軍營祭奠
夜が明ける前に、私は起きた、今日は軍營に行く予定の日だから。
三萬の鎮北軍は城外三十里の北山大營に駐屯している。
それは第三皇子が生前に率いた兵、彼が自ら鍛え上げた精鋭だ。
太后が言うには、あの連中は今、軍心が定まらず、副將の周虎は毎日酒に浸って憂さを晴らし、兵士たちは復讐だと騒ぎ立て、中には七皇子に寢返ろうとする者もいるという。
私は行かなければならない。
太后の命だからではない。私が行きたいからだ。
棺桶の中のあの冷笑、書斎のあの四通の手紙、あの「お前が死んだ後、話し相手がいなくなるのが可哀そうで」と言った男、私は彼がどんな人間なのか知りたい。彼を一番よく知る人たちの口から、彼のことを聞きたいのだ。
青児があくびをしながら着替えを手伝ってくれる。手伝いながら、ぶつぶつ言う。
「王妃様、本当に軍營に行かれるのですか?軍營なんて、女が入ったら不吉だって……」
私は彼女を睨んだ。
「私が不吉だと思う?」
青児は一瞬間を置いて、それから首を振った。
「棺桶から這い出た女が、何を不吉がるっていうんですか」
私は彼女の頭を軽く叩いた。ようやく少しは賢くなったか。
「でも……軍營は女を入れないって聞きますけど……」
「だから、なんとかするんだよ……」
青児は下を向いて私の服を見た、真っ白な麻布の喪服、裝飾は一切なく、袖口と裾はわざと古びさせてあって、長い間著込んだように見える。
「王妃様、この服……すごく古そうです」
「新しく作ったんだけど、古く見えるようにしたの」
青児はぱちぱちと瞬きした。意味がわかってないみたいだけど、説明するのも面倒くさい。
これは私が前世で學んだ経験だ、PRで一番大事なのはディテール。観客にあなたが本当に悲しんでいると信じさせたければ、真新しい喪服を著てはいけない。本当に喪に服している人は、服を繰り返し著る。そこにはしわがあり、擦り切れがあり、洗っても落ちない染みがあるものだ。
私は初日から準備していた。服を茶葉水に半日漬け込み、石で何十回も叩いた。今ではこの喪服は三ヶ月著込んだように見える。完璧だ。
「行こう」
わざと雲霓には言わなかった。
この件は、事が成功した後で太后に知られて初めて効果を発揮するからだ。
だから青児だけを連れて門を出た。入り口には馬車が停まっていて、陳執事がそばに立ち、顔色が少しおかしい。
「王妃様、本当に行かれるのですか?」
「ええ」
「しかし……」彼は少しためらった。「淑妃様のところの人たちが、おそらく通してはくださらないでしょう」
彼は私に警告している。
つまり彼は淑妃の人間ではないってことだ。
太后の?それとも別の?
「わかりました。ご忠告ありがとう」
執事は一瞬間を置いた。まさか私が禮を言うとは思わなかったんだろう。
馬車が動き出し、城門の方へ向かう。
青児が車中で小さな聲で。「王妃様、陳執事はいい人のようですね……さっきご忠告くださいましたし、いい人なんじゃないですか?」
「青児、この世に絶対的な善人も悪人もいないの。いるのは立場の違う人だけ。陳執事が私に忠告したのは、もしかしたら彼が太后の人間で、私が淑妃にいじめられるのを見たくないからかも。それか、別の目的があって、私に借りを作らせたいからかも。それか、単純に私が可哀想だと思って、つい助けたくなっただけかも」
青児は私の話にクラクラしたようだ。
「で、では、彼はどの人なんですか?」
「さあね、だからよく見て、よく聞いて、よく考えなきゃ」
青児は頷き、「覚えました」という表情。
彼女の丸い顔を見て、つい抓みたくなった。
この子、前世なら間違いなく、人に騙されて笑顔で感謝するタイプだ。
しっかり見ておかないと。
萬が一の時に、逆に私の足を引っ張るかも。
馬車は城門を出て、城北大營の方へ向かった。
一炷香ほど走った頃、突然止まった。
外から聲が聞こえる。
「止まれ!前方は軍營の重地、無闇に近づくべからず!」
