1 : 俺の願い
予定よりも遅くなりましたが新作です。
カクヨムにて同時公開となります。
前作同様ダークな部分がありますので、それでも良ければ最後までよろしくお願い致します。
『キミの願いを叶えよう』
もし、あと少しで願いが叶うなら皆はどうする?
願いの為に人を殺さなければならなかったらどうする?
人を殺す?
願いを諦める?
俺の選択は………
✦︎✦︎✦︎✦︎✦︎✦︎✦︎✦︎✦︎✦︎
「雪か………」
極寒の中、小さな雪がパラパラと降っている。積もる訳でもなく、地面に当たるとすぐに溶け、地面を濡らす。
まるで雨が降っているかのような地面を見ながら俺は車に乗った。
今日は世間ではクリスマスイブと言われており、多くのカップルが今日という日を楽しみにしている日だった。
そんな中、俺と父さん、そして俺の親友の斗真は車で急いで病院に向かっている。
受付をし、すぐにエレベーターに乗り、急いで病室へと向かう。
病室のドアを開けると目に隈を作った母親が迎えてくれ、ベッドに横たわる妹にみんなで近付く。
妹は薄く目を開け、皆が来たことが嬉しそうに口の端が小さく動く。
父さんに聞いた通り、もう、時間が無いようだった。
今から1ヶ月前、妹が突然倒れた。その時は、妹は起き上がれていたが徐々に身体が思うように動かなくなり、今では体を動かすことすら困難となっていた。
様々な病院で検査をしても何も分からなかった。
原因は不明。治療方法も不明であった。
謎の病は妹の体力を奪い、身体が動かせなっていく。臓器も何もかもが徐々に動かなくなっていく。他に同じ現象が起こった人も居たらしいが、その結果はダメだったみたいだ。
致死率は100%。それが妹の診断結果だった。
助からない謎の病気。原因も何もかもが不明だった。
今週が山場だと事前に言われていた。
俺は妹の彼氏でもある斗真に連絡し、もしもの時に備えていた。
それでも
「今……まで……………あり……が……とう……」
目の前で消えそうな命に納得は出来ない。
「死ぬな!!まだ…お前は…」
妹が死ぬ。その瞬間を迎えそうになり涙が溢れ出てくる。心構えは出来ていたが、目の前の光景を見て心を乱さない人は居ないだろう。
涙で見えなくなっていた視界を手で拭い、妹の最後の姿を見ようとしたところで不思議なことが起こった。
妹の病室にいたはずだった。そして、両親達と一緒に最後を見届けるつもりだった。その心構えをしていた。
そのはずだったのに、涙を拭った瞬間に景色が切り替わっている。
気付けば周りには誰もおらず、周囲は真っ白の何も無い空間が広がっている。
「なん………」
理解ができない。一瞬で場所が変わることなどあるはずがない。もしかすると妹の死を受け入れられなくて心が拒否しているのかもしれない。
いや、これは夢かもしれない。妹の病気は夢で元気なのかもしれない。
きっとそうだ。今までの出来事は全て夢で妹は元気。
『いや、全て現実であっているし、これから起こることも全て現実だよ』
無かったことにする思考は上空からの言葉によって遮られる。
「ここはどこだよ!早くここから出せ!!」
上空から子供のような声が聞こえるが姿が見えない。
『元気がいいね〜。ボクはキミ達の言葉で言うと神様みたいなものだよ。そして、ここはキミ達の世界とは違う別の世界、ここからはボクの意思以外では出られないからいくら頑張っても無駄だよ』
嘲笑うかのような声が聞こえ、俺は声を荒らげる。
「ふざけるな!!俺をここから出してくれ!妹に…早く彩香に会わせてくれ!死んじゃうんだよ…最後くらい会わせてくれよ!!」
俺の声は空へと向い、真っ白な上空へと吸い込まれていく。声が響くことのない、飲み込むような白い空に少し恐怖を感じた。
