん、いらっしゃいませ。空いてる席にどうぞ」


 アルバちゃん、ご来店です。

 今日も働き者の神殿長さんに仕事を押し付けてひとりランチです。


 すぐに温めた五層のグラタンを持っていくと、アルバちゃんはふーふーとグラタンに息をふきかけ、ハフハフと食べ始めました。

 幸せそうな表情です。

 いつもそれしか頼まないですけど、たまにはほかのグラタンもどうですか?


 冬季限定カキとほうれん草のミートグラタン、とかもおすすめですよ。


 ◇


 ランチタイムも終わりに差しかかり、お客さんたちが帰っていくのを一瞥して、アルバちゃんはスッと一枚の紙を机の上に滑らせました。


「これは……」

「捜索依頼。──ほら、あんたの師匠のことで向こうの支部と最近手紙のやり取りをするようになってさ。それで、所属している神官のひとりがしばらく行方不明なんだそうだ」

「行方不明……。詳しく聞いても?」


 アルバちゃんは頷くと、つらつらと語り始めました。

 話はこうでした。

 隣国イナキアの小さな村で、魔病まびょうと呼ばれる死病が蔓延まんえんしているんだそうです。


 その治療と調査のためにフィーティア機関のイナキア支部から神官をひとり向かわせたところ、村に入ったところで連絡が途切れ、いまだ消息が掴めないとのことでした。


「一週間前の話だっていうから、もう少し待ってみる、とは手紙にも書いてあるけど、どうも心配みたいでな。可能なら探してほしい、って話が来たんだよ」

「なるほど……。でもそれなら現地の方々が向かえばいいのでは? なぜわざわざ外国にいるアルバちゃんに話が?」

「うちから行くほうが近いからだよ」


 アルバちゃんは地図を開いて見せてくれました。


「例の村は、うちとの国境を越えたあたりにあるんだが、イナキア内にあるフィーティア支部は全部で三つ。商都しょうとと呼ばれる、こっちでいう王都にあたるデカい町と──」


 すみません。

 アルバちゃんの説明が難しくて半分しか理解できなかったんですけど、つまるところ『距離的にもユーハルドから行ったほうが近いし、奇病が蔓延する村への調査とか行きたくないから、そっちで調べてくれない?』という丸投げでした。


「──というわけだ。そしてこれはわたし個人からの依頼だが……」


 机の上に置かれた銀貨三枚。


「いまはこれしか出せねぇが、帰りに向こうの支部から報酬をたんまりもらうから、それを全部あんたにやる。具体的には金貨十枚。──どうだ?」

「やります」


 即答しました。

 だって金貨十枚ですし!


「えへへ……金貨が十枚も……」


 思わず頬がゆるむわたしです。

 アルバちゃんがなんともいえない顔でゴホンと咳払いをします。


「言っておくけど今回の依頼は往復でひと月半以上はかかるから準備は念入りにな」

「え! そんなにかかるんですか!?」

「あんた、私の話聞いてないだろ」


 呆れた表情で短く嘆息すると、アルバちゃんはお説教のごとくこんこんと最初から説明してくださいました。


「旅支度もある。二日後の朝に正門前で待ち合わせな」


 と、いうわけで。

 わたしはしばらくユーハルドを離れることになりました。


 ◇ ◇ ◇


 二日後、朝食を済ませたわたしは正門前でアルバちゃんを待っていました。


「なぁ、ロゼ。ほんとにいいのか? ひと月半も店休んだら客が来なくなっちまうぜ」

「そりゃ、そうですけど」


 夏の料理工房アトリエ爆発騒動以来、最近やっと客足が戻ってきた中での再休業。

 しかも長期。

 今度こそお客さんが誰も来なくなってしまうのでは?


 そう危惧するノルさんの気持ちはよくわかります。

 わたしも心配です。

 ですが仮にもしもこの依頼を断れば、アルバちゃんはひとりで村に行くでしょう。


 彼女のことですからそれでもとくに問題なく依頼をこなして帰ってくるはずです。

 ただ──


「アルバちゃんが話していた村の様子が少し気になるんですよね……」

「村? ああ、寝たきり起きねぇ住人の話か」

「ええ」


 そこは山間部にある小さな村でした。

 オレンジの栽培を生業なりわいとする村では採れた果実を近隣の町へとおろしていました。

 いつものように村の若い男が納品を終え、村へと戻ると異変は起きていました。


 村人全員が眠りについている。


 とても奇妙な光景だったと言います。

 地面に倒れて寝息を立てる者。

 家の中で椅子に座ったまま目を閉じる者。

 ベッドで眠る者。

 寝姿こそ様々とはいえ全員息がある。

 生きている。


 けれど、男が身体を揺さぶっても起きることはなく、みんな眠りについたまま。


 なにかの流行り病だろうか?


