『兄妹』拾弐話
拾弐話 新しき王
ドーンと大きな音がして高槻兄妹は目を覚ます
「何だよ…一体……」
「眠い……」
今日は投票日。そして今のは魔法で打ち上げられた花火である
「タカツキ様、今日の投票には参加してください」
扉が開かれ、入ってきたロウが二人に言う
「何で?」
「投票権は私達にはないよね?」
「はい。ですが、もしかしたらこの先で投票する事になるかもしれない。と姫様が」
姫様、つまりレイラが言ったらしいので、逆らうわけにもいかないので
「仕方ねぇ。行くか」
「私まだ眠い」
命が湊の近くまで行き、背中を叩く
ビクンッと湊の体が大きく反応した
「着替えろ」
「ふぁ~い」
ロウには部屋を出ていってもらい、着替え終わって部屋の外で待っているロウに謁見の間へと連れて行って貰う
「おはようございます、ミコト様、ミナト様」
謁見の間に入るとレイラが挨拶をしたので、二人もおはよう、と言って姿勢を正す
いくらレイラと親しい仲にあるにしても、今のレイラは姫としてこの場にいるので、それなりの態度をとる
「お二人には投票権がございませんが、この世界の知識に役立てて下さい」
二人は返事をして、外の様子を見に行こうとした
「待ってください。二人にはもう一つ用事があります」
レイラが大臣(ガイルではない)にアレを持ってくるように言った
大臣は駆け足で出て、急いで戻ってきた
「武器が完成しました。受け取ってください」
命の前には銀色に輝く『ブーメラン』。一つ一つが丁寧に磨かれたような光沢を放つ『特殊鎖』
湊の前には赤く塗られた『弓』と二十本ある『矢』。一見普通の鎌に見えるが、湊が頼んで細工をして貰った『仕込み鎌』
「ちょっと、試させて貰うぞ」
「あ、私も」
武器を手に取り、外に行く。レイラ達も後ろからついて行く
感想を言うと驚きだった
命は以前のプラスチック製のと重さがあまり変わらず、そしてピッタリと自分の手に合うので十分満足のいく物だった
日本から持ってきたプラスチック製のブーメランは鞄の中に大事にとってある。新しいのが手には入ったからといって捨てるようなことは絶対にしない
特殊鎖に関しては魔力の扱い方を知らないので試すことができなかった
そういえば使い方を知らないな、と思った後、何でこれ選んだのだろう、と今更ながらに思う
湊の弓矢は上々で真っ直ぐで射たり、弓を横向きに構えて射たり、上空に向かって射たりと試した結果、満足したのか湊は喜んで頷いていた
仕込み鎌の方は試すことと言えば切れ味だけで、他を試そうとはしなかったが、切れ味は木の切断面を見るだけで分かった
命と湊は有り難く受け取り城の中に戻っていった
日本時間にして13:00
投票の時間がきたので城下の人たちは皆、城に集まってきている
湊と命は部屋の中からその様子を見ていた
だが、実際に見ているのは湊だけで命はベッドに寝転がり興味なさそうにしていた
「お兄ちゃん、見なくて良いの?」
「興味ないからな。誰が選ばれたかだけ知れればいい」
「最有力候補は騎士のキルトさんと、大臣のガイルさんで……」
「もう一人、ユフィと言う女性だ」
騎士の人間が選ばれることはないらしい。らしいというのは選出された候補を聞いたときに噂で聞いたからである
興味はないが誰が出ているのかは把握している
「俺寝るから後はよろしく」
結果がでるのは明日なので今日はそこまで活動できない
命は目を瞑るとあっさりと眠りについた
次の日
投票結果が発表される日であり、命と湊の二人は広場へと歩いていたが
「湊!」
「ひゃっ!」
命は湊を抱えて伏せる
二人の頭上を光る刃物が通り過ぎた
前から思っていたが、この世界に来てから身体能力、五感、反射神経やらが色々と上がっている気がする
今はそんなことを気にせずに凶器を投げてきた人物を睨む
「チッ!」
「舌打ちするな!」
「舌鼓だ!因みにチーズを食べている」