御者の聲。「こちらは第三皇子妃の馬車、軍營にて殿下を祭らんとするものなり!」
「第三皇子妃?」その聲が笑った。「どこから來た第三皇子妃だ?殿下はそもそも結婚なんてしていない!あの冥婚はただの笑い話だ!引き返せ!」
私は車の簾をめくり、端然と馬車を降り。
目の前には十數人の兵士が立ち、先頭は三十過ぎの男だ。顔中に肉がつき、目つきが穏やかでない。
「お前は誰の者?真実を言え」
彼は一瞬間を置いた。まさかこんなにストレートに來るとは思わなかったんだろう。
「わ、私は淑妃様の者だ!命を受けて此処を守る、何人も軍營に近づけてはならぬ!」
「淑妃様?淑妃様は天も地もお治めになるのか?鎮北軍の軍營までお治めになるのか?」
顔色が険しくなった。
「鎮北軍は第三皇子、我が夫——蕭景瀾の舊臣。淑妃の私兵ではない。お前、淑妃の一兵卒が、ここに立って第三皇子妃を阻むとは、反亂を起こそうというのか?」
「私が……」
「淑妃のために軍權を奪おうとしているのか?それとも淑妃のために何かを隠そうとしているのか?」
「でたらめを言うな!」
「ならば通せ。私は行く」
「ならぬ!女子、軍營に入るべからず!」
私は全身素の長裙を著て、髪は一本の白い簪でまとめ、顔には薄い化粧だけ。陽の光を浴びて、きっととても頼りなく、か弱く見えるだろう、これは心理學を組み込んだ現代的なイメージデザインだ。
そしてゆっくりと上著を脫ぎ始めた。
上著の下には、あの喪服がある。
ここは官道だ。通る人は多い。その場にいる全員が固まっている。
私は振り返り、次第に集まってくる庶民たちに向かって、聲を張り上げた。
「わらわ——この大燕国、堂堂たる第三皇子妃。今日、亡き夫を祭るのに、何の罪があるというの?わらわは喪服をまとい、未亡人の身でありながら、ただ一目でいいから、我が夫が生前に過ごした場所を見たい、彼と生死を共にした將士たちに頭を下げたいと思っているだけ。そなたたちが私を阻むのは、何かわらわに言わせまいとしているのか?」
人々がざわつき始めた。
「そうだ!そうだ!嫁が墓參りに行くのを、なぜ止めるんだ?」
「淑妃の人たち、やりすぎじゃないか?」
「殿下が死んだばかりで、その嫁を苛めるなんて、何様のつもりだ!」
あの道を塞いだ男の顔色はますます険しくなっていく。
「今そなたが道を空ければ、何もなかったことにしてあげる。でももしこれ以上塞ぎ続けるなら、明日には京城中が知ることになるわ、淑妃の手先であるそなたが、第三皇子妃の亡夫への墓參りを妨害したって——皇族への不敬の罪。どんな結果になるか、よく考えたほうがいいわよ!」
彼の顔が引きつ。
それから彼は歯を食いしばり、橫を向いて道を空けた。
私は上著を羽織り直し、馬車に戻る。
「行きましょう」
馬車が再び動き出す。
青児が車內で、目を少女漫畫のよう。
「王、王妃様、さっき、すごかったです……話すときは太后様のようです!!」
私は車壁にもたれて、目を閉じた。
これはまだ前菜にすぎない。本当の戦いは、この先にある。
城北大營。
三萬の鎮北軍が駐屯する地。遠くから見ると、小さな城塞のようだ。木柵が高い壁を囲み、四隅には物見櫓が聳え、入り口には二人の兵士が立ち、長槍を手に、びくりとも動かない。
私は營門の前に立ち、中の景色を見て、しばらく言葉も出なかった。
あちこちが白い。
白い天幕、白い旗幟、白い布切れがすべての營帳の前に下げられている。兵士たちは白い喪服をまとい、頭には白い布を巻き、軍馬の鞍にまで白い花が結びつけられている。
軍、白絹の喪に服す。
見せかけじゃない。本当の白絹だ。
あの白い布の中には、古びたものもあれば、まだ新しいものもある。三ヶ月前から、彼らはずっと喪に服し続けているのだ。
三ヶ月。
主將なし、給與なし、戦いもなし。ただ喪服を著て、じっと待っている。
これはいったいどんな部隊なんだ?
