泪
太和殿を出た。外は雪が舞っている。
雲霓が橫に付き添い、蕭玉嬛が後ろからついてくる。
周虎と數人の將士たちも、遠くから私を見守っている。
誰も何も言わない。
皇子府に戻る馬車の中で。
「お姉さま」
「なに?」
「私は……彼を、守れてるの?」
蕭玉嬛はしばらく黙っていた。
それから、靜かに言った。
「守れてるよ」
「でも、今日——」
「今日、確かにそなたの負け。でも——」
蕭玉嬛が私の手を握る。
「負けたからこそ、分かったことがあるはずだ」
「この世界じゃ、『真実』が何より重い。
でも、『真実』だけでは人は動かない」
「『心』がなければ、『真実』もただの文字」
「そなたは今日、『心』を——兵士たちの心を得た。
それは、どんな『真実』よりも強い」
「でも、私は彼を——」
「『私』じゃなく『わらわ』だ——そなたは今燕国·三皇子妃で、·
この第一公主蕭玉嬛の『弟妹』で、
そしてわらわの『妹』よ。わらわもう保証する
——三弟は、そんなこと気にしないよ」
蕭玉嬛が微笑む。
「彼、あの子がそなたに殘した手紙、読んだんだろ?」
頷く、涙は自主的に……
「なら、分かるはず。あの子は、
そなたの『失敗』を望んでいた。
『完璧』を望んでいない」
「……なぜ?」
「なぜなら
——あの子はそなたを愛しているから
——完璧な人間は、人を愛せないからさ!」
ついに、堪えきれなくなった。
涙が決壊する。聲も——
わらわ、いええ——私、鈴木彩夏、
日本の完璧な「芸能界最後の神様」として生きてきたこの私が、
異世界に來てはじめて
——聲をあげて泣いた。
その聲、數百メートル先の皇宮にも屆いているだろう。
太后も、淑妃も、七皇子も。
それから、かつて好きだった子供たちの顏をした七人の奴らも——
もういい。どうでも。
皇子府に戻った時には、もう夜も更けていた。
青児が迎えに出て、私の顔色を見て言葉を失う。
「王、王妃様……大丈夫ですか?」
「平気。下がっていい」
一人、書斎に入った。
窓の外では、雪が靜かに降り続いている。
筆を取る。
何かを書こうとして——止まった。
書けない。
何も書けない。
筆を置き、両手で顔を覆った。
涙が、指の間からこぼれ落ちる。
そのとき、窓の外でかすかな物音が。
暗衛が、逆さまにぶら下がっている。
手には一通の手紙。
「王妃様、主君から」
中には、見慣れた筆跡。
「今日、お前は負けた。はじめての敗北だな」
「いい気分かい?」
「だが、これでやっと
——お前はほんとうの戰いを始められる」
「いままでは、ただの練習」
「これからが本番だ」
「負けたことを恥じるな。負けたことから學べ。そして、次は勝て」
——追伸——
「お前が『彼を守りたかった』と言った。それを聞いて、正直、嬉しかった」
「お前がはじめて、『自分のこと』じゃなく『誰かのこと』で泣いたからだ」
「その淚こそが、本物だ」
涙を拭う。
蕭景瀾、年下のくせに。
……あいつのこと。
私、ちょっと好きになってるのかも。
もう死んでるはずなのに。
なのに、どこかで全部見てるんじゃないかって――
そんな気がしてしまう。




