7 : 命の重さ
太陽が登り、目が覚める。
今日は昨日であった三人と共に遠くまで薬の材料を採りに行く予定だ。
が、
俺はなぜこんなことをしている。
アリシアのお母さんを救うため?
そのために時間を無駄に使うのか?
俺の目的は妹の病を治すことだ。
だから本当であれば無視するべきだった。
でも、あのアリシアの姿を見ると無視はできない。
妹と重なる見た目、そして、妹と重なるアリシアのお母さんの体調。
俺には無視できない。
俺は俺の目的のためにもアリシアのお母さんを救うつもりだ。
魔傷の薬は蒼月草の葉と黄来樹の根が必要となる。
これから向かう場所はその二つが採れる場所。
そこに行けば薬が作れる。
救うことができる。
「行くか」
朝ご飯も食べて集合場所である冒険者ギルドへと向かう。
中は人が多く、活気があった。
ザワザワとした声の中で聞き覚えのある声が聞こえた。
「ユウマ!」
ユリスの声が聞こえ、俺は声の聞こえた方を見る。
ユリスとガレット、ソニアと更にもう一人がその場に居た。ソニアよりもさらに小さな女の子。身体を隠すようなマントを羽織り、フードを深く被った少女が、ソニアの影に隠れている。
あの子がもう一人のパーティーメンバーなのだろう。
「その格好はやっぱり目立つな」
聞いたところによると俺が来て直ぐに周りがざわついていたらしい。それで一番背の高いユリスが俺の存在に気付いたとの事だった。
「さあ、みんな揃ったし、行くか」
ガレットの声に皆が頷き、冒険者ギルドを発つ。
周りの視線を集めながらもガレットの先導のもと、街の外へと向かった。
「通っていいぞ」
門はすんなりと通れた。出ていく方では検問は無いようだった。
薬の素材が採れる場所はここから五日程歩くと聞いている。一応昨日貰ったお金である程度の食料と水を買ってきている。現代のように日持ちはしないから水は考えておかないとな。
「と、この辺りでいいか…………。シャトン、こっちに来い」
「……………」
周りには誰も居ないが、顔を隠すようにしながら小柄な少女がガレットに隠れるようにして近くに来る。
「コイツはシャトンで、索敵が得意だ」
「………よろしく…です」
ガレットに隠れるようにしていた少女をガレットが引っ張り出す。フードを更に深くしながら少女は挨拶した。
顔は良く見えないが、アリシアよりも子供のように見える。
「よろしくね」
「ん」
ちらっと目線を向け、すぐに目をそらされた。
昨日のうちにシャトンの事はガレット達から人見知りだと聞いていた。
「まあ、こんな奴だけど悪いやつじゃないんだ」
「………こんな奴じゃない」
「痛っ!」
シャトンを捕まえていたガレットの手をシャトンが掴むとガレットは声を上げながら手を離す。
シャトンは自由になると今度はソニアの近くに隠れるように逃げた。
「いつもこんな感じだ。気にしないでくれ」
あははと笑いながらガレットが言う。
ガレットに釣られたのかユリスもソニアも笑っていた。
✦︎
ガレットが先頭で俺が次の順番で皆で固まるように歩いていたが、シャトンが突然前に出て来た。
「………前にウルフ。多分二匹。こっちを狙ってる」
「了解だ。シャトン、片方殺れるか?」
「任せて」
シャトンは下がると、街道から離れる。
ーーーンッ
そのすぐ直後に前の方から小さく何か声が聞こえた。
「行ってくる」
今度はユリスがその場所へと走る。ユリスは身軽なのかとても速い。
キャンッ
さらに鳴き声が聞こえ、その場に行くと、二匹のウルフが倒されていた。
一匹は脳天に矢が刺さっており、もう一匹はユリスが解体を始めていた。
シャトンとユリスで二匹を倒したようだった。
ウルフからは血が流れ、血の匂いが少ししていた。
「二人ともお疲れ様」
「あのくらいは楽勝」
倒したウルフはユリスが炎で燃やしている。このまま残しておくと魔物の餌となってしまうからだった。
「よし行くか」
解体を素早く終えるとまた歩き出す。
その後もシャトンが魔物を見つけ、魔物から回避したり、倒したりする。
俺は前に居たのに小柄なシャトンがいちばん早く魔物を見つける。
