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3 : アリシア

彩香(あやか)………なのか?」


 妹に似た少女に訊ねる。少女はキョトンとしながら頭を横に振る。


「私の名前はアリシアです。アヤカ?ではないです」


 少女はアリシアと言う名前のようだった。ただの他人の空似…にしても似ているな。


「えっと………私そんなにその人に似てるんですか?」


「あ、ごめん。俺の妹に似ててね」


「そうなんですね…それは………」


 アリシアは何かを察したかのような表情を見せ、顔を伏せた。


「あ、いや、生きてるんだ。………でも、俺はあいつを助けないと」


 妹を助けるためにここにいる。剣を鞘へと戻し、気配を探す。

 魔王の気配は遠く、俺が斬ってしまった木の方向に感じた。


「あ…私も急がないと。えっと…助けて貰ってありがとうございました。また会えた時には何かお返ししますので、急いでいるので失礼します」


 そう言うとアリシアは走っていく。


「………別に礼なんて要らないが、アリシアは大丈夫なのか?さっきの狼みたいなのにまた襲われるかもしれないぞ」


「ウルフの事ですか?あと一匹くらい平気で すよ。私魔法を使えますので」


「魔法?」


 魔法というものがあるのか?


「はい!私、魔法使えるんですよ。初級の魔法しか使えませんけど…ね。」


 アリシアは得意げな顔になる。魔法を使えることは凄いことのようだった。


「勇者様…?は…使えそうですよね」


「ごめん、俺の名前教えてなかった…俺は川添悠真(かわぞえゆうま)だ」


「カワ…エ…?………ユウマ?さん?えっと…ごめんなさい。外国の方?の発音難しくて………」


悠真(ゆうま)で大丈夫だ」


「えっと………ユウ…マ…さん、ユウマ…さん、ユウマさんですね。覚えました」


 アリシアは何度も俺の名前を復唱していた。


「ということで、私は大丈夫です。ユウマさんもウルフの死体を片付けた方がいいですよ?」


「片付ける………ってこのままじゃいけないのか?」


「ダメですよ!?このままだとウルフの肉と血に釣られてもっと大きな魔物が来てしまいますよ!?ユウマさんの所は大丈夫だったんですか!?」


 こーんな。って言いながらアリシアは手を大きく拡げていた。


「俺の所は特になかったかな…というよりもこのウルフだっけ?ってのも居なかったしな」


「魔物が居ない………?そんな事って………」


 アリシアは俺の言葉にびっくりとしていた。

 俺からしたらこのような生き物が平気で居るこの世界が異常だと思うが、アリシアからしたら俺の世界の方が不思議なようだった。


「と、とにかく、このまま放置していたら魔物がいっぱい来ちゃいます!手伝いますから、片付けますよ!」





 アリシアは急いでいると言いながらも何も知らない俺の手助けをしてくれた。


 アリシアは水の玉を作り出してウルフ達を洗っていた。

 俺は何も出来ず、アリシアに言われたままに動く。

 ウルフに袋を当てるとウルフが消えた。

