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カノウコウチク~吉野翔太の怪事件ファイル~  作者: 広田香保里
怪8 呪恨館の宿命
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泥臭い捜査

 翔太は無事だろうか。

珍しく優子さんが休みの土曜日。

あたしは優子さんと過ごしていた。

普段のように楽しくおしゃべりしていたら良かったのかもしれなかった。

でも、あたしも知ってしまっている1人だから。

翔太から話を聞いたと優子さんは言った。

だからあたしは話した翔太を信じる。

「どうして黙ってたの?」

 一番の理由は、有村君の気持ちを汲みたかったから。

だって動機が何であれ、華音ちゃんは殺人者の妹。

奇跡的に回復して、その業を背負わせる事が正しいなんて、あたし達には思えなかった。

受け入れるなんて。

言うのは、本当に簡単だから。

だからそれを知っている人は少数の方が良かった。

だから翔太は話す事を拒んだ。

殺人者の妹になってしまうそれでも。

有村君は殺人を犯す道を選んだのだから。

そうしてしまった有村君の、たった1つの心残りを。

翔太は壊したくなかったのだから。

優子さんはただあたしを抱き締めた。

どうしてと思ったけど。

何だ。

あたしがボロボロ泣いてたんだ。

「そんな重い物抱え込んで」

 重くなんて無かった。

しがみついてたのはきっとあたし達。

だから翔太は二度と同じ事を繰り返したくないと思ってるし、いつでも有村君の事を思い出してる。

「年上はそんなに頼りない?」

 違うよ。

優子さん程頼れる人なんていない。

でも翔太の親友の想いと優子さんの信頼なんて比べられないよ。

「帰って来たらあのバカは殴っとく」

 優子さんの抱き締める力にも、きっと気持ちがこもってた。

「女の子を泣かせるような奴にした覚えは無いんだけどね」

 ……。

ありがとう。

優子さん。

でも翔太のせいだけじゃないですきっと。



 帰って来て即PCを立ち上げた。

由佳ちゃんにも協力して貰いたいと思い、電話を掛けた声はいつもと違っていたけれど、何かあったのかしら。

涙ぐんだような……は考え過ぎだろうか。

そんな事を考えている内に、8つのモニターが明るくなり、タスクを開始する。

モニターが8つだからと言って、PCが1つとは限らない。

世界中の犯罪を調べるには1つでは足りない。

由佳ちゃんがこちらへ向かっている間に、館について。

関わる人物について調べられるだけ調べ、何とかして翔太君へ伝えられるように。

スマホは圏外。

……何も起こっていない状況で、まるで事件が起こったかのような調査を行える訳もない。

どうしても後手に回ってしまう。

報告がいかに重要であるか、

致命的な問題に発展しない為の防御策に過ぎないのだけれど。

チャットメッセージの着信を告げる音が鳴る。

久遠に関わる事だけではない。

犯罪に関わるありとあらゆる事柄を調べて貰っている。

けれど、定時連絡の時間ではない筈。

何か動きがあったのかしらとチャットウィンドウを見て目を見開いた。


『MK : 調べようとしているのは君かな?』


 ……少し考えたら当たりがつくハンドルネームは、わざとそうして一瞬でこちらに分からせる為……と言う事ね?


『maple_blossom : 敢えて聞くけれど、どちら様かしら?』



 館の入り口から、翔太さんは隈なく見て回っていた。

狭い橋。

高い柵。

足跡無く広がっている雪原。

私が見る限り、いたって普通の景色。

ここがぽっかり穴の開いた中心に建っている事を除けば。

吹雪いてはいないけど、それでも大粒の雪に長時間は辛かった。

戻ってて良いよと言われたのに何故だろう。

そう言われてしまうと私が必要無いみたいに言われている気がして、戻るのを躊躇ってしまう。

私は石版を見ていた。

文字の間に雪が入り込み、全体の文字は白くなっていたけど不気味な事に変わりなかった。

呪いは4つ。

その内容が全て天気に関わるのが気になった。

私の隣に立ち、石版を見る翔太さんの表情から、きっと何も見つからなかったのだろう事が伺えた。

「秀介は、最後まで華音ちゃんの事を考えてた」

 意外だった。

翔太さんから話してくれるなんて。

……最後まで、私の事を考えていてくれて。

正直嬉しい。

「もし、華音ちゃんが今みたいに動けてたら、秀介を止めた?」

 私はきっと止めたと思いますと、嘘をついた。

翔太さんは少しだけ笑顔を見せ、両小指を絡め、手を口元に当てた。

考える時の仕草だと思うけど、妙な仕草だと思った。



 由佳と楓を招かなかったのは、殺人を防がれる可能性を無くす為。

まるで、防げるものなら防いでみろと言われているようだと思った。

1階の各階へ続くフロアには、烏の銅像。

……何だろう。

漠然とした違和感が過ぎった。

それに疑問はまだあった。

俺をここに呼んだ理由。

殺人予告を出しながら、俺達を殺人実行の為に必要なピースとして招くのが久遠のやり方。

だとしたら、俺達は既に、知らない所で久遠の殺人計画を遂行させられれてるのかと思うと、一刻も早く何か手を打たないとまずい。

スマホは圏外。

廊下も隈なく調べる。

特に何も無いのが焦りを生んだ。

窓から見えるのは中庭だろうか。

廊下の途中にある窓を開け、見えたのは何もない。

ただ雪が降り積もるだけの美しい空間だった。

見渡す限り、草木も何も無い。

ここに仕掛けをするのは不可能。

各部屋は後で調べて回るとして。

最後に1階の食堂も調べて見る事にした。



『MK : 桜庭楓だね?』

 聞く手間が省けたけれど、元から隠すつもりも無かったのだろう。

『maple_blossom : 正義、久遠と言う事で良いのかしら?』

『MK : その立場に溺れる事無く、使えるネットワーク、資産、そして人脈を用いて悪を秘密裏に排除。或いは犯罪の防止。賞賛されるべき行動だ』

『maple_blossom : ありがとう。貴方が犯罪を止めて下さるならもっと良いのだけれど?』

 目的は何?

私に直接コンタクトを取って、何をするつもりなのか。

扉のノックと同時に振り向いた。

いつの間にか煙草の灰が灰皿へと落ちていた。

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