5 : 初めての冒険
冒険は楽しいもの。
上がっていた気分はすぐに落ちていった。
「そりゃそうだよな、野宿だもんな」
待っていたのは何も無い外での生活。
道から外れた所に開けた場所を見つける。そこは誰かが地面をならしたと思われる跡があり、この道を使う人がここで休んだ可能性が高かった。
ということはここ以外で休む場所が無い可能性もある。他を探しても良かったが、日が傾いており、他を探す時間もないだろう。
俺はアイテム袋から敷物を出し地面に敷く。地面は硬く、薄い敷物を敷いただけでは地面の凹凸がよく分かり、座るだけでも違和感がある。
ウルフの毛皮を足にかけるが何かが改善されるわけもない。
キャンプをしたのは小学生の頃で、テントを使っていた。今はそんな便利な物を持っていない。
「村から三日かかるって言ってたよな…明日も同じだよな………」
この生活があと二日、急げば明後日は目的地に着いているかもしれない。
今日の夜は貰った干し肉と木の実を食べた。水は大丈夫そうな湧き水を偶然見つけたため補充できた。明日また水を見つけられるかは分からないが、持てる量はきまっている。
だが、あと二日くらいなら何とか持ちそうか?
「外だし…鎧も脱ぎたくないもんな」
最初は鎧を脱いでラフな格好になっていた。
が、暗くなる外の世界には光がなく、日が落ちると月明かりしかなく薄暗かった。
そしてギャアギャアと聞いた事のない何かの鳴き声。ワオオオオンと犬か狼か何か分からない雄叫びまでも聞こえてきた。
こんな所で命を守る為の鎧を脱ぐことはできない。
大きめの岩を背中に当てるように座るようにして目を瞑る。
昼には気にしてなかったような風、草木が揺れる音や振動すら気になってしまう。
目を瞑っていると少しずつ気になっていた感覚が弱くなってくる。
慣れればこの環境でも少しずつ眠くなってくる。
俺は少しの間だが寝ることができた。
翌日、朝日が顔を出して明るくなると歩き始める。
昨日の反省を生かし、早めに寝場所を探そうと思っている。
日が登り、太陽が地面を照らす。
道は凸凹でありながらも踏み固められており、サイーナの村付近と比べると人が通っていることが分かる。
干し肉と木の実でお腹を満たし、水も飲みながら先へと進んでいく。
今日の寝床は洞窟の中。
明らかに誰かが使ったと思われる焚き火の跡を見ると火を起こしたくなる。
火があれば色々なものを焼くことが出来る。
でも、俺は火を起こす道具を持っていない。火を起こす技術もない。
俺は火に未練を持ちながらも眠りにつく。
今日も鎧は着たままで、横になってみた。
ゴツゴツとした感覚はあり、ベッドが恋しい。
今日も多少の疲れは取れたが眠りは浅かった。
サイーナの村を出て3日目となった。
歩くのも少し慣れてきた。
「………………ぞ!!」
歩いていると遠くから声が聞こえた。聞こえた方向からはバキバキと大きな音が聞こえ、木が倒れた。
俺は声が聞こえた方へと進行方向を変える。
道から外れ、深い草に阻まれるが足を先に進め、木の影から音がした先を見る。
その先には大きな鬼と人が三人居た。大きな鬼は大木を持ち、一番前に居る盾を持ったガタイの良い男に向かってそれを投げる。
投げられた木を盾で受けるが、更に木が投げつけられ、盾と共に男が吹き飛ばされる。
ゴンッと音を立て、男が地面に叩きつけられる。
俺は急いで男が倒された方へと走るが、距離は遠い。
「……ット!」
飛ばされた男に華奢な女が近付き、鬼との間には剣を持った男が立ち塞がる。
「通さない」
男は鬼に立ち向かい、剣を振るう。剣は鬼の腕に当たり、剣が弾かれる。
「く……っ」
弾かれた剣を握り直し、更に追撃するが、剣は身体に弾かれている。
「アイスランス」
男が剣で斬りつけている中、女は杖を構えていた。杖から氷の槍が一つ空中に作られると、それが鬼へと向かっていき、鬼の腕に当たる。
そこは剣で何度も斬られ、弾かれた場所だった。
「……硬い」
氷の槍は少し刺さるが、ゴロリと落ちる。
ガアアアアア!!!
氷が刺さったことで、鬼は怒りを表しながら男に突進し、一気に距離を詰めた。
「おらあああ!」
俺は突進している鬼へ体当たりする。
簡単に弾かれると思ったが俺の足はそのまま地面を踏ん張り、鬼を吹き飛ばした。
ゴロゴロと鬼は転がり、すぐに起き上がる。
ガアアアアア!?ガ…??ア………?????