 俺はそれにびっくりとしたが、アリシアからすると普通のようだった。この世界のアイテム袋と呼ばれているものは生き物以外は小さな袋の中に入るようだった。

 不思議ではあるが、そのようなものであるらしい。


 そして、俺が斬った事で流れ出た大量の血はアリシアが作り出した水で流され、多少なり臭いは落ちたようだった。



 俺が倒したウルフは全て回収し、戦いの跡の片付けも終わった。


「……………片付け手伝ったので、ユウマさん、少し私の用事に着いてきて貰ってもいいですか?」


 特に問題は無い為、俺は頷いた。



 アリシアは道の先へと歩いていき、俺はその後に続く。

 さっきまでは一人で行きそうな感じだった為、誘われて何故かと思っていたら、俺の片付けを手伝ったせいで魔力が少なくなっているようだった。

 魔力を使った為、魔物に出会った時のことを考えると俺を頼るしか無かったようだった。


「ごめん」


「いいですよ。ちゃんと片付けしておかないと私達が困りましたし…私の方も手伝って貰えるなら大丈夫ですから」


 アリシアは「こっちのはず」と言いながら先へと進んでいく。進みながらも俺は少しずつ嫌な予感がしてきている。

 進んでいる方向は俺が来た方向。


「あれは…」


 アリシアの足が止まる。そこは俺がウルフを倒してしまった場所。

 そこには大きな何かが居た。人のような体型だが、大きく、獣のような見た目だった。

 その獣が俺が倒したと思われるウルフを食べており、バキバキと骨が砕けたと思われる音が聞こえた。


「オーク……………」


 アリシアがオークと呼んだ生物は多分前を向いており、俺達に背中を向けていた。

 俺達の事にまだ気付いていなさそうだったが、アリシアの動きが止まり、カタカタと小さく震えていた。


「無理…あれは無理…逃げないと………」


 アリシアがそう零しながら後退ると俺の足を踏んでしまう。


「………ぁ」


 俺の足に引っかかりながらアリシアが俺の方に倒れてしまい、俺はアリシアを受け止めるが、そのまま後ろへと倒れてしまう。


 パキッ


 後ろにあった枝を俺が身体で潰してしまい、音が出てしまう。



 グォォ?


 オークが振り向くと俺達に気付いたようだった。

 大きく伸びる牙が目立つ顔。口は大きく人なんてすぐに食べられそうであった。食べていたウルフの血でオークの手も歯も赤く染っており、凶暴さが見える。


「逃げないと…」


 アリシアが俺を引っ張るようにして立ち上がり、俺を連れて逃げようとする。

 が、オークが走り、俺達を襲おうとしてくる。


「ユウマさん!?」


 俺はアリシアの手を離し、盾を構える。


「俺は大丈夫だ。アリシア、お前は逃げろ」


 俺はオークに向かっていく。


「ダメです!逃げて!」


 アリシアの声が聞こえるが俺の足は止まらない。

 オークに近付きながら盾を投げる。



 グォォォ!?



 盾はオークの顔に当たり、オークの歩みが遅くなる。

 俺は剣を構え、下から振り上げる。剣が白く輝きながら左下から右上へと白い起動を描きながらオークを斬り上げた。



 ガァァァァァァァ!!?



