【幕間】アンドレイ・ペトロフへのインタビュー
―2068年・タイ・プーケット―
やぁ!お待たせして悪かったね!
わざわざ日本のライターが、こんなところまで足を運んでくれるなんて光栄だよ。
…伝記?
クリスの半生を綴りたいって?
ああ、僕の知っていることなら何でも話すよ。
しかしあなたもいいところに目をつけたね。
ハハハ、僕の妻は本当に面白い人だから。
結婚してから随分と経つけど飽きたことなんて一度もないよ…
ん?
あぁ…
そうだね…彼女は結婚してもコズロワの姓のままだったんだ。
ロシアでは珍しくないことだからね。
日本では違うんだっけ?
それはそれで素晴らしいことだと思うよ。
家族って感じがするしね!
当時は貧しくてね、
姓を変えることで色んな手続きが発生して、
お金がかかることが嫌だったんだと思うよ。
結果的には良かったと思う。
お義父さんにもお義母さんにも本当にお世話になったから。
クリスがコズロワの姓のままでいてくれたことが少しは恩返しになった気もするよ。
結果論だけど。
え?
僕にはノボシビルスクでの話を聞きたいって?
あなたも人が悪いな…
…そのパートはかなり恥ずかしい話になりそうだ。
そうだね…
僕達は2002年に出会った。
忘れられない年だからね。
嬉しいことも悲しいことも
いろんなことがあったけど、
あの年のことは忘れられない。
僕は彼女より2つ年上なんだ。
出会った頃、
彼女やミハイルやアリーナはまだ19歳の学生でね、
僕はすでに働きながらアパートで一人暮らしをしていた。
だから当時の僕は少しだけ大人ぶって、
彼らの兄貴分として面倒を見ているような気になっていたんだよ。
……滑稽だろう?
本当の窮地に立たされた時、
一番弱かったのは僕の方だったのに…
18歳で田舎からノボシビルスクに出てきて、
自動車整備士の見習いとして働きはじめてね…
毎日必死だったんだ。
当時の親方は厳しい人だったし、
街の人たちには田舎者だってバカにされたしね…
両親は僕が20歳の時に事故で死んでしまったし…
あの頃は寂しくて仕方なかったね。
それで僕はウォッカに逃げた。
だからと言って僕が彼女にした仕打ちが許されるわけでもないがね…
え?
あぁ…
最初は本当に恋心なんてなかったんだ。
弟分だと思ってたミハイルの女友達が青い顔をして立ってるんだよ?
心配にもなるさ。
でもね…
彼女と改めて食事をした時、
僕は彼女に恋をした。
きっと僕の方が先だね。
彼女の境遇を聞いて、
僕の話をして、
なんだか孤独が薄らいだ気がしたんだ。
だから絶対に彼女を失いたくはなかった。
それで余計に重圧を感じてしまってね…
酒に逃げてばかりいた気がするよ。
クリスからデニスを妊娠したって聞いた時は嬉しかった。
生活はずっと苦しかったけど、
腹を括れた気がしたんだ。
…あの時はまだ気がしただけだったんだけどね…
やっぱりノボシビルスクでの暮らしの大半は、
今思い返しても苦しかったことばかりを先に思い出してしまうね。
今となってはクリスと笑い話にできてるんだよ?
でもそれってクリスがとびきり優しい人だからなんだと思う。
――あの夜。
彼女に『離婚しましょう』って冷たい声で言われた時……
僕は初めて…
自分の愚かさと、
永遠に家族を失うかもしれない恐怖を理解した。
パニックになって流し台で酒瓶を叩き割って、
ガラスの破片で血だらけになりながら誓ったあの夜を――
僕は一生忘れない。
今までも、
多分これからもね。
僕が今こうして彼女の隣で穏やかな老後を迎えられているのは、
あの時彼女が見捨てずにもう一度だけ僕を信じてくれたからだ。
それから……アリーナのことだね。
彼女のことは、どうか悪く書かないであげてほしい。
確かに口は悪いし、威圧的で恐ろしい女だ。
そのうえ、頭もとびきり切れるんだから。
でも彼女は誰よりもクリスの才能を…
――あの素晴らしいセンスと、
泥水をすすってでも立ち上がる根性を最初から見抜いて信じてくれてたんだ。
もちろん後先を考えないムチャクチャな部分も含めてね。
でもそれ以上に彼女も、
クリスが持つ優しさに惹かれていたんじゃないかな?
なんだかんだ言ってアリーナも優しい人間なんだよ。
僕との結婚を反対していたことだって心の底からクリスを心配していたからだと思う。
今の僕でも当時の僕みたいな奴と結婚したいって孫が言ってきたら反対すると思うね。
ぶん殴りに行くかもしれないよ。
彼女が書いてよこした
『利息はあんたの人生で払え』
って言葉は、冷酷な取り立てなんかじゃない。
それは最初から分かっていた。
クリスがいつか必ず自分の足で立ち上がり、
その才能を証明する日が来る。
そう信じていたアリーナなりの、
強烈な信頼とエールだったんだ。
アリーナの無茶な愛情と、
ミハイルの不器用な優しさがなければ、
僕たちはとっくに潰れていたよ。
…ところでさ、
僕の情けない懺悔はもうそろそろおしまいにしてもいいかい?
恥ずかしすぎて酒を飲みたくなってくるよ!
次からはいよいよ、そのアリーナがモスクワから乗り込んできてからの話になるんだよね?
僕の自慢の妻が経営者になって、
トグチンの街全体を巻き込んで世界と戦い始める……
僕の汚名返上になるかもしれない話が出てきてくれると嬉しいね!
最高にエキサイティングな話を聞いてもらおうじゃないか!
…ん?
最後に?
…うん。
とても愛しているよ。
残りわずかな人生だけじゃ足りないね。
天国だろうが来世だろうがずっとそばにいたいよ。
…これを書くのはやめてくれよ!
読んだら絶対にクリスにからかわれるから!
頼んだよ!
第一幕を最後までお読みいただきありがとうございます!
「面白い」
「続きが気になる」
「あの酒浸りがこんな未来まで生きてるなんて…」
そんな風に感じていただけたなら…
いや!感じていただけなかったとしても!
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執筆の凄まじい励みになりますッ!
ブックマークなんてしていただいた日にはもう…
泣かない程度に歓喜します!
さて、ここまで一気に更新してまいりましたが…
次話より舞台はトグチンへと移り、
いよいよビジネス編となる第二幕が開幕します。
それに伴い、より面白い作品として本作をお届けするために、
ストック作成や改稿の検討などを行うためのお時間をいただきたい…と考えております。
第二幕の公開日につきましては、準備が整い次第、活動報告やXにてお知らせいたします!
第二幕からは筆も乗って特に楽しく書き進めており、
ストックもございますので…
そのまま失踪するというようなことは起こりません。
書いたの残して失踪なんてもったいない笑
お待たせしてたいへん申し訳ありませんが、第二幕もお楽しみいただければ幸いです。
今後ともお付き合いのほどよろしくお願いいたします!