入り口の兵士が私をじっと見つめ、目つきは警戒心に満ちている。
「そなた、周副將に取り次いでください。第三皇子妃がお目通りを願っていると」
一人の兵士が振り返って走り込んだ。
しばらくして、營門が開かれた。
深く息を吸い込んで中に入る。そして私は、この人生で最も衝撃的な光景の一つを目の当たりにした、
練兵場に、ぎっしりと人が埋め盡くされている。
全員が兵士だ。
全員が白い喪服をまとい、すべての者の視線が私に注がれている。
これらの者の目には、好奇心、品定め、疑惑、敵意がある。
最も多いのは、敵意だ。
整整三萬人が、陽の光の下に立ち、一歩も動かず、聲もない。
風が吹き抜け、白い衣の裾がひらひらと舞い、白い海のようだ。
私は練兵場の中央まで歩き、止まった。
前に一団の人が立っている。先頭は四十前後の男だ。國字顎、太い眉、目は真っ赤に充血し、無精ひげを生やし、ずっとよく眠れていないように見える。
副將・周虎。
第三皇子の右腕として、長年彼に従って戦ってきた部下。
彼は私を睨みつけ、目は刃のようだ。
「何しに來た?」
私は禮をした。
「周將軍、殿下を祭りに參りました」
「祭る?お前は丞相府の庶子、正妻に身代わりに差し出された、棺桶から這い出てきた女だ!お前は殿下に會ったことがあるのか?お前は彼と一言でも言葉を交わしたことがあるのか?祭る資格があるのか?」
彼は一歩前に踏み出し、聲はますます大きくなる。
「三ヶ月も給與が出ていない!殿下は自分の俸祿をすべて差し出し、兄弟たちに分け與えた!その時お前はどこにいた!?」
また一歩。
「北戎が奇襲してきた、八萬の敵を相手に三萬で立ち向かい、殿下自ら突撃した、一騎当千だった!殿下は體に十一もの矢を受けながら、なお敵の主將を討ち取った!その時お前はどこにいた!?」
また一歩。
「冬になって綿入れが足りなければ、自分が著ていたものを負傷兵に與えた!食料が足りなければ、殿下は皆と一緒に乾パンをかじった!殿下は決して自分を皇子だと思ったことはない、彼が兵たちを兄弟として扱ってくれた時、お前はどこにいた!?」
彼は私の目の前に立ち、うつむいて私を睨みつけ、目は真っ赤だ。
「お前が祭るだと……お前にその資格があるのか?」
周囲はしんと靜まり返った。
今や皆に知れ渡った、私がこの國の不吉な存在。
私は彼の目を見て、そらさない。
「周將軍のおっしゃる通りです。私は——
殿下にお目にかかったことも、一言言葉を交わしたことも、彼がどんな顏をしているのかさえ知りません」
「では、なぜ來た?」
「殿下、彼の代わりに、一つのことをするためです」
「何だと?」
私は答えず、袖から紙の束を取り出し。
周虎がそれを見て、眉をひそめる。
「それは?」
「殿下が、皆さんに宛てた手紙」
嘘だ。昨夜、一晩かけて書き殴った。
筆跡は太后から借りた奏摺を頼りに練習した。指がつった。
見破られれば、即、撲殺される。
時間が限られていたので、私は同じ數にした。合わせて137通、重ねれば十分にインパクトがある。どの手紙も長くなく、家庭の些事ばかりだ。
どの手紙の書き出しも「某へ」で、差出人は「蕭景瀾」だ。
周虎がそれらの手紙を見て、何かを悟ったようだ。顔色が少し和らいだ。
彼らは私の夫の旧臣であり、原則として私の臣下でもあったが、ここにきて私は語気を和らげるようになった。
「殿下が皆さんに書いた手紙。彼が出征する前に書いて、私に皆さんに屆けるよう託したものです」
「でたらめを!」周虎が一通の手紙をひったくった。「殿下はこんなもの絶対に書かない!彼は……」
彼はうつむいて手紙を見ると、突然言葉が詰まった。
手紙にはこう書いてある。
「周虎兄弟、お前のあの駄目な胃、まともに食わないからまた痛めたんだろう?お前が毎日乾パンをかじってるのを知らぬと思ったか。醫官に薬を処方してもらえ、無理するな!」
周虎の手が震えている。
彼は顔を上げて私を見、目がさらに赤くなった。
「これは……」