 オークの身体が血が吹き出て身体がズレるように、身体が二つに斬られ、ズズーンと音を立てながら地面に落ちた。


「オークを倒した…!?」


 俺の後ろではアリシアがびっくりしながら、アリシアが近づいて来た。


「そうみたいだな」


 オークから少し距離を取りながらもアリシアはオークを眺めていた。


「本当にユウマさんが住んでいたところにはウルフが居なかったのです?このオークを倒せる人なんて私の村には居ないんですけど…」


「そうだな。ウルフもオークも居なかったな…」


 剣も握ったことないし。

 と思いながらも心の中に留めておく。


「本当に………勇者様なのかも」


 ボソリとアリシアの声が聞こえた。勇者と言われたらあの神様モドキもそう言ってたし、勇者と言われても間違いではないかもしれない。


「アリシア、急がなくてよかったのか?」


 そう言うと、ああ!と言いながらアリシアが走る。


「ってやっぱり…倒れてる」


 アリシアは倒れた木を見て絶望したような声を出す。

 そう、俺が最初に斬ってしまった大きな木を見て声を上げたのだった。




「あの木は…なんの木だったんだ?」


 俺は俺が斬ってしまった木を見ながらアリシアに訪ねた。


「えっとですね…あれはサイネの木と言って実が薬の原料になるんですよね…。今生ってる実は使えそうですけど…これがないと………お母さんが………」


 アリシアは説明しながらも木に近づき、瞳に涙を浮かべる。

 倒れてしまった木から実を摘み俺に見せてきた。実はリンゴのように赤く大きい。取った実をアリシアはアイテム袋の中に入れた。

 俺もそれを手伝いながらアリシアに頭を下げる。


「ごめんなさい」


 俺が剣を使おうとしなければこういう事にはならなかった。


「………なんで謝るんですか」


 涙を浮かべた瞳でアリシアは俺を見る。その瞳は俺の言葉の意味を察したかのように少し揺れ、瞳は別の方向へと向いた。


「俺が斬ってしまった………わざとじゃ…ない」


 木に向かって剣を振ったのは事実だが、斬れるとは思っていなかった。大切なものだとも思ってなかった。


「……………うん」


 アリシアは何か言いたそうな表情をしながらも言葉を留めていた。


「その、サイネの木は他には……」


「他の木はここには無いの。この木は特殊でね、周りの栄養を多く取りながら成長する木なの。この辺りにはこの木しか生えてなかったの」


「………薬はその実以外では作れないのか」


「………………今使ってる薬はね、この森で取れる素材で作ってるの。他にも薬はあるけどこの森では取れないものばかりだし、とても高価になっちゃうの」


「わかった。俺が集めてくるよ」


「ユウマさんのせいじゃないんでしょ?」


「いや、俺が斬ってしまったのが悪いんだ。頼む、俺に償わせてくれ」


「薬の素材はこの森の比じゃないくらいに危ないところにあるんだよ?本当に…行くの?死ぬよ?元々、お母さんも薬なんていらないって言ってたし…私のお母さんのために命なんて…かけなく…………ても………」


 ヒクヒクと涙を我慢しながらアリシアが言う。アリシアは俺の事を心配しているのだろう。そして、アリシアのお母さんもアリシアの事を心配しているのだろう。


「大丈夫。俺に任せろ。俺がしたことは俺が責任をとる。心配すんな」


 アリシアの頭を優しく撫でる。昔を思い出す。妹が子供の時は良く撫でていた気がしたが何年も撫でていなかった。

 撫でている中でアリシアのすすり泣いている声が聞こえる。


「アリシア。一人で頑張らなくて大丈夫だ。俺にも手伝わせてくれ。君のお母さんは絶対に助ける」


「…………うん」


 アリシアは涙を拭い、俺を見る。


「ユウマさんはなんで私を助けてくれるの?」


 やっぱり彩香(あやか)に似ている。


「妹に似てるから、かな。と、あとは目の前で泣いてる子をほっておけないから」


「この涙、嘘泣きかもしれませんよ?私が助けて欲しくてしてるだけかもしれませんよ?」


 涙を浮かべながらアリシアは小悪魔のように小さく笑みを浮かべた。


「それでも、アリシアは助けて欲しいんだろ?俺が助けられるなら喜んで手を貸すよ。約束だ」


「………っ!ありがとう…っ」


 大きな涙を浮かべながらアリシアは泣き崩れたのだった。








 ✦︎✦︎✦︎✦︎✦︎✦︎✦︎✦︎✦︎✦︎








『キミは同じ効果の装備を持っている魔王を殺すだけだよ。感情によって、ボクの与えた装備を超えるか知りたいんだ』


 白い世界に一人の男が立っている。

 その男は悠真(ゆうま)と同じような鎧、剣、盾を持っていたが色はどれも漆黒に染まっていた。


「オレの願いが叶うなら、なんでもいい。オレが勇者を殺そう」


『良いね。キミを選んで正解だったよ。キミなら出来る』


 地面が輝き、漆黒の装備の男は地面に飲み込まれていく。


『いってらっしゃい。キミが魔王となって勇者を殺したら願いは叶う。約束は守るものだからね』


 男は消える。異世界へと転移したのだった。





『くふふ。()()ね』


 声の主は何もいなくなった地面へ語りかける。


『ボクの作った装備を本当に感情が越えられるなら見ものだけどね〜。

 あの子達素直すぎでしょ。感情なんて不確定なものが必要なわけないじゃん。

 ボク達が欲しいものは…ただの娯楽。


 永遠に生きているボク達の暇を少し解消できれば良いんだけどね』




 願いを叶えるために勇者と魔王はお互いを殺そうとする。


 それが上位者の娯楽の為だと知らず、二人は命をかけるのだった。

冒頭は以上となります。

次回以降は一週間で一話以上の更新で頑張りたいと思います。

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