後ろからも前からも横からも全ての方向からの魔物がどこにいるのか分かっているようだった。
✦︎
「今日はここまでだな」
太陽がそろそろ地平線へと落ちる頃、ガレットが言う。
そこには岩壁があり、何ヶ所にも穴がある。その穴の一箇所に俺達は入る。中はかなり広く、快適だ。
今日はここを寝床にするようだった。
火を囲み、食事となる。
食事が終わるとすぐに横になり、目を閉じる。
身体を休めておきたいのに頭の中で思考が巡る。
しばらくすると周りからは寝息が聞こえてくるが俺の思考は巡ったままであった。
今日も魔物を何体も倒した。
アリシアの時は魔物は全て食料にしたが、この四人で食べられる量は決まっている。食べられないものは全て燃やした。
魔物の命を奪った。殺さなければ俺たちが死んでいたから正当防衛ではある。
肉を斬り裂く感覚、斬った後の血の匂い。右手には命を無駄に奪った感覚が残っている。
命のやり取りをしているからしょうがないものはしょうがないと思ってはいる。
それでも、命を奪う感覚は俺の中に蓄積されている。
そう、俺は目的の為ならなんでもするつもりだった。魔王を殺す事も目的の為になら躊躇しないつもりだった。
だが、ここに来て思ったのは、魔物であっても命を奪う事は怖かった。
魔王がもし人であれば、俺は人を殺せるのか?
「眠れないのか?」
「気付いていたのか」
「何となくだけどな。ずっと何か考えてそうだったしな」
最初の不寝番をしていたガレットは俺が寝れないことに気付いていたようだった。
「話なら聞くぞ?話したくなければ何も言わなくていいが、そうじゃないだろ?」
ガレットは俺の目の前に座る。
「ガレットは魔物のことどう思ってる?」
「どう………か?………俺は魔物は倒さないといけない存在だと思ってる。魔物は放置していたらどれだけ被害がでるか分からない。だからこそ、俺達のような冒険者がいるって思ってる。
って感じでいいか?」
「そうだな………そうだよな」
倒さなければ人が死ぬ。そう思うしかない。殺すか殺されるかの世界だ。
「やっぱりお前、魔物を殺すのが怖いのか?」
「………そうだな。………気付いていたのか?」
「なんとなくな。強い割には思い切りがない。力と行為がちぐはぐだ」
斬る直前に俺は一瞬躊躇してしまう。その姿を今日ガレットは察していたようだった。
「魔物はお前を殺すつもりできている。甘えは油断だ。殺される前に殺せ。
あとは、お前はまだそんな時が来ていないんだろうが、それは人に対しても言えることだ。
生きるためには殺しも必要となる。
躊躇はするな。それが、生きるために必要なことだ」
俺は自分の来ている鎧を見る。見た目と違い軽く、傷一つなく白く輝く鎧。
神様モドキの言うように本当に攻撃が効かないのであれば…いや、攻撃が効かないのだろうと思っている。
今までで出会った魔物の攻撃は俺には効かなかった。それが答えだ。
だから命をかけている自覚は無い。
しかも、出てきている魔物はゲームのような存在であり、現実味を感じていない。
ただのゲームみたいな物として頭の中で思っている。
「命懸けだもんな」
手で顔を優しくつねってみる。つねった場所には痛みがあり、地面を触っていたからか、乾燥した土が付着する。
「少しはマシになったようだな。
今は俺達がいる。俺達で良ければ相談に乗るから一人で悩むなよ」
「ありがとう、ガレット」
「どういたしましてだ」
この世界で生き抜いて目的を果たすために、俺は躊躇しない。
気持ちを改めた俺はそのまま眠りにつくのだった。
✦︎
五人から遠く離れた場所に何かが当然出現する。
「ここが神の言っていた場所ですか」
何もいなかった場所に突然現れた存在は天を見上げながらそう呟く。
「私が魔の存在になるとは思っていませんでしたけど、これはこれで良いものですね」
その存在は魔力を練りあげ、空へと放つ。
星空が揺らめき、大地が震える。
「素晴らしい。これが私の力。これがあれば今度こそは私の目的が達成出来る!あのクソ狸に媚びを売る必要も無い!私の世界を…願いを叶えられる!!!」
その存在は大きく笑う。
この世界に新たな脅威が出現した。