「殿下が書いたもの。彼は皆さんに知られたくなかった。私は言わなかったけど、あなたが一番文句を言いそうだから、一番最初のをあなたに用意しておいたのよ」
周虎は口を開きかけたが、何も言えなかった。
「彼は百通以上書いたのよ。將士たちに宛てたものもあれば、家族に宛てたものもある。彼は言っていたわ、自分と生死を共にした兄弟たちのことは、一人ひとり覚えていると」
私は彼の手から手紙を取り戻し、練兵場の中央にある火鉢の前に歩いた。
火鉢は元々あったものだ。元々は紙錢を焼くためのものだ。
火の光が皆の顔を照らしている。
私はその手紙を見て、できるだけ大きな聲で読み上げた。
「王二狗!」
「は、はい!」
返事は、人垣の奥から。三十前後の、傷跡のある男だった。
私は手紙を読み上げる。
「お前の母さんの腳は悪いんだろ。冬になったら濕布薬を買え。金を人に貸すのはいいが、それより自分の母さんを大事にしろ」
「こ、これは本当に殿下が?彼はまだ覚えててくれたのか!?」
「二通目」私は彼を無視して、手紙を火鉢に投げ入れ、次の手紙に移った。
「李三娃!」
「はい!」
「いつまでも軍營でぶらぶらしてないで、もっと家に帰って家族と過ごせ。お前の家族が言ってたぞ、前回は一日しかいなくて、嫁さんが怒って茶碗を三個も割ったって、お前は前に私に愚痴ったな、覚えてる。今回代わりに言ってやったから、これからは自分で気をつけろ」
李三娃の目が赤くなった。
「三通目。趙鉄柱!」
「はい!」
「お前の妹はもう嫁ぐ頃だろう、選り好みしすぎるな。讀書人はお前の家なんて見向きもしない。調べておいた、西街の店主に甥がいる、人がまじめで、家もまあまあだ。もしお前がよければ、誰かに仲介させてやれ」
趙鉄柱の口が震え始めた。
「四通目。孫大牛!」
「は、はい、」
「お前は息子にお前の跡を継がせて、同じように兵隊にしたいと言ったな。私はそうするなと言っておく、兵隊は辛すぎる、あいつには學問させろ。どうしても無理なら、私の屋敷に來て會計をやれ、教えてやる」
孫大牛はその場にしゃがみ込み、頭を抱えて、肩が上下に震えている。
一通、また一通。
名前を呼ぶたび、誰かがうつむく。
読み上げるたび、誰かの肩が震える。
炎が跳ねる。
灰が舞う。
誰も、泣いていることすら気づいていない。
あの鉄でできたような男たち、あの戦場で人を殺すことに何のためらいもない兵士たちが、今はその場にしゃがみ込み、頭を抱え、顏を覆い、子供のように泣いている。
周虎は傍らに立ち、目を真っ赤にし、必死にこらえている。
私は彼を一目見た。彼のためには、二通用意してある。
「二十五通目、周虎!」
彼の全身が震えた。
「周虎、お前は私のところに來て三年、一人の兵士から副將にまでなった。お前はいつも私が引き上げたと言うが、實はお前自身の努力の賜物だ。お前の家族が亡くなった年、お前はまだ戦場にいて、最後の顏を見ることができなかった。このことはお前は一度も言わなかったが、私は知っている。これからは毎年清明節に、私の代わりに彼女に紙錢を燒け。こう言え、彼女の息子は決して恥をかかなかった、彼女は英雄の母だと」
書斎には將士の名簿があるから、人を間違えることはない。
でも全員の話は私が作り上げたものだ。
例えば、親が腰が痛い、腳が痛い、金が足りない、兵隊になる、これらは全部、あいまいで、確実に起こりうることだ。
主語を書かなければ、確実に当たる。
しかし周虎の件は、一通の私信から推測した結果だ。
周虎の涙が、ついにこぼれ落ちた。
彼はばったりとその場にひざまずいた。
「ああゃ!殿下!!」
彼がひざまずくと、後ろの三萬人が全員ひざまずいた。
真っ黒な人垣が、練兵場にひれ伏し、泣き聲が天を震わせる。
私は真ん中に立って、まだ殘りの手紙を手にしていた。
風が吹き、紙の灰が私の全身に降りかかる。
急に泣きたくなった。
私はその場に立っていた。
風が紙の灰を舞わせる。
彼らは三ヶ月、ただ待っていた。
主將もなく、給與もなく、戦もないまま。
何を――?