「あんたが何食おうがどうでも良いわ!」
刃物を投げた人物は以前のチーズ好きの女性だった
「イライラするな。食うか?」
「いただくよ」
「貰うんだ……」
女性が差し出したチーズをもらい食べる
湊はそこまで好きではないので、見ているだけである
「で、あんたの名前は?」
「ユフィだ」
その名前を聞いた途端二人は「は?」と言う顔をした
「ユフィだ」
「うん。一回で分かる」
「ユフィさんは、立候補したの?」
「まさか。私は楽に生きたいからな。こういうのは好かん」
と言うことはユフィは自分が選ばれてないことを祈りながら来たのだろう
「なら、一緒に行くか?」
「私はそういう誘いは嫌いだな」
「は?」
「私は強引な男が好みでな」
「知らねぇよ!」
ユフィは命の反応に笑った
「冗談だ。だが強い男は好きだぞ?」
その時湊が命の前に出てくる
「お兄ちゃんはそんな事で惹かれないよ!」
「おっと、失敬。兄を守る女戦士かい?いいねぇ」
睨む湊と涼しい顔のユフィはその容姿から目立つので、広場に行こうとした人は何事かと立ち止まる
命はため息を吐き、二人の背中を押す
「さっさと行くぞ。他の人の迷惑だからな」
命に押され二人は広場に向かわされる
広場の掲示板を見ると当主に『ガイル』と言う名前があった
「おっさんが選ばれたか」
「ま、あの男は適任だろう。少し、厳しすぎるがな」
ユフィは自分が選ばれなかったことに安心しているようで、その口調は広場であったときより穏やかだった
「では大広間に行くか。おそらくレイラ君が王と言うイスを降りるだろう」
ユフィは城に戻るために広場から離れる。命と湊もその後ろをついて行く
城に戻ると既にガイルが王のイスに座っていた
「あ、お帰りなさい。ミコト様、ミナト様」
レイラは二人を見つけ駆け寄ってきた
「もう終わったのか?」
「はい。無事に終わりました」
レイラは後ろの方にユフィが射ることに気づき、顔を強ばらせた
「ユフィ様!?ど、どど、どうしてこんなところへ!?」
「何となくさ。それにしても、また一段と可愛くなったな。妃様に似てきたのではないか?」
「そうですか?ありがとうございます!」
レイラがここまで頭を下げる人のことが気になり、湊が訊く
「二人は知り合いなの?」
「私はレイラ君の前の姫だ。嫌々だったがな」
「ユフィ様は素晴らしい方でした。私に姫としての仕事を色々と教えてくださったんです」
「今では城に居候してるだけだがな」
ユフィは一度城下に行こうとしたが、外に出たときに色んな人に、姫様だ!と言われもみくちゃにされたらしい
それ以来必要なとき以外は城で身を隠していた
「ミコト様が仰られたチーズ好きの女性とはユフィ様のことだったのですね」
「なんだ?レイラはこの二人を様付けしているのか?」
「はい。お二人には多大な迷惑をお掛けしてしまったので……」
ユフィは既に高槻兄妹が異世界の人間であることを把握しているので、レイラがその事を言っているのもわかった
「……では私は準備がありますから。これで」
「ああ、二日後な」
「準備とは何だ?」
レイラの準備が何のことか気になったのかユフィが何の準備が聞いてくる
「旅に出るんだよ。一緒に行くか?」
「遠慮しとくよ。面倒事は嫌いだからな。それに面白くなさそうだからな」
(それは喧嘩を売ってるのか?)
還る手だてを探す旅なのだから面白さを求められても困る、心の中でそう思った命だが、口に出すようなことはしない。絶対に流されるからである
「では私は行きますので」
今度こそレイラは自分の部屋に戻っていった
ユフィも特にすることがなくなったので、部屋で寝る、と言って戻っていった
命と湊も明後日に備えて最後の準備をすることにした
もうすぐ旅立ちの日が訪れる……
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