『大丈夫だよ。ここは別の時間軸だから、キミの世界の時間は進まない。だから、ここにどれだけ居ても大丈夫』
「そんなはず………」
時間が進まないわけが無い、そんなことは不可能だ。もし、出来るとしたら本当に神様だけだ。
『しょうがないな〜。キミの世界では今こんな感じだね』
目の前の真っ白な壁紙が色彩を持ち、モニターのように壁に病室が見えるへと変わる。そこは彩香病室だった。見える病室は止まっている。俺が見ていた部屋であり、ひとつ以外は全てが一致している。
見えている場所には俺が居ない。俺がいたはずの場所は元々何もなかったかのような空間になっていた。
『今のはキミが元居た時間軸だよ。信じるか信じないかは別だけどね』
「……………」
この声の言う通り本当に時間が止まっているかなんて俺には分からない。
「だったら…!」
『ボクのお願いを聞いてくれたら何でも願いを叶えるよ?例えばキミの妹の病とかね』
「ッ!?」
神様というものが存在するとも思えないが、もし本当に時間が止まっており、更に願いが叶えられるなら…
「妹の病を直して欲しい」
もし本当に叶えられるなら、俺は神にでも悪魔にでも願うだろう。
『おっけ〜。じゃあ1つボクに協力して欲しいんだけど、キミに魔王を殺して欲しいな』
「………………………………はい???」
魔王?魔王ってなんだ?ゲームのような存在か?こいつは何を言っているんだ?
『何を言っているんだって顔をしているね?良いよ良いよ、ちゃんと教えてあげるよ』
何故って思う気持ちが顔に出ていたようだった。でも、俺以外でもそう思うだろう。
『ボクはね、キミ達の言葉で言うと研究者なんだよ』
なるほど?更に分からなくなった。研究者ってどういうことだ?神様ではない?
『キミ達のような下等生物で実験をしている研究者って事だね。キミ達も微生物で実験してるでしょ?そんな感じだよ』
ああ、なるほど。そういう事か。俺達よりも上位の存在って事ね。
『そうだね。キミでは想像のできない技術を持っているし、キミとは比べ物にならないくらいの知能を持ってるよ』
「思考が…読める?」
俺は口に何も出していない。表情にも少しは出ていたかもしれないが、ピンポイントで俺の思った内容を読む事は難しいだろう。
『うん。読めるよ………………って言いたい所なんだけどね、キミレベルの思考回路は化石みたいなものだから正確には読めないんだよね。
その代わり計算してキミの回答を予測してるんだ。
だからね、細かい考えは分からないけど君が何をしたいのか、何を求めているかは簡単に分かる』
だから俺の願いがわかったみたいだった。
『キミの願いは分かりやすかった。だからこそキミは選ばれた』
「光栄だね」
運が悪いとも言えなくもないが、選ばれなければ妹の病が治る手立ては無い。
だからこそ、俺の回答は…
「魔王を殺すから妹の病を治して欲しい」
『おっけ〜。魔王を殺してくれるならキミの願いを叶えよう』
ひとつしかない。
「わからないんだけど、なんで魔王を殺させたいの?」
この神様みたいなやつ………こんなのを神様とは思いたくないから神様モドキとしよう。
この神様モドキの言葉が正しいとすれば、俺で実験をしたいということ。魔王を殺すにも何かあるだろう。
『ボク達は無駄なものを全て捨てたんだよね。キミが持っている感情とかね。
感情は厄介でね、絶対にやってはいけない行動を誘発したり間違った行動を誘発してしまうんだ』
声は続ける。感情によって一瞬の戸惑いや効率の悪い判断、進むべき道を間違える等の様々なマイナスしか無いと。少しでも間違えれば滅びる可能性があるためにマイナス要素は除外されたと。
『でも、ボクはその感情こそが、ボクらの進化に必要なものだと思ってる。どの感情が必要なのか、そして、感情と言う力がどのくらいの力を発するのか。ボクはそれを研究している』