答えを。
あの人が、無駄死にじゃなかったという、答えを。
周虎が地面にひれ伏し、両手をついて、肩を震わせている。
私は歩み寄り、彼を起こそうとした。
「周將軍、お願いです、顔を上げてください。殿下はそなたたちにこんな姿を見せてほしくないはずよ」
周虎が顔を上げる。その顏は涙でぐしょぐしょだ。
「王妃殿!先の無礼、万死に値す。御手ずからの御鞭撻、願わくば賜わりたまえ!」
私は首を振った。
「そんなことないわ。そなたは正しい。私は確かにふさわしくない。でも私は來た。殿下の代わりに來たの」
周虎は私を見て、唇が微かに動いたが、言葉にならなかった。
その時、人垣の中から突然聲が上がった。
「おかしい!」
皆の目が一斉に向く。
若い兵士が一人立ち上がっている。その顏は涙で濡れているが、目は完全な疑惑に満ちている。
「殿下がこんなものを書くはずがない!あの方は三年間私たちと一緒だったけど、こんな話を一度だってしたことがない!」
私の心臓が一瞬止まった。
バレた?
周囲は水を打ったように靜まり返る。
その兵士は続ける。「殿下は、ものすごく口數が少ないんだ。戦が終わるたびに天幕に籠もって本を読んでて、私たちと雑談なんて絶対しなかった。そんな方が、どうしてこんな他人の家庭のゴタゴタなんて書けるんだ?」
周虎も固まって、私を見る。
三萬の目が、すべて私に注がれる。
來た!一番起きてほしくなかったことが!
私は深く息を吸い込み、立ち上がった。
「彼は言えなかったからよ!」私は一歩前に踏み出した。「皆に弱いところを見せるのが怖かったんだ!」
「言えなかった?」
「殿下は直接、皆の前で言えなかったのよ!」私は彼の目を見て、大きく叫んだ。「皆に、彼が軟派だって思われるのが怖かったんだ!男らしくないって!そんな弱音を吐いたら、皆が彼を將軍として見なくなるって思ったんだ!」
私は一歩前に踏み出し、さらに聲を張り上げた。
「殿下は言ってた!兵たちは彼と共に生死を共にしている!彼に唯一できることは、皆の家族を自分の家族のように思うことだって!彼は皆のことを一人ひとり覚えている!でも言えなかった!言ったら、皆に笑われると思ったんだ!言ったら、皆に弱いと思われると思ったんだ!言ったら、彼はもう大燕國の『無敵の戦神』じゃなくなると思ったんだ!」
「だから彼は書いたの!三ヶ月かけて、百通以上も書いたのよ!彼は言ってた、戦が終わったらどこかで機會を見つけて、一通一通、皆に渡すんだって!皆の將軍は、死ぬまで皆のことを覚えているって知らせるために!」
その兵士の涙がまたこぼれ落ちた。彼はひざまずき、深く頭を下げた。
「お、お許しください……!」
私は歩み寄り、彼を起こした。
「許すことなんて、何もない」
ただ、そう言った。
練兵場に、再び泣き聲が響く。
けれど今度は――
違った。
誇り。
そう呼べる何かが、混ざっていた。
周虎が立ち上がり、私の前に來た。
彼は私を見て、突然片膝をつき、拳を抱えた。
「副將・周虎!鎮北軍全體將士を率い、王妃に感謝申し上げる!王妃のために、命を捧げる覚悟でございます!」
三萬の兵士が、一斉にひざまずいた。
「王妃に感謝申し上げる!王妃のために、命を捧げます!」
私はこの人たちを見て。
前世、私はトップの男性アイドルグループを擔当し、數萬人のコンサート會場を経験したことがある。あのファンたちの絶叫は耳をつんざくようだったが、私の心を打つことは一度もなかった。
あれは偽物だと知っていたから。
あの叫び聲も、あの熱狂も、あの涙も、すべて人為的に作り出せるものだ。
でも今、この人たちは……
彼らの涙は本物だ、悲しみは本物、感謝も。
私は深く息を吸い込み、言った。「立ちなさい!私はそなたたちにひざまずかせるために來たんじゃない!彼の代わりに、あなたたちに會いに來たのよ!ついでに言うとね、」
「彼が伝えてほしいって言ってたわ、ちゃんと生きろって。いつまでもめそめそしてるな、見苦しいって!」
周虎はぽかんとし、それから口を大きく開けて笑った。
その笑顏はとても見苦しく、顏中の涙と笑いが混ざって、泣いているようだ。
でも彼は笑った。
これが三ヶ月ぶりの、彼の初めての笑顏だ。




