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カノウコウチク~吉野翔太の怪事件ファイル~  作者: 広田香保里
怪8 呪恨館の宿命
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そして静かに忍び寄る

 由佳ちゃんの表情には怒りがありありと見て取れた。

多分だけれど、翔太君を遊びの材料にしているから。

勿論それもある。

自分が慕う男性をこれだけコケにされて平然としているなら、それは好きでも何でもない。

けれど、それ以上に私が腹を立てている事は。


 0の世界?

犯罪が0の世界?


ふざけるのも大概にして欲しかった。

犯罪を犯して、その先にあるのが。

犯罪が0の世界?

『maple_blossom : 犯罪者にそんな世界は造れないし、創らせないわ』

『MK : だから君が止めるのだろう?』

 ……多分だけれど、私達が止める事を計算に入れた上で久遠は何かをしようとしている。

『0の世界』なんてふざけた世界を。

『maple_blossom : そんな下らない事を話す為だけに、チャットを申し込んできたのかしら?』

『MK : ああ。目的は達成した』

 目的?

……迂闊だった。

『MK : 吉野翔太はまた、犯罪を防げずに苦しむ事になるだろう。犯罪を防がれるのは困るのでね』

 こちらの気持ちまで全て計算した上でチャットを申し込んで来たと言う事は、私が行く事で不都合な事は呪恨館の情報と言う訳ね。



「ここに伝わる、天罰の呪いについてお話しましょう」

 美津子さんが食後にそう切り出した。

全員集まっていた方が安全なのか。

それとも1人1人で自衛した方が良いのか。

ふと頭を過ぎった。

欠伸が漏れる。

普段ならもう寝る準備をしている時間帯。

10時を回っている。

「1の呪い。雪歩む者、呪恨を纏い、御光に現る」

 呪恨の歴史でも話してくれるのだろうか。

「2の呪い。雷打たれし者、呪恨の導き、天へ発つ」

 ギャル男の仙崎さんと神楽さんは息を飲んでいた。

そんな様子を翔太さんはジッと見ていた。

食後に新たなカップが置かれる事も無く、食器だけが片付けられた。

トイレに立ったりしてそれぞれが席を外す事はあったけれど、ここに来ても不審な点は見られなかった。

「3の呪い。霧見せられし者、呪恨の手引き、地へ落つる」

 和久津さんと生方さんは、ただ溜息をついていた。

それに激しい違和感を覚えた。

「4の呪い。雨浴びし者、呪恨を悔い、御闇に消ゆ」

 ただ玄関前の石版を話しただけかと、再び欠伸が漏れた。

「いつからあるんですか?」

 翔太さんも少しだけ眠そうにしていた。

「分かりません。私は館の主として、それを守るだけです」

「下らない」

「全くだ」

 それなのに、どうしてここに来たのだろうか。

それでも、ここに来る理由があったのですか?

眠いせいで少しだけ気を使わずに聞いてしまったみたいで、睨まれてしまった。


「なーんて冗談です。てへ」


 おどけて誤魔化せたかどうかは分からないけど、翔太さんが呆れたように私を見ていた。

「キャラ違……」



 呪いを開放して欲しいと思う一方で、翔太さんに防いで欲しいと思うのは、きっと私が葛藤しているからかもしれません。

どうか翔太さん。

恨まないで欲しいと切に願いました。

あの方が後押ししなければ。

きっと更なる悲劇が生まれるのですから。

連れて来られた家で、私は只管ヴァイオリンを弾きました。

気分が紛れるからです。

部屋の中は、私の記憶にあった通りの部屋でした。

ですがここは館ではありません。

どこなのかさえ分かりませんが、何となく匂いが違うと思いました。

私が好きな木犀の匂いとは違う、何かとても。

そう。

とても寂しい匂い。



 歴史さえ分からない呪いの伝承。

夕食の前に誰も俺の前に出なかった理由。

由佳と楓をここに呼ばなかった理由。

殺害方法。

両小指を絡め、手を口元に当て、考えろ。

食事の間にも不審な点は見当たらなかった。

であれば今夜か明日。

あまり時間は残されていない。

突然、視界が激しく歪んだ。

ふらつき、膝を突いた。

何だ、これ。

強烈な眠気にハッとする。

睡眠薬?

あれだけ注意しておいて?

華音ちゃんも平静を装いながらも、壁にもたれかかっていた。



 和久津蛍は部屋へ戻る最中だった。

そんな最中、突然襲われた強烈な眠気。

蛍はふらつき、壁に手を当てていた。

「何なの? この眠気……」

 そんな蛍に素早く忍び寄り、蛍の口元に布を当てる人影があった。

蛍の部屋に入った直後、階段を上って来る翔太と華音が来たのは、何と言う運命の悪戯だろうか。

気付く事無く、翔太達は自室へと入って行ったのだった。

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