感情とは確かに厄介だ。俺もこの話を聞いてかなり胡散臭く感じている。なんでこんなことに付き合わなければならないのか。これも感情である。
言いたい事はわかったのだが、わざわざ魔王を殺す理由が無い。感情だけなら他にも出来そうな気がする。
『理解したようだね?理解できたキミには勇者として、この装備をプレゼントするね』
そのように声が聞こえると俺の身体に光がまとわりつき、白銀の鎧が身体に、右手には白銀の剣、左手には白銀の盾が装備された。目の前の壁が俺の姿を移しており、全身白銀に包まれており肌は全く見えなかった。
『その装備をつけていればキミは無敵だよ。攻撃は無効化され、死ぬことは無い』
その声とともに巨大な炎が現れる。
「な………」
炎が身体に当たるがバチンと大きな音がして、炎がかき消える。
『こんな感じでね』
確かにこれが本物であればどんな攻撃でも防ぐことができる。魔王を倒すことも現実的かもしれない。
だけど、それだと…
『ボクが感情と言った意味がわからないよね?』
ナチュラルに心が読まれている。全く楽しくも希望も感じない。ただただ不愉快の気分だ。
『キミは同じ効果の装備を持っている魔王を殺すだけだよ。感情によって、ボクの与えた装備を超えるか知りたいんだ』
俺と同じ装備。こいつの言葉が正しければ攻撃の無効化される装備を魔王も持っている。つまりはこの装備を超えるには感情が必要なものであると証明したいってことみたいだ。
『なにか質問はあるかな?』
質問したいことは何個かあるが、まずひとつはこれだろう。
「魔王を殺したら俺は帰れるのか?」
『帰れるよ。それがキミとの約束。約束は守るものだからね』
「嘘では無いことを期待しとこう」
妹の病気が治るなら最悪俺は戻れなくても良い。そう思っておこう。
「魔王はどんなやつなんだ?分からなければ探すことすら出来ないが」
『キミが行く世界には魔王城がある。見た目はこんな感じだね』
中世ヨーロッパと思われる城が目の前の画面に浮かぶ。城壁は黒く、何か禍々しいオーラのようなものまで見えていた。
『魔王は基本魔王城にしか居ない。魔王には魔王城でしか装備が有効にならない制約がある。だって魔王が突然現れてすぐに終了なんて面白くないだろう?』
基本は魔王城に居るということか。それなら、この魔王城を探せばいいということだな。
『一応近くに来れば分かるようにしてあるよ。ちなみに見た目はキミとは対照的な黒い姿だね』
画面に魔王の姿も現れる。俺の今の姿とは対象的な漆黒の鎧、漆黒の剣、漆黒の盾となっていた。
「俺の武器はこの剣か?」
『そうだね、この剣は今から行く世界の中で伝説と呼ばれている剣だよ。それをボクがアレンジして使いやすく変えた剣だね。簡単に言えばその世界の中では最強の剣だね』
最強の盾と最強の剣。よく話にある矛盾ってやつか。
『あ、盾はボクが作り出したものだから盾は全ての攻撃を無力化出来る。だけど、剣はただ強いだけだからボクの作り出した装備には勝てないよ。それは魔王が持っている装備にも当てはまるね』
剣を眺めてみる。重さは軽く、光を反射してキラキラと薄く輝いている。
『さあ、そろそろ時間だね』
「時間?なんの事……」
突然地面が輝き、光が自分を包む。
「待て!まだ聞きたいことはある!!」
光が俺を掴み、地面へと引きずり込んでくる。
『あ、言い忘れていたけど、死んだらそこでおしまいだからね。キミの現実の魂も消えてなくなる。つまりは現実のキミも消える』
「は?」
『それと、魔王を君以外が殺した場合もキミは消えることになってるから。急いで倒さないといけないかもね』
「ま………」
そうして俺は異世界へと飛ばされたのだった。