 そう思った男は急に怖くなり、商都(イナキアの首都)に行って、その話を商業組合ギルドに伝えました。


 その後、商都の自警団を中心に調査隊が組まれ、フィーティア機関からも一人随行者を出したそうです。


 しかし『もうじき村に着く』という報告を最後に調査隊からの連絡は途絶え、村の状況は分からずじまい──


「アルバの話じゃあ魔病まびょうだったか? 古代の病のひとつで衰弱死がうんぬん言ってたが、ノルさん行きたくないんですけど」

「駄目です道連れです。……というのは冗談ですけど、魔病あれはそんなにポンポンとなるものじゃないので違うと思いますよ。おそらくはですけど──」

「わりぃ! 遅れた!」


 ──と、アルバちゃんが通りの先から走ってきました。

 その隣にはパティシエの制服に身を包んだペリードさんもいます。


 先日オープンした〈眠り猫の菓子店〉。

 彼が開いたケーキ屋さんはオープン当初から話題にのぼり、いまや王都中の誰もが知る大人気店なので、この時間は開店準備でお忙しいと思うのですが、どうやら見送りにきてくださったようです。

 ありがたいことです。


「待ったか?」

「大丈夫ですよー。さっき来たところですし。ベリードさんも、お見送りありがとうございます」

「うん、今回は長いって聞いたからね。よかったらこれ、旅の道中で食べてくれ」


 アップルパイ!

 かごを受け取り、お礼を伝えると『いつでも作るよ』との王子様スマイルが。

 恐縮です。


「そうそう、先日聖国(せいごく)の友人に聞いてみたんだ。そうしたら手紙が返ってきたんだけど……」


 ペリードさんは懐から手紙を取り出しました。

 聖国パトシナ。わたしのひいおばあ様を信仰する国ですね。

 少し曇った表情で彼は手紙を開きます。


「機密事項だから話せない、だってさ。……ごめん」

「え? ──ああ! 大丈夫ですよ! もとから気長に探すつもりでしたから」


 ずずーんと落ちこんでしまわれたペリードさんに慌てて両手を振ると、今度はアルバちゃんが考えむように口元に手を置きました。


「でも、『機密事項だから話せない』ってことは、やっぱりあんたの師匠、フィーティアから追われてるんだな」

「そうみたいですね」


 実はあれから師匠の足どりを追跡してくださったユーリさん経由でアルバちゃんに話が行き、そこからどうやら師匠はフィーティアに追われているらしい、と判明。


 そうしてペリードさんがフィーティア幹部の知り合い(なんと聖国のお姫様だそうです!)に手紙を送り、現在に至るわけです。


「まあ、以前も故郷の村にフィーティアの代表を名乗る子供が来て、おじいさま……前長老様と、師匠の行方がどうのと揉めていましたし。むしろペリードさんのお話から、サラさんのご友人が港で見た男性というのは師匠で間違いないようですね……」

「それなら、これから二人ともイナキアに行くんだし、もしかしたら会えるかもね」

「うーん、だといいですけどねぇー」


 望み薄です。


「あ、そうだった。エルフィードからこれをロゼにって、今朝届いたんだ」


 ペリードさんは何かを思い出したらしく、上着のポケットをまさぐりました。

 わたしの手のひらにぽんと置かれたのは小さな包み。中を開けると耳栓が数組ほど。

 えっと……これは?


「ほら僕、エルフィードとはキミのことでよく手紙のやり取りをしてるからさ」

「……え? 初耳ですけど」

「ええ? 聞いてない? 毎週占い付きの手紙が来るけど」

「あ、やっぱりそれデフォルトなんですね」


 そういえばむかし、女の子を口説くために占いを覚えたとかなんとか、おじさまが言っていたような気がします。ほとんど当たらないですけどね。


「彼なりにキミのことを心配してるんだよ」

「はあ、そうですか」

「──おい、ロゼ。そろそろ出るぞ」

「あ、はーい! では、ペリードさん。もう行きますね」

「ふたりとも、道中気を付けて」


 手を振るペリードさんにしばしの別れを告げて、わたしとアルバちゃんとノルさんは王都を出ました。

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