怒りを顕にしながら鬼が俺を見ると、怒りの様子から戸惑いへと変わる。なんで?というような顔をしながら自分の身体と俺の身体を見比べていた。
大きさなんて何倍も違う俺に吹き飛ばされたことが不思議な様だった。
ガア!アアア!!!
鬼は今度は俺に向かって突っ込んでくる。
ダンプカーのような巨体が迫る中で、俺は盾を構えながら足で踏ん張るようにする。
ドゴオオオォォォ
盾と鬼とぶつかると衝撃を感じ、爆発したかのような音が盾と鬼の間から広がる。
ォォォォ……………
ズズーン
鬼が俺の目の前で倒れる。
「嘘………オーガを………」
振り返ると助けた三人が引いた顔をしていたのだった。
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パーティーメンバーであり、幼馴染であるユリス、ソニアと共に魔物を狩りに出た。
今日はパーティーメンバーのシャトンはお休み。
斥候である彼女が居ないため俺達は安全策をとった。
いつもはオークやハイウルフを狙うが、今日の目標はウルフ。ウルフでも肉も毛皮も色々なものが役に立つ為、需要は高く、稼ぎになる。
街の近くは狩り尽くされて魔物が居ない為、徒歩一時間かけて森の中まで来た。
いつもはさらに深くまで遠征して狩りをするため日帰りの狩りは小遣い稼ぎの感覚だった。
「懐かしいな」
駆け出しだった頃はよく三人でここまで来ていた。この辺りは湖があり、ウルフやウイングラビット、ゴブリン等が住んでいる。
小型の魔物ばかりであるため俺達であれば囲まれなければ安全に倒せる。
「楽勝ね」
本日の獲物であるウルフを倒し、ソニアの口から言葉がこぼれていた。
「油断するんじゃねえぞ」
「してないし、近くに魔物はいないと思うわ」
いつもであれば近くに魔物がいたらシャトンが教えてくれる。
ソニアがシャトンの代わりに魔物の気配を探っている。ソニアは俺達三人パーティーだった時は斥候もしていたから周りの警戒は出来る。
魔物の声も何かが歩く音も全く聞こえず、森の中は静かだった。
シャトンであれば静かすぎるこの状況で異変に気付いていたかもしれない。
そして、それは突然現れた。
何かが飛んできた事に気付き、それを防ぐ。
それは木の幹であり、直後に雄叫びが聞こえた。
ガアアアアア!!!
「な…!?オーガ………だと」
巨大なオーガが現れ、私達を餌と認識したようだった。
「…………逃げるぞ!!!」
パーティーリーダーとして、逃げを選択する。
オーガは俺達三人では…四人居たとしても勝てる相手ではない。
オーガの猛攻を防ぎながら、後退していく。
盾が軋み、手が痺れてくる。オーガの力に人間では敵わない。
他の二人にこの攻撃を防ぐ手立てはない。
俺が出来ることは二人を生きて返すことだ。
「行け!俺はここで食い止める」
「バカ、やめろ。死ぬぞ」
ユリス、ソニアは俺を静止させようとする。
「タンクは守るのが仕事なんだよ」
パーティーを全滅させることは出来ない。
俺に出来ることはパーティーを守る事だった。
「かかってこい!!!」
スキル【敵対する瞳】を使い、オーガの敵視を俺だけに固定する。
俺は進行方向を180度変更し、オーガへと立ち向かう。オーガは木を投げつけ、俺が盾で防ぐ。
更に木を投げつけられて俺は盾と共に吹き飛ばされる。
完全な敗北だった。が、オーガの敵視は俺に向いている。俺が死ぬまでオーガは二人の元に行くことは無い。
「ガレット!!!」
俺を呼ぶ声が聞こえた。その声はすぐ近く、目を開けると目の前にいる。
「お前ら………行けと、言っただろ………」
俺が稼げる時間は残り少なかったが、二人なら逃げられると思っていた。
見捨てればいいものを………
「お前を置いて行けるかよ。」
こいつらはバカだ。
死ぬ未来が見えているのに戦うなんてな。
「俺も………寝てられないな………」
痛む身体に鞭を打ち、立ち上がる。口の中には血の味がする。
盾には亀裂が入っていたが、俺のやる事は変わらない。
二人が戦っており、ユリスにオーガが突進していた。
「ユリ…ス」
届かない。
突然、白い小さい何かが飛んできてオーガを吹き飛ばす。
「白…?なんだ……あれ?人か?」
オーガはその白い何かに向かって突進すると何かと衝突する。
地面が揺れるほどの衝撃が拡がり、動きが止まる。
その直後、オーガが地面に倒れる。
「倒した…………のか?」
白い何かは人だった。
オーガを人が?力で勝ったのか?
俺には何が何だかわからなかった。
「えええ………」
オーガという化け物に勝る力を持つ人。意味がわからない。
次の予定は水曜